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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
244/1111

4-52 帰路3

その日は町を上げての大宴会となった。建物の中では納まり切らないと判断したクエイドは町の中央広場に即席の宴会場を作り上げ、椅子やテーブルを並べて町に残っていた酒や食料を供出して料理人達に料理をさせた。


宴会の最初にクエイドから悠達の紹介がなされ、町の者達はこぞって悠やベロウ、アイオーンに賞賛と感謝の言葉を送ったが、特にベロウはドラゴンにトドメを与えた人物として大いに持ち上げられた。


「バロー様! 是非ドラゴンを退治した時の話を聞かせて下さい!!」


「ちょっと、バロー様は今私と話してるんだから邪魔しないでよね!!」


「ささ、バロー様、お口に合うかわかりませんが、この地方の酒をご賞味下さい」


ベロウの周りには武勇譚を聞きたがる若者や有名人に取り入ろうとする女性や商人などが溢れかえっている。おかげでせっかくの料理にも満足にありつけぬまま、対応に四苦八苦していた。


それもそのはずで、ベロウは最後のトドメを刺したのは確かだったが、それまでに致命傷を加えたのは悠とアイオーンなのだ。だが、ベロウがやんわりと自分の力だけで倒したのでは無い、悠とアイオーンの助力があればこそ自分がトドメを加える事が出来たのだと言っても、結局はトドメを刺したのがやはりバローであるという面が強調されるばかりで、むしろ自分の手柄を誇示しない慎み深い人物としてアザリアの町の住民や冒険者達に大いに好感を与えたのだった。


「おい、ユウ! 恨むぞ!!」


小声で言いながら肘で突くベロウに悠は素知らぬ振りをして周囲に告げた。


「皆、バローはまだ酒が足らんらしい。酌をしてやってくれないか?」


その言葉に絶句するベロウに次々と酒の瓶やコップが差し出され、ベロウを埋もれさせていった。


「お、覚えてやがれ!!」


と、いう様なセリフが聞こえた気がしたが、悠は静かに酒を飲んで料理を味わい続け、隣のクエイドと話を続けた。


「ユウさん、明日には発つのだろうが、フェルゼンまで護衛を引き受けてはくれないだろうか? 領主様に報告をしなければならんし、町長の件もある。いきなり攻め寄せる様な無体な真似は今の公爵様はなさらないだろうが、万一の時の為に顔を繋いでくれる人間に報告を頼みたいのだ。それにドラゴンの素材を売るにもフェルゼンくらい大きな街でないと都合が悪いし・・・」


「乗り掛かった船だ、引き受けよう」


クエイドの依頼を悠は即座に引き受けた。まだこの町の人間以外は元凶が取り除かれた事を知らないが、魔物の跋扈に便乗した盗賊などが居ないとも限らないし、荷物を持ち去ろうとする不届き者が出ないとも限らない。


「引き受けてくれるか!? 助かるよ!」


クエイドはようやく肩の荷が下りたとばかりにぐっと手にした酒を呷った。金貨1000枚にも及ぶ荷を運ぶとしても町の守りの部下の兵を多く連れて行く事出来ず、普通の冒険者では心許ない・・・というか信用出来ない。護衛で得られる報酬と強奪した荷によって得られる報酬があまりに食い違えば裏切る可能性は決して低くは無いのだ。


その点悠達であればこの町の恩人の上ギルド長のアイオーンが一緒であるし、何よりその荷は悠達から提供された物なのだ。これ以上信頼出来る冒険者は居ないと言っていいだろう。


「この場合の報酬は荷の一割が基本でしたかね、アイオーンギルド長?」


「ああ、今回の依頼の達成は私がこの目で確認している。そしてドラゴンを屠った功績と実力を加味し、暫定的にユウとバローをランクⅧ(エイス)とする。金貨100枚にもなる依頼をⅦ(セブンス)の冒険者に受けさせるのは批判があるからな」


それだけ言うと、アイオーンは酒瓶を一つ持って席を立った。元より騒がしい席が好きな男では無いのだ。


「私は先に休ませて貰う。また明日に」


そして振り返らずにアイオーンは歩き去った。


「・・・アイオーンギルド長は料理がお口に合わなかったんでしょうか?」


あまり料理に手を付けていないアイオーンの様子を不安に思ったクエイドが悠に尋ねたが、悠は首を振った。


「いや・・・アイオーンにも考える所があるのだ、そっとしておいてやってくれ」


「はぁ・・・?」


そこで民衆からワッと歓声が上がった。いい具合に出来上がったベロウが自棄になって演壇の上に上がって語り始めたのだ。


「面倒臭え!! 纏めて話してやるから全員聞いとけ!!! まずは俺達がこの町を離れて調査を始めた所からだ!!」


ベロウは身振り手振りを交え、自分達の道行きを抑揚を付けて語って行った。いつの間にか背後には吟遊詩人らしき者が楽器を爪弾き、調査中に不安を感じている時はおどろおどろしく、ドラゴンが現れ、戦闘のシーンになると一転して勇ましい音楽で話を盛り上げた。


流石に酔っていてもベロウはエルフの事は話さず、話も上手い具合に脚色して物語に仕立て上げていく。


「奴は役者にでもなった方が名を上げられそうだな」


「いやいや、この町の語り草にさせて貰いましょう。中々どうして上手いモンです」


ドラゴンの首に見立てた酒瓶の口を切り落として迫真の演技を続けるベロウに民衆は既に釘付けだった。そして何故か最後はユウを助けて友情を深めるシーンで締め括られており、その気高い友情に民衆は涙し、町を救った英雄としてベロウを名を呼び続けた。


いよいよ調子に乗って来たベロウは次に『黒狼騒動』の事も話し始め、結局その他大小の冒険譚を語り終えるまでベロウが解放される事は無かったのだった。








明くる日、悠達は馬上の人となり、2台の馬車と共にあった。


「うぷ・・・気持ち悪ぃ・・・」


「飲み過ぎだ、馬鹿め