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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
277/1111

5-22 引率2

「・・・あの、ユウさん?」


カウンターに着いた悠の対応に当たるのは当然の如くエリーであった。他のギルド職員は目も合わせようとしないので仕方が無い。


「何だ?」


悠の凪いだ瞳に、エリーはギルド内で暴れない様にという警告が自分の中で霧散していくのを感じていた。悠が殺意を持って暴れれば冗談抜きでこの建物自体使い物にならなくなっていただろうし、今の一幕のお蔭で浮足立っていたギルドも平常通りと言える状態を取り戻していたからだ。・・・床に這いつくばって必死に自分の汚物を清掃する冒険者の姿はあるが。


エリーも何度か注意したのだが、口頭での注意を聞く様な物分かりのいい者など居らず、そろそろサロメかコロッサス直々に注意を促して貰おうかと考えていた所だった。今ではエリーも力こそが物を言う場面もあると割り切り始めていたのだ。


「・・・いえ、何でもありません。それで、今日はどういったご用件ですか?」


後ろに控える子供達を認識しながらも、一応エリーは悠に用件を尋ねた。


「うむ、今日はこの子達の冒険者登録を頼みたいのだ。・・・明日、エリーに頼む子達でもある」


後半のセリフをエリーにだけ聞こえる様に言った悠の言葉でエリーは子供達が『異邦人マレビト』である事を悟った。


「分かりました、ではこちらの書類に名前を書いて貰えますか? ・・・下の名前だけでいいですから」


だからエリーも後半部分を悠にだけ聞こえる大きさで記入を促す。


それに目礼で答えて悠は受け取った登録用紙を子供達に配った。


「皆、この紙に必要な事を書いてくれ。ビリー、ミリー、書き方を教えてやってくれ」


「分かりました!」


「じゃあ女の子と男の子に分かれましょう。女の子はこっちに来てね?」


ビリーが男の子を担当し、ミリーが女の子を担当すると決まり、それぞれに分かれて冒険者の心得などを聞きつつ記入していった。


「そう言えば、戦闘試験があるんじゃないか?」


「ええ、でも年齢が低いと余程の実力が無い限りはランクはⅠ(ファースト)からですので、受けなくても構いませんよ?」


「ふむ・・・この中で多少は戦えるとなると・・・神奈、樹里亜」


「はい!!」


「お呼びですか?」


悠が呼び掛けると、既に記入を済ませていた神奈と樹里亜が側までやって来た。


「お前達2人は戦闘の経験がある。特に神奈は現時点でも並みの冒険者以上の事は出来るだろう。一足先に戦闘試験を受けておくか?」


「受けます!!」


「そうですね・・・最初から少しでもランクを上げておけばお金を稼ぐのも楽になりますし・・・私も受けます」


戦闘と聞いて即答する神奈と今後を考えて頷く樹里亜に悠も頷きを返した。


「では2人の戦闘試験を申し込んでおく。エリー、試験官はコロッサスの他にも居るのか?」


「というより、ギルド長がやる事自体が稀なんですよ? 普通はギルド内に居る、ギルドの信任の厚い冒険者に依頼として頼みます。でも・・・」


エリーが冒険者達の方を覗き込むと、こちらを窺っていた冒険者達は慌てて目を逸らした。悠の庇護する子供達と試験をして怪我でもさせたらどんな報復があるか分からないと考えたからだ。


「困りましたね・・・頼める人が居ません」


「じゃあここは俺の出番って事でいいよな、エリー?」


「えっ!?」


突然の声にエリーが後ろを振り向くと、そこには悪戯っぽい笑みを浮かべるコロッサスがいつの間にか立っていた。


「こんな面白そ――大切な時には俺を呼べよ、エリー」


「・・・本音が漏れてますよ、ギルド長?」


「ハハハ、まぁいいだろ? ユウ達にゃ身内の試験官はさせられねぇし、他の奴らは頼りにならねぇんなら俺がやるのが適任さ」


「もう・・・じゃあ真面目にやって下さいね?」


コロッサスは片方だけ見えている目をパチリと閉じて了承の意を返した。


「それじゃ戦闘試験を受ける奴はこっちに来てくれ。・・・えーと、名前は?」


「あたしは神奈だ!!」


「失礼よ、神奈? 私は樹里亜です、よろしくお願いします」


「元気があるのはいい事さ。それじゃ、カンナにジュリア、戦闘試験を始めるぞ?」


「「はい!」」


そうして2人はコロッサスの後に付いて行き、悠とバローもそれに続いた。


「ビリー、ミリー、子供達の事を頼む。金はもうエリーに払ってあるから少し待っていてくれ」


「はい、分かりま――」


「まった!! おれもカンナねーちゃんがかいぞくのオッサンとたたかうの見たい!!」


「そ、そんなこと言っちゃダメだよきょうすけくん! ・・・ぼくもちょっと思ったけど・・・」


「か、海賊のオッサンってもしかして俺の事か・・・?」


京介の言葉に地味にショックを受けているコロッサスだったが、ベロウがフォローを入れた。


「おいおい、このオッサンは一応このギルドで一番偉いオッサンなんだぞ? いくら怪しげなオッサンだからってオッサンオッサン言っちゃ可哀想だろ? コロッサスだって好きでオッサンになったワケじゃねぇんだ。だからオッサンにはオッサンて言わない様に・・・」


