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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-20 修行準備9

品物を受け取った悠達がギルドに戻ると、中ではコロッサスとサロメが待ち受けていた。


「おーい、あんまり白昼堂々ウチの看板娘を口説くなよな、ユウ?」


「なっ!? ち、違いますギルド長!! 私はただ・・・」


「すいませんね、エリー、コロッサス様は独身を拗らせて僻みっぽくなっているのです。大目に見てあげて下さい」


一緒に入って来る2人を見てコロッサスが冷やかしたが、すぐにサロメに鎮火させられてしまった。


「こ、拗らせてねぇぞ!! その気になればいつでも結婚くらい――」


「そんな事は心底どうでもいいので早くユウさんを執務室に。エリー、貴方もよ」


「あ・・・例の件ですか? それならもう・・・」


「とにかくまずは中に入ろう。・・・? コロッサス、何を悶えている? 置いて行くぞ?」


「お、お前らギルド長を蔑ろにすんな!!」


サロメ、エリー、悠が執務室へと入っていく中、憤って地団太を踏んでいたコロッサスに悠が奇異の視線を向けて冷たく言い、更にコロッサスを憤慨させたが、誰もそれに構ってはくれなかった。


それを見た職員や冒険者はやはり悠は一筋縄ではいかぬ人物だという評価を確かな物にしていくのであった。








「・・・そうか、決心したか・・・」


エリーが覚悟を決めた事を伝えられたコロッサスはしばし瞑目した。故人であるエリーの父の事を考えていたのかもしれない。


「いや、お前がそう決めたんならそれでいいさ。別にユウに力づくで頷かされた訳じゃ無いんだろ?」


「はい、私も少しでもユウさんの力になりたいと思いましたから・・・」


(・・・ユウも大した女たらしだぜ。いや、俺も似た様なモンだから人たらしって言った方がいいか?)


強い意志を感じるエリーの目を見てコロッサスはそんな事を考えたが、長く考えていると藪蛇になりそうなので思考を打ち切った。


「ま、名目は子供の職場見学とでもしておくか。深夜にやるのは、冒険者が少ない時間帯だからとでも言っておくからよ。サロメ、時間の調整を頼む」


「畏まりました」


「うむ、助かる」


『能力鑑定』について決まると、悠はサロメに聞きたい事があり尋ねた。


「サロメ、魔術についての本が欲しいのだが、幾つか挙げてくれんか?」


「え? その内私もお教えしますが、緊急ですか?」


「実はな・・・」


悠は『竜ノ微睡オーバードーズ』についてサロメとコロッサスに説明した。


「非常に興味深いですね。時に干渉する魔法は現在『冒険鞄エクスパンションバック』の内部に働く物以外は人間には存在しません。理論としては幾つかあって、例えば私が今考えているのは体の外では無く内部に働く魔法なのですが・・・」


「いわゆる思考加速だな?」


「! 触りだけ話して理解してくれたのはユウさんが初めてです!! つまり時間そのものでは無く、時間を感じる機能を効率化させる事で時間が遅く感じる魔法を――」


「ま、待て待て!! 魔法談義なんぞやってる時間は無いだろ!? 話を元に戻すぞ!!」


「あっ、し、失礼しました」


コロッサスに窘められるサロメという非常に珍しい物が見れたが、確かに今はそれどころでは無い。


「まぁ、そういう事で教科書になる様な本と実践的な魔法行使に役立つ本が欲しいのだ。子供達は幼く、サロメの指導や理論に付いて行くのは厳しいだろう。内部での1年を出来るだけ有効に使いたい。理論については俺が紐解いて教えて行く」


「・・・失礼ですが、いくらユウさんでもそう簡単に魔法を理解する事は・・・」


「先ほどの思考加速だが、俺の世界では既に実用化されている。といっても使える者は30人も居らんが、そう言えば俺の言いたい事が伝わるか?」


「えっ!?」


『竜騎士』と『竜器使い』は思考加速を操る事が可能であり、当然悠も扱えるのだ。悠は『竜ノ微睡』に思考加速を併用して内部での時間を更に引き伸ばす算段を立てていた。


「詳しい理論を語っていると話が進まんから今は流してくれ。どうだ?」


サロメは自分の研究している理論が既に実践されている事に興味が尽きない様子であったが、鉄の自制心を振り絞って悠の問いに答えた。


「・・・それなら私が纏めた資料をお貸ししましょう。それと役に立つ文献も幾つかお付けします。買えば金貨数百枚分の価値はあろうかと思いますが、お金はいりません。その代わり、修行が終わりましたら、是非思考加速に付いて議論を交わしたいのですが?」


