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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
281/1111

5-26 引率6

「あっ、ユウ兄さん」


「ご苦労だった、ミリー。リーン、2人の治療は済んだが、今日1日は激しい運動は控える様に注意してくれ。明日には良くなっていよう」


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!! そ、それで・・・その・・・お、お代を・・・」


パッと顔を綻ばせたリーンの顔が急速に紅潮し、体の前で手をモジモジさせながら申し出たが、悠は小さく首を振った。


「俺が君を助けたのは君が真実あの2人の為に無私の義を成そうとしたからだ。子供から小金をせびる為では無い」


「で、でも、高価なお薬を・・・何とか分割ででもお返しを・・・」


リーンは誤解しているが、悠が使ったのは『下位治癒薬マイナーポーション』では無く『中位治癒薬ミドルポーション』2本であり、金額も金貨2枚では無く金貨40枚だ。『簡易治癒ライトヒール』の分を差し引いてもリーンが真っ当な手段で払える様な額では無かった。金額を偽って告げても、サティやジオの口から薬の効果を聞けば、それが『下位治癒薬』では無い事にすぐに気付いてしまうだろう。


だが施されるばかりではリーンの負い目は大きいだろうと思った悠はどうするべきか考え始めた。そしてこれからの自分達の行動から解を導き出す。


「俺達はこれから買い物と宿探しをせねばならんのだが、それを手伝ってくれないか? この人数が泊まれる宿と、質のいい食材が大量に購入出来る場所を案内して欲しいのだが?」


「ハイ!! お任せ下さい!!」


リーンは自分に出来る事があると知って嬉しそうに返事をした。


「私、一応王都に暮らしていますので、ご案内出来ると思います。あっ、でもジオの足が・・・」




「大丈夫だ、リーン」




そこに訓練場からジオとサティが出て来てリーンの言葉を訂正した。


「ジオ!? もう歩いても大丈夫なの!?」


「ああ、力を入れるとまだ痛いけど、歩く分には問題無いよ」


「明日までには何とかなりそうだわ」


「良かった!! これもユウさんのお陰ね!!」


嬉しそうなリーンを見て、悠に言いにくそうに礼を述べようとしていたジオの口が強張った。そして悠の見下した冷たい視線に――これはジオの邪推なのだが――益々ジオの感情は拗れ、結局憎まれ口にしかならなかった。


「い、一応感謝してやるけど、別にアンタが偉いんじゃ無くて薬が効いただけだからな!!」


「ジオ!? せっかくお薬を譲ってくれたユウさんに何て事を言うの!!」


リーンが目を三角にしてジオの態度を怒ったが、ジオはそっぽを向いて口をへの字に曲げたまま返事もしなかった。


そんなジオを目にしてサティも態度を決めかねて複雑な表情で黙っていた。


「その通りだ。だが薬に頼らないつもりなら応急処置くらいは覚えておけ。冒険者たる者、危機管理は自己責任だ」


「ぐっ!?」


だが子供がむくれた程度で下手に出る悠では無く、厳しい指摘にジオは唸った。結果としてますますヘソを曲げてしまう。


「ジオ! ・・・もう!! 行きましょうユウさん!!」


態度の改まらないジオに業を煮やしたリーンも怒ってユウの手を取り、サティとジオを残して悠を引っ張って歩き出した。


自然に悠の片側を「占領」された樹里亜、神奈、恵が痛恨の表情を浮かべたが、それよりも激しく動揺したのはジオだった。


「り、リーン!! 何してんだよ!? ・・・あっ!! ま、まさかこれからソイツと・・・」


薬の代金としてリーンが言った言葉を思い出し青くなるジオにリーンが怒鳴り返した。


「邪推しないで!! 私はこれからユウさんの買い物のお手伝いをしてくるの!! ジオとサティは先に帰ってて!!」


相当腹に据えかねたらしいリーンは先ほどまでの弱々しい態度もかなぐり捨て、悠の手を抱え込んでそのままギルドから出て行ってしまった。悠も悪意の無い少女を手荒に扱う訳には行かず、ビリーに荷物と釣り銭を受け取る事を頼んで共に出て行く。


子供達もそれに遅れじと悠に付いて行き、その場にはビリーとジオ、サティだけが残される。


呆然と立ち尽くすジオを見かねてビリーが荷物と釣り銭を受け取りながら口を挟んだ。


「なぁ、君、付いて行ってやりなよ。リーンちゃんも頭が冷えた時、側に知り合いが居ないのは心細いと思うよ?」


努めて優しい口調を心掛けて話すビリーの言葉に我に返ったジオはサティの手を取って慌てて後を追ったが、ピタリと止まって振り返り、ビリーに僅かに頭を下げた。サティもジオより少しだけ大きく頭を下げ、2人は連れ立ってギルドから出て行った。


「素直なのか、素直じゃ無いのか。ま、お年頃って事なのかね?」


「ビリーさん、オジサン臭いですよ、そのセリフ」


クスクスと笑うエリーの言葉に盛大に顔を顰めるビリーだった。








「もう・・・! ジオったら、もう!!」


未だ興奮が冷めやらぬリーンに導かれて、悠は昼下がりの王都をズンズンと歩いて行った。だがいつまでも怒りという物は持続する物では無く、徐々に冷えて来た頭ではたと今の状況を振り返る余裕が出来、今度は違う理由で赤面し始めた。