「お前が一番オッサンオッサンうるせぇんだよ!!!」


堪忍袋の緒が切れたコロッサスが猛然とベロウに食って掛かり、ベロウは「いけね!」といったセリフが頭に浮かぶ様な表情で口を押さえた。


「では見学したい者は付いて来る様に。試験中は静かにな?」


「「「はーい!!」」」


「・・・こっちはこっちで長閑な匂いさせやがって・・・はぁ、もういい、好きにしろよ」


我関せずと子供達に注意する悠に毒気を抜かれたコロッサスはトボトボと訓練場に歩き去って行った。


結局、全員で見学する事になった悠達もそれに続いて歩き去ると、ギルド内には誰と示し合わせた訳でも無いのに、皆揃って大きな溜息を付いたのだった。








「おーし、まずはジュリアからだ。掛かって来な」


「はい、行きます!」


訓練場にやって来た一行は早速戦闘試験に入った。コロッサスは刃引きの剣を構え、樹里亜は細身のスピアを構えている。


樹里亜は元の世界では何の武術の心得も無かったので、なるべく遠くから攻撃出来る武器を選んだ。硬質系で敵の攻撃を防ぎ、怯んだ隙に突くという地味な戦い方だったが、その手堅さでこれまで生き延びて来たのだ。


しかし普通に戦うなら樹里亜とコロッサスの相性はかなり悪い。コロッサスも待ちを主体とした戦い方を得意としており、同じ後の先を狙う戦い方でも、樹里亜ではコロッサスの速さに付いては行けないだろう。


そこで悠は勝てないまでもコロッサスに実力を見せる事が出来る様に、樹里亜に戦闘前に耳打ちしていた。


悠の言った作戦を実行すべく、樹里亜はまず大きく飛び込んでコロッサスの足元を槍で薙ぎ払った。


「やぁっ!」


半年の間鍛えただけあって、それはそこそこに速い一撃であったが、当然コロッサスを捉えられる様な一撃では無かった。


「おっと」


軽く飛び上がって回避したコロッサスはそのまま樹里亜の頭上から剣を振り下ろす。残念ながらこれで終わりかなと思ったコロッサスの手に堅い手応えが返って来たのはその瞬間であった。


「おっ!?」


それは樹里亜の頭を打った手応えでは無く、その手前で起こった物だ。コロッサスほどの使い手であれば、それが何なのかは瞬時に判断出来た。


「結界の使い手か!?」


「ハッ!!」


驚くコロッサスに樹里亜の本命の一撃が迫った。樹里亜は最初からこの一撃を放つ為にワザと回避前提で薙ぎ払いを放ち、コロッサスの攻撃を頭上からに限定したのだ。薙ぎ払いを放つ前から魔法を構築し、そして呪文を唱えないからこそコロッサスもそれに気付かなかった。


普通の相手なら樹里亜の一撃は決まっていただろうが、そこは流石にコロッサスであり、迫る樹里亜の槍を空中に居ながらにして掴み取ってみせた。


「あっ!?」


「速度と重さが足らねぇな。でも結界は意表を突かれたぜ? もうちょっと鍛えればいい冒険者になるよ、ジュリアは」


コロッサスの重さに耐えかねて槍を手放してしまったジュリアの顔の正面に、奪われた槍の石突きが突き付けられた。


「・・・参りました、流石はギルド長ですね」


力を出し切ったと実感出来た樹里亜は少し悔しそうな顔をしながらも潔く降参を口にした。


「ま、そう簡単には負けられねぇのさ。お前さんの保護者には俺も随分悔しい思いをさせられてるんでね。ジュリアはⅢ(サード)から始めな」


「ありがとうございました」


コロッサスの言葉に樹里亜は頭を下げて悠の下へと戻って来た。


「よくやったな、樹里亜」


「いえ、もっと鍛えないとダメですね。皆の足手纏いになってしまわない様に」


あくまで高い志を崩さない樹里亜の頭に手を乗せて労いながら、悠は戦闘準備をする神奈に目を向けた。


「神奈、精一杯やって来い。だが、やり過ぎない様にな」


「はい、悠先生!!」


その激励に神奈は気合十分で勇ましくコロッサスの方へと歩いて行ったのだった。

樹里亜はどうしても現時点ではコロッサスには勝てませんね。樹里亜の力はあくまで鍛えた同世代の女性に準拠しますので。


ただ、今後の修行でまた違った戦い方を見せて行くつもりです。

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