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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
282/1111

5-27 引率7

その後、無事買い物を済ませた悠達は今度は宿を探しに街中へとやって来ていた。相変わらず肩の上には明が居座っており、両腕には子供達を4人ぶら下げているが、悠に疲れた様子は見られなかった。――例え疲れていても表情に出す様な事はあり得ないが。


「あの・・・重くないですか?」


しかし他人の目からは大変そうに見えるのも確かであった。いくら一人一人が軽くても、5人も抱えていればその総重量は100キロ前後にはなるのだ。リーンの目にはまだ悠が普通に歩けている方が信じられなかった。


「大丈夫だ。先ほどは交渉を手伝ってくれて助かった」


「いえ、せめてこの位はさせて下さい」


今悠の側には子供達とリーンの他にビリーやミリー、そしてリーンと打ち解けた他の子供達も固まって歩いている。リーンの裏表の無い善性に女性陣も矛を収めたのだった。


それにはここに居る皆が孤児であると告げた事も一役買っている。孤児同士、親の居ない寂しさという共通点を見出した一同と心理的な距離が縮まるのは早かった。特に恵とは気が合うらしく、2人で食材に関わる議論を熱く展開させ、良質で使いでのある食材をかなり多く仕入れる事が出来た。


リーンは王都出身であるので顔見知りのコネもフル活用して値段を押さえ、それは量が量だけにかなりのコスト削減に繋がっていた。そのお陰でリーンも何とか『治癒薬ポーション』の分は恩返し出来たと思い、気分が軽くなっていたのだ。・・・実際はまだまるで足りていないのだが、そんな事を指摘して水を差す様な真似を悠がするはずも無い。


「今から案内する宿屋さんは、ちょっと前だと治安が少し心配な場所にあったんですけど、今噂の義賊、『鬼面』のラクシャス様のご活躍のお陰で子供がかどわかされたりしなくなっていますから穴場なんです。建物も大きいですし、お料理も美味しいですよ?」


「ああ、そうなのか。そのラクシャスという人物に感謝せねばならんな」


シラッと語る悠の顔から情報を読み取るのは凄腕のギャンブラーであろうとも不可能なので、誰もその事には気付かない。そもそも悠=ラクシャスの構図を知っているのはローラン、アイオーン、コロッサス、サロメ、ベロウ、ビリー、ミリーの7名だけなのだ。別に特に秘密にしている訳では無いが、子供達もまだ悠がラクシャスである事は知らない。


悠の言葉を聞いたビリーとミリーは顔を見合わせて共犯者の笑みを交わした。


「いや、ラクシャスって御仁は素晴らしい人ですね。街でも噂が尽きないみたいでしたし、一切お金も受け取らないんでしょう? 正に男の中の男ですよ!」


「そうね、兄さん。私も是非一度お会いしたいわ。まだ王都にいらっしゃるのかしら?」


「案外近くに居るかもしれないぞ?」


「ギルド長のコロッサス様と懇意であるという噂もありますから、案外本当にまだラクシャス様もいらっしゃるかもしれませんね」


当のラクシャスの隣で本人と話しているとは露にも思わず、リーンの口も滑らかに動いていた。悠としてはこれ以上自分の口で自分の事を褒めるのは自画自賛の様に思えて口を閉ざすしかなかったが、それを知らない年少組はその話に乗って来た。


「なー、ゆうせんせーよりはつよくないよな?」


「うーん・・・ぼく、見たことないからわかんないよ。でもゆうせんせいがいちばんだとおもう」


「おにいちゃんがいちばんにきまってるもん!!」


「というか、あんがいゆう先生がラクシャスさんだったりして」


「も~、そんなわけないよ~」


そう言って笑う子供達が最も真実に近い事はビリーとミリー、そして悠以外には分からないのだった。








「ここがその宿屋さんです。入りましょう」


目的の宿は職人街の近くにあった。流石に職人街にあった双竜亭よりは大分綺麗で建物自体も大きく、通りには一般人の姿も多く見受けられ、治安の心配もあまり無さそうだ。


中は一階がロビー兼食堂になっていて、夜には酒場にもなる様だ。昼も大分過ぎたこの時間に飲食をしている人間は殆ど居なかったが、ロビー内はそれなりの数の客で賑わっていた。


「明日の合同訓練に参加する為に王国中から結構沢山の冒険者の人達が来ているみたいですね」


リーンの言葉通り、賑わう人々は鎧を纏っていたり、腰や背中に武器を携帯している者が多く見られた。それだけ明日の訓練に参加したいと思っている人間が多いという事だろう。


「思ったより多いわ・・・大丈夫かな?」




「俺が交渉するよ」




人ごみを乗り越えられずに居たリーンの後ろから声が掛かり、振り返るとそこには少し不機嫌そうなジオが立っていた。


「ジオ?」


「頼んでくれたリーンが働いてるのに、恩を受けた俺達がいつまでもふて腐れている訳にも行かないだろ? おい、これで貸し借りは無しだからな?」


「お手並み拝見といこう」


「チッ、言ってろ!!」


そう言い捨ててジオは人の合間を縫ってカウンターへと近づいて行った。そしていざ交渉を始めようとした所で宿の主人と話している男性に気付き、背筋を伸ばした。


「あっ、メロウズさん!! お疲れ様です!!」


「ん、ああ、ジオじゃないか。どうして宿に来てるんだ? お前さん達は家も持ってるだろ?」


「その節はお世話になりました!! 実はですね、あそこに居るデカブツと連れの部屋を世話してやる事になりましてちょっと交渉を・・・」


「ハハハ、面倒見がいいな、お前も。どれどれ・・・どわぁっ!?」


そこに悠の姿を見つけたメロウズは思わず仰け反ってカウンターに寄り掛かった。


「め、メロウズさん?」


「あ、い、いや、何でもない! 目の前を虫が通り過ぎたモンでな、ハハハ・・・」


顔ではポーカーフェイスを維持しながらも、メロウズの背中に大量の汗が浮き始めた。実はこの宿はメロウズのファミリーが仕切っている宿の一つであり、今日は近くへ出かけるついでにメロウズが直々に視察と集金を兼ねてこの場にやって来ていたのだ。バラックが居た頃から才気を見せていたメロウズの手腕には宿の主人の覚えも良く、ファミリーが新しくなった後もこうして付き合いを続けていた。