リーンは悠の腕を抱え込む様にして引っ張って来た。つまりリーンの慎ましやかな胸には悠の手が強く押し付けられている。体温すら伝わる密着ぶりにようやく気付いたリーンはパッと悠から離れて頭を下げた。


「す、すいません!! わ、私、ちょっと熱くなってしまってユウさんにご迷惑を・・・!」


「落ち着いたのなら構わんよ。目的地はまだ先か?」


平謝りするリーンの意識を別の所に向けようと、悠は事務的な事柄で話題を変えた。


「えっと・・・もう少し先です。その角を曲がってしばらく行くと食材を扱っている市場がありますから。量によっては個人のお店より問屋さんを利用した方がいいと思います」


「そうか。地理に明るいようだが、リーンは王都の出身なのか?」


「はい。と言っても親は2年前に他界して天涯孤独の身ですけど・・・」


少し顔に影が差したが、すぐにそれを振り払ってリーンは続けた。


「でも幼馴染のジオとサティがどうしていいか分からなかった私を冒険者に誘ってくれて・・・2人が居なかったら、私は今頃どうなっていたか・・・。だから2人にはとても感謝しているんです」


「そうか、ならば早く仲直りをせんといかんな。心配して付いて来ているぞ」


「え? ・・・あ、ジオ、サティも」


悠が視線をチラリと送った方向を見ると、見覚えのある頭が慌てて引っ込むのが見えた。


「ふふふ、2人共尾行が下手なんだから。・・・でももうしばらくは口を聞いてあげないんです。せっかく治療して下さったユウさんにあんな失礼な態度を取るんですもん」


「思っていても素直に行動出来ない時はある。それだけ2人共リーンの事を心配しているのだろう」


「ユウさん・・・はい」


胸にほんのりと温かさを感じてリーンは顔を緩めた。最初はあんなに恐れていた悠が、今では近くに居てもまるで苦痛に感じないのは、人見知りをするリーンにはとても不思議な事に思えた。


内容はともかく、口調には感情は感じられないし、表情は更に感情の欠片も読み取る事が出来ないのだが、その目を見ていると胸の中に爽やかな風が吹く様な気分をリーンは感じていた。


そうして悠に笑い掛けるリーンを見る複雑な顔がいくつかあった。




「・・・ち、ちょっと悠先生にくっつき過ぎなんじゃないかなあ!!」


「我慢しなさい、神奈。・・・・・・私だって我慢してるんだから」


「いいなぁ・・・私も悠さんと手を繋いで王都で休日デートを・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「ま、瞬きくらいしなさいよソーナ!!」




と、悠と談笑するリーンを見る女性陣と、そのまた後方で見る2人組である。




「ああっ、り、リーンの奴、あんなに嬉しそうに・・・!! くっ、アイツ、上手くリーンに取り入りやがって!!」


(殆ど無償で助けてくれたんだからリーンの性格から言って恩義を感じるのは当然でしょうに。・・・それに何よ、リーンリーンってさ!!)




ジオは油断するとすぐに陰から体がはみ出してしまい、リーンの視線が近付くと慌てて引っ込めるという事を繰り返していた。一緒に居る自分に全く注意が向かないのは、サティとしても面白く無い。


そんな複雑な感情とは無縁なのは初めて街に出た年少組だった。




「へー、見たことないもんがいっぱいあらぁ」


「あ、この花なんだろ? くんくん・・・わっ、あまずっぱいにおいがする!!」


「わ~、やたいがいっぱい~」


「どこ行くのよかぐら! 今ごはん食べたばっかりじゃないの!!」


「おーい、あんまり離れるなー!」


「結構大きい街だね、迷子になると探すのが大変そうだ」


「うん、わたしたちも気を付けよ?」




あちこちに視線を漂わせ、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら存分に好奇心を満たしている。それを監督するビリーは若干疲れ気味であった。常識人の智樹と小雪も一緒に子供達がどこかに行かないか注意を払っている。


そして最強はやはり空気を読まない人間であった。


「ゆうおにいちゃーん!! めい、ひさしぶりにかたぐるまをしてほしいです!!」


「ふむ、よかろう」


悠が屈むと手馴れた様子で明は悠の肩に飛び乗った。


「おー、いいながめですりゅうしょうかっか!!」


「残念だが俺はもう竜将では無いな」


「うふ、可愛い。あなたのお名前は何て言うの?」


「めいはたかなしめいです! ろくさいです!!」


「タカナ・・・? メイちゃん、でいいのかな?」


「うん!! おねえちゃんは?」


「私はリーンよ、よろしくね、メイちゃん?」


「よろしくであります!!」


見様見真似の敬礼を送って返事をする明に笑い返して、一瞬で仲良くなったリーンと明、そして悠はそのまま市場まで向かったのだった。

ジオには密偵の才能は無いようです。一方通行の甘酸っぱい三角関係とか青春ですよね・・・

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