「構わん。資料と本は有難く借り受ける」


「・・・なぁ、俺も修行に付いて行きたいなーなんて・・・」


「ダメだ」「ダメです」


コロッサスが言いたくてウズウズしていた事をそっと口に出したが、悠とサロメに異口同音に却下された。


「ギルド長は一日たりとも休む時間などありません。この先半年間は毎日予定が詰まっています。だからこそ私も付いて行けないという事を理解されていますか? されていませんね? 怒っていいですか?」


「わ、分かった分かった! 言ってみただけだっての!! 俺だってこれ以上早く老けちゃ困るんだよ!」


ミーノスの主要ギルドのギルド長であるコロッサスは先の『黒狼騒動』や魔物襲撃事件の後始末が山の様に残っており、自分の深夜の修行を含めれば正に寝る間も無い忙しさなのであった。何とか休めるのは、事務能力の高いサロメが補佐についてくれているからである。アイオーンの様に自分のギルドを留守にする方が異常なのだ。


「ああ、それとユウ、お前も修行に入る前に一日くらい体が空かないか?」


「依頼か?」


話を逸らすという意図以外に伝えたい事があったコロッサスが悠に尋ねた。


「ああ。実はよ、このギルドに所属する冒険者を対象に一日丸々訓練をしようと思ってるんだ。『黒狼こくろう』が居たせいでここの冒険者のランクは低くてな、このままじゃ役に立たん。だから頼りになる教官にどうすれば強くなれるかを仕込んで貰おうと考えてる」


「コロッサスが仕込めばいいではないか?」


「確かに剣や体の鍛え方なら俺でも仕込めるがな・・・ユウは大抵の武器は使えるんだろ? 剣以外の使い手も少なくないから、そいつらを頼みたいんだよ」


悠はコロッサスの言葉をしばし吟味して告げた。


「大人が強くなる事を前提の訓練であれば、内容は少々厳しくなるが構わんか?」


子供やまだ若い者を教える分には悠もかなり加減はしているが、そこそこの年齢の者を強くなったと自覚出来るほどに鍛えるにはかなり厳しい訓練を課さなければならない。ベロウがいい例と言えるかもしれない。


「・・・ま、しょうがないな。それを体験すりゃ、ユウが七光りでランクを上げた訳じゃ無いって分かるだろうからな。だけどなるべく怪我はさせないでくれ。依頼に支障が出ちまう」


「努力しよう」


「・・・約束はしてくれないのかよ・・・」


げんなりと肩を落とすコロッサスを置いて、悠は隣で話を聞いていたエリーに声を掛けた。


「エリー、済まんが『治癒薬ポーション』・・・『下位治癒薬マイナーポーション』を100本ほど用意しておいてくれ。近日中にまた買いに来るから仕入れもしておいてくれると助かる」


「えっと、構いませんが、100本ですか? 多分在庫ギリギリだと思いますから、まだ必要なら2、3日時間を頂きますよ?」


「それでいい。出来ればもう300本ほど貰いたい。場合によってはもっと買うかもしれん」


「そ、そんなにキツい訓練なんでしょうか・・・?」


「そうだ。一日で仕込むのなら休ませている暇は無い。それに、子供達の訓練にも大量に必要なのだ。フェルゼンのギルドにはそこまでの在庫が無かったが、王都であれば調達も早かろう?」


「わ、分かりました・・・ギルド長、退出しても構いませんか?」


大量の注文に驚きながらも頷いたエリーはコロッサスに退出の許可を願った。


「ああ、ご苦労だった。それと、『治癒薬』100本はギルドから訓練用に用意しておく。ユウの注文分だけ揃えておいてくれ」


「了解しました、では失礼します」


エリーが出て行くと、コロッサスは悠に向き直った。


「じゃあ詳しい日時はどうする、ユウ?」


「一週間後にやればいいのではないかと思う。一日絞れば冒険者達も夜騒ぐ気力も残らんだろう。ギルドから合理的に人を排除出来る」


「恐ろしい事を考えるな、お前・・・が、確かに効率がいいな、そうしよう」


「それで報酬は?」


悠の提案を受け入れたコロッサスに報酬を問うと、コロッサスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。


「聞いて驚け、ユウとバローをⅨ(ナインス)に推薦してやる」


「どういう事だ?」


金銭や物では無い報酬に首を傾げた悠に、サロメが説明した。


「ギルド長が与える事の出来る最高ランクはⅧ(エイス)までです。Ⅸになるには、ギルド本部にてギルド長の推薦を受けた者だけが受ける事の出来る試験を突破するしかありません。冒険者のⅧは居てもⅨが殆ど居ない理由はそこにあります」


「狭き門という事か・・・」


「そういうこった。だがお前なら間違い無く受かるだろうさ。バローは厳しいだろうがな」


「分かった、ありがたく受け取ろう」


こうして重要案件については一通り目途が付いたのだった。

悠が本気で訓練を施したら、恐らく終わるまでに数人の死者が出かねないので程々に・・・と思いますが、その程々が既に常軌を逸しているという。


五体満足で生きているベロウが強くなる訳です。

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