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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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閑話3 鬼を喰う鬼3

時は悠がギルドを訪れた日まで遡る。


悠は別れる際ににコロッサスに2、3言付けると、サロメから資料と本を受け取ってギルドを後にした。その際に街を大きく離れる依頼を受けて置く事も忘れずに行っておく。


悠はそのままミーノスを後にして採取などの依頼をこなしつつ夜を待った。


《そろそろ完全に日も落ちるわ、ユウ》


「そうだな、では着替えてミーノスに戻るぞ。こっそりな」


悠は隠密行動の為に恵に用意して貰った黒い服に着替え、顔に鬼を模したと思われる仮面を装着した。この仮面はローランの父親の収集品の一つで、悠がローランに頼んで入手した物だ。


《最初はそんな仮面を何に使うのかと思ったけど、中々雰囲気が出てるわね》


「正体さえバレなければ何だって構わんがな。後は靴を履き替えてしまえば俺だという証拠は無かろう」


龍鉄の靴を脱いで柔らかい素材の靴に履き替えた悠は、仕上げに刃を黒く焼いた短剣ダガーを腰帯の後ろに2本差し込んだ。


《いい変装だわ。やっぱり義賊はこうでなくっちゃ》


完璧な義賊スタイルにレイラが満足そうな声を漏らした。アーヴェルカインに来てから気が付いた事だが、レイラはいわゆるお約束や様式美といった物を大切にするタイプらしい。


悠は『竜騎士』に変身すると、そのまま飛んでミーノスへと帰還した。この様な手段を使わなければ一日では戻れない場所の依頼をワザと受けたのは、これから王都で暗躍する鬼面の義賊が悠では無いとするアリバイ工作の為である。


《あ、ユウ、大切な事を忘れていたわ! 名前よ名前! 義賊ならそれらしい名前を名乗らないと!》


どこまでもお約束を踏襲する気らしいレイラがミーノスに着く直前にそんな事を言い始めた。


「と言ってもな・・・俺には特に思い付かんのだが?」


《じゃあ私が考えてあげる。・・・そうね、鬼の面をつけているんだから、何か鬼にちなんだ名前がいいわよね・・・》


それからしばらくレイラはああでもない、こうでもないと頭を捻っていたが、遂にピンと来る名前を一つ導き出した。


羅刹ラクシャス!! 鬼を退治する鬼ラクシャス!! これで行きましょう、ユウ!!》


「・・・まぁ、俺は何でも構わん。ではこの鬼面を被っている間は俺はラクシャスだ。レイラ、その間は話し掛ける時は『心通話テレパシー』で行ってくれ。それと、緊急の時を除いてリュウの力も使わん。誰かに見られれば、俺だとバレる可能性があるからな」


《当然ね。鬼面の義賊ラクシャスは人間離れした身体能力で悪人を誅する正体不明の怪人なんだから!》


レイラの中ではその様に設定されているらしい。


「では行くぞ。まずはメロウズのメモの一番下から片づける」


そう言って悠は夜陰に紛れて王都の城壁を飛び越え、人気の無い場所へと降下して行った。








(予定ではそろそろだな・・・)


コロッサスは夜も深まる時刻、自分の執務室では無く、表のギルドの方へと顔を出していた。表向きは今日大量に売れた商品の在庫の確認や新たな商品の運び込みなどの手伝いという名目であったが、本当の目的はそんな事では無い。


そもそも商品の確認などの事務仕事はサロメに任せておけば済む事であるし、運び込みなどはギルド職員の仕事であってコロッサスがやるほどの仕事では無い。その事を疑問に思う職員も確かに居たのだが、コロッサスが「サロメに仕事を手伝えと言われた」と説明すると職員達は納得顔で引き下がった。コロッサスとサロメの力関係は既にギルド内でも周知されていたからこそだが、それはそれでコロッサスには納得がいかないのだった。


そんな益体も無い事を考えていたコロッサスの耳にギルドの扉が乱暴に開かれる音が響いた。続いて床に何かが叩き付けられる音が数回、ギルド内に響く。


「何だ?」


コロッサスが手を止めてそちらに向かうと、そこには数人の男達が床を舐めており、パッと見ただけでも叩きのめされて引きずられて来た事が見て取れた。そしてその男達の後ろには、ある種の異様な風貌を持った人間が静かに立っている。――鬼の仮面を被って正体を隠した悠である。


「・・・何者だ、お前」


それを見たコロッサスの手が腰の剣に添えられる。ギルド長の剣呑な雰囲気に残っていた冒険者や職員がざわめき出したが、悠は余計な言葉は発さずにただ床に這いつくばる男達を指差した。


「・・・? む、こいつらは賞金首の・・・!」


コロッサスがそれを理解したと確認した悠は踵を返して立ち去り掛けたが、それを見たコロッサスが慌てて悠を呼び止めた。


「お、おい!! 賞金は受け取って行かねぇのか!? それとお前の名は!?」


(ユウ、ここは簡潔に目的と名前だけ言って立ち去る場面よ?)


(ああ、分かった)


レイラのアドバイスを受けた悠はチラリとコロッサスを振り返り、鬼面でくぐもった声で告げた。


「・・・賞金は貧しい民衆の為に使ってくれ。俺の名はラクシャス、鬼面のラクシャスだ。・・・また明後日、同じ時刻に来る」


そう言ってラクシャス(悠)はそのままギルドの外へと出て行った。


「あ、ちょっと待てよ!!」


慌ててそれを追いかけたコロッサスだったが、外に出た時、もう既にラクシャス(悠)の姿はどこにも見当たらなかった。


「・・・そうか、変装して暴れるっていう手があったか・・・」


コロッサスの呟きは小さく、誰にも聞かれる事は無かったのであった。




それから決まった時間にラクシャス(悠)はギルドに賞金首を送り届け続けた。特に2回目は2つのファミリーのボスを仲良く縛って叩き込み、ギルドを騒然とさせた。


瞬く間に4つのファミリーが壊滅し、更にその賞金をコロッサスがラクシャスの意向通り「治安の向上と貧民の救済」に充てると発表した事でラクシャスの評判はうなぎ上りとなっていった。


そして遂に残った凶悪ファミリーのジョナス、コッコス、ガストラらが突き出されるに当たり、ラクシャスの人気は最高潮に達した。その際、これまでは人前に殆ど姿を見せなかったラクシャスが捕縛したジョナス、コッコス、ガストラを連行して街を練り歩いた時など、周囲を囲む民衆からラクシャスの名が連呼され、止めようとした警備兵が逆に民衆に押し止められるなどといった事態にまで発展した。


多くの民衆を引き連れて再びギルドに姿を現したラクシャスをギルド長であるコロッサスが直々に出迎え、そして手を差し出した。


「ラクシャス、お前はこの街の力を持たない者達の救世主だ。よくここまで働いてくれた。感謝する」


公の場でコロッサスがラクシャスを賞賛した事で民衆の熱は更に高まって行った。ラクシャスが差し出された手を取って両者が握手を交わした際などは、感動のあまり倒れる者すら出る始末であった。


「目に余る悪党は掃討した。今後はギルドの活躍に期待する」


「ああ、任された。それとどうだろう、お前もここで働いてみないか? ここが嫌なら国に推薦してもいい。一生食うに困らない生活を約束するが?」


正体不明の人間に対しての破格とも言える申し出を固唾を呑んで見守る民衆の前で、ラクシャスは静かに首を横に振った。


「・・・ラクシャスは何者にも縛られぬ。我が牙は力無き民衆の為に」


「そうか、そうだよな・・・」


目を閉じてその言葉を咀嚼するコロッサスにラクシャスは握手を解き、自分の腰から短剣を鞘ごと引き抜き、そして渡した。


「もしどうしても困った事があれば、それをギルドの入り口に突き立てておけ。力になろう。・・・さらばだ」


衆人環視の中、大きく飛び上がったラクシャスは音も無く民衆を飛び越えて屋根の上に舞い降り、そのまま王都の闇に消えて行った。


しばらくの間、その場に居る全員がラクシャスを無言で見送り続け、『鬼面のラクシャス』は長く民衆に語り継がれる事となったのだった。

世紀末義賊伝説、第一部完!


悠・・・ラクシャスの行動は戦闘以外はレイラの演技指導が入っています。

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