(な、何でアイツは俺の居る所に現れるんだよ!!)


メロウズは内心でそんな事を思っていたが、別に悠が選んだ宿屋では無いので仕方が無い。そもそも宿に泊まると決めた時点で何軒か宿を経営しているメロウズの宿に入る可能性はあったので、言ってしまえば今ここに居たメロウズの運が悪かったとしか言い様が無いのだ。


「はぁ? ・・・あ、それでですね、どうでしょうか? ちょっと客が多い様に見えますが、部屋は用意して貰えそうですか?」


「あ、ああ、ちょっと待ってろよ? おい、オヤジ・・・」


宿の主人を引っ張ってメロウズはこっそりと交渉を始めた。


(オヤジ、今すぐ部屋を用意しろ! この宿で一番いいクラスの部屋を全部確保しておいてくれ! 使わなかった部屋に関してもうちのファミリーで宿代は持つ!! なんなら他の空き部屋も全部確保しても構わねえ!!)


(は? あの、いいんですか? 私としましては構いませんが・・・)


(いいんだ! あのノッポは今売り出し中の『戦塵』のユウだ!! ギルド長のコロッサスやフェルゼニアス公爵の覚えも目出度い大物なんだ!! いいか? 絶対に奴に他の冒険者を絡ませるなよ!? トラブルを起こしそうな奴の宿泊も全部断ってくれ!! 下手すりゃこの宿が戦場に・・・いや、処刑場になっちまうぞ!!)


メロウズの言葉に笑おうとした主人はその目が掛け値無しの本音を語っている事を長年の客商売の経験から悟り、頬をヒクつかせて慌てて頷いた。


(それと、宿代も半額にしてやってくれ。メシ代もこっちで持つ。不足分は全部こっちに請求を回すんだ!! くれぐれも頼むぜ!?)


(わ、分かりました、心します)


そこまで交渉を纏めた所でメロウズはもう一度しっかりとポーカーフェイスを纏ってジオの所に戻って行った。


「ようジオ、交渉は纏まったぜ。幾つ部屋が必要なんだ?」


「あ、ありがとうございます、メロウズさん! えっと・・・」


「部屋は子供が7人泊まれる部屋が1つと3人部屋が1つ、大人が泊まれる部屋を4つ頼む」


悠は子供達が男女に分かれて泊まれる大部屋と中部屋を一つずつと、大人用の個室を4つ注文した。


「ええと・・・はい、ございます。宿代は金貨2・・・いえ、金貨1枚ですが宜しいですか?」


本来の金額を告げ掛けた主人は慌てて金額を切り下げて悠に伝え直した。本来は大部屋が金貨1枚、中部屋が銀貨6枚、個室がそれぞれ銀貨1枚の計金貨2枚なのだが、メロウズが半分払ってくれるので金貨1枚なのだ。


「構わない。食事は何時からだ?」


「それぞれ朝の鐘(午前6時)、昼の鐘(正午)、夜の鐘(午後6時)です」


「ジオ、食事の分は俺が奢っておいてやるからよ、お前らも今日はここで食っていきな」


「本当ですか!? ありがとうございます!! ・・・おい、感謝しろよ、俺が交渉したからメシ代がタダになったんだからな!!」


「そうだな、感謝しよう」


ジオの悠への言葉遣いに思わず肝を冷やしたメロウズだったが、当の悠が何も言わないのだからととりあえず何も言わずにおいた。・・・火薬庫の隣で火遊びをする子供を見つけた様な気分だったが。


「へへ、どうだリーン、俺の交渉で上手く行ったんだぜ?」


「ありがとう、ジオ。ジオが居てくれて助かったわ」


「あ・・・ハハ、こ、この位なんて事ないって!!」


少し顔を赤くして手を振るジオだったが、当然の事ながらジオが居たから安くなったのでは無く、悠が居たからこそなのだが、少年の自尊心を傷付ける様な真似をする者が居なかったのはジオにとって幸いであった。


「ではこちらが部屋の鍵でございます。お部屋は最上階ですので、ごゆっくりどうぞ」


「うむ。では各自荷物を部屋に置いてここに集まってくれ。少し街を見て回ろうか」


「「「はい!!」」」


「良かったらまた私がご案内しますよ?」


「そうか? ならば少々ここで待っていてくれ」


皆に鍵を渡している時にそう提案された悠がリーンに頷くと、これでリーンが解放されると思っていたジオが顔を顰めたが、リーンに見られる前に慌てて表情を取り繕った。


そうして悠達は新たなメンバーを加えて再び街へと繰り出して行ったのだった。


何故か仕様変更があってから小説が勝手に完結済みになっていて、次話投稿ボタンが無くなっていて大慌てしました。まだ完結してないよ!!


これを見ている人の自分の小説は大丈夫ですか?

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