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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第五章 異世界修業編
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5-1 凱旋1

第五章開始です。よろしくお願いします。

「行きとはエライ違いだな」


順調な旅路にベロウがそう漏らした。行きは少し進む毎に魔物モンスターに襲われていたのだからそれも仕方ないだろう。


帰り道は嘘の様に魔物の襲撃が無かった。かれこれ2時間は経過しているが、未だに一度も魔物に襲われていないのだから。


「恐らく枯渇現象だな」


ベロウの感想にアイオーンが返答したが、耳慣れない単語にベロウが再度質問を返した。


「なんだ、その枯渇現象ってのは?」


「枯渇現象とは急激な魔物討伐の後に起こる魔物の枯渇の事だ。我々だけでもこの短期間に500以上の魔物を狩っている。更に遠近で兵士と冒険者による狩りも進んでいた事を考えれば、今この領内の魔物は激減していよう。他領に逃げた魔物も居るだろうからな。原因が取り除かれた事で一気に魔物が過疎化したのだ」


流石アイオーンは魔物の生態について造詣が深かった。ベロウの質問に満点の回答を提示して見せたのだ。


「へー、じゃあしばらくは安全ってワケか?」


「余程運が悪い者でない限りはな。・・・む?」


道の先を見てアイオーンの目が鋭くなったが、すぐに平静を取り戻した。


「ん? 何を見て・・・げ」


それとは裏腹にベロウの顔は顰められた。アイオーンが何を見たのかを悟ったからだ。それは道にばら撒かれた大量の血と骨の欠片であった。


「襲われた旅人の成れの果てであろう。少なくとも死後1日以上経過している。襲った相手はもうこの辺りにはおるまい」


「ゾッとしねぇな。ま、注意して進もうぜ」


ベロウとアイオーンには当然分からない事だったが、それはフェルゼンを目指していたシモン達一行が襲われた場所であった。そして先にある林の中にシモンの白骨死体がある事も。やがて誰にも見つけられる事の無いまま風化していくのだろう。


「ユウ、何か感じるか!?」


ベロウは少し先で馬車を護衛する悠に声を掛けた。


「いや、この辺りには特に何の気配も無いな。随分と早く着けるだろう」


悠は馬上で首だけを巡らせてベロウに答える。


「そりゃありがてえ。そろそろ屋敷のベットが恋しくなって来た所だったからなぁ。今日は風呂に入って酒・・・は程々にして、ゆっくり眠りたいぜ」


昨日の酒量を思い出して殊勝なセリフを吐いたベロウだったが、アイオーンが怪訝な顔でベロウを見た。


「何を言っているのだ? しばらくはバローに寝る間など無いだろうが」


「は?」


アイオーンの言葉にベロウはキョトンとした顔をする事しか出来なかった。自分は何か仕事を残していただろうかと必死に頭を捻ってみるが、やはり何も思い浮かんでは来ない。


「・・・いや、何でだよ? これ以外の依頼なんざ、今は受けてねぇはずだぜ?」


「呆れたな、本当に分からんのか? ・・・貴様は新しい『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』だろうが。しばらくはどこに行っても握手をねだられるか手合わせを求められるか、はたまた士官の話が舞い込むかの毎日になるぞ。心しておくのだな」


「あっ!? ちょ、待てよ!! それならユウやアイオーンだってそうだろうが!!」


悠が馬速を落としてアイオーンと並び、小憎らしいほどの冷静な顔を二つ並べて口々に答えた。


「私は既に『龍殺し』はやっている。バローほどの話題にはならん。立場上、そんな者は近付けさせないからな」


「俺はそもそも倒しておらん。バローが倒したのだからバローの栄誉だ。俺は俺でやる事があるからな、そんな暇は無い」


「オメェらキッタネェぞーーーーーーッ!!!」


ベロウは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、そんな事で恐れ入る2人では無く、素知らぬ顔で会話をしながら馬車の方に馬を進めて行った。


「街に着いたらまずローラン様にご報告に行くが、その後はギルドに顔を出して貰うぞ? ドラゴンの素材の買取も済ませなければならんし、依頼の達成報告もある。冒険者証の刻印もⅧ(エイス)に変えねばならん」


「明日に出来る物は明日にして貰えるとありがたい。今日はフェルゼンで子供達の土産を買って帰ろうと思っているからな」


「相変わらず子煩悩だな、貴様は」


「いつも俺が付いていてやれる訳では無いからな。・・・なるほど、働きに出る父親の気持ちとはこういう物か」


普段一緒に居られる時間が少ない父親が、子供に対して感じる引け目を補うかの様に土産を買って来たりする精神と同じ働きを感じて悠は妙に納得した。


「お前はその優しさを100分の1でいいから俺にも向けろッ!!!」


追い付いて来たベロウが悠に向かって叫んだが、悠は冷たく言った。


「なんだ、菓子でも買って欲しいのか?」


「グギギ・・・こ、小憎らしい言い方をしやがって・・・!」


歯軋りしながら絞り出す様に恨み言を言うベロウだったが、実力行使をしても秒殺で返り討ちに遭うので手出し出来ずに悔しがる事しか出来ないのだった。


そんなベロウの脳裏に天啓の如き考えが浮かび上がる。


(そうだ!! 俺が街でドラゴン退治の真相を広めてやりゃあいい!! 俺は弱ってヘロヘロになったドラゴンにトドメを刺しただけだって事を広めれば、ユウだって『龍殺し』の一員になるぞ!! ・・・へへへ、ユウ、一人だけ気軽な立場で居ようなんてそんな虫のいい話は許さねぇからな!! 首を洗って待ってやがれ!!!)


悪い笑みを浮かべて反論を引っ込めたベロウは何食わぬ顔で大人しく旅路に戻って行ったが、ベロウは知らなかった。フェルゼンへの一行にベロウの宴席での語りを全て記憶している吟遊詩人が混じっている事に。


吟遊詩人の男は念の為、クエイドに非が無い事をローランに訴える為に付いて来たのだが、彼がフェルゼンでベロウより先にその活躍を語る事によって、ベロウの話はただの謙遜としか受け止められなくなってしまう事など、今のベロウには知りようも無い事であった。


・・・そもそもその話も酒に酔ったベロウが住民の前で語った事であるので、単に投げたブーメランが自分の頭に刺さっただけの事なのだが。


流されて流されてこの場に居るベロウは、やはりこの先も流される運命にあるのかもしれない。


そんな未来図はさて置き、一行は日が傾く頃には無事フェルゼンの土を踏む事が出来たのだった。

ベロウのあしらい方も手馴れて来た感がありますね。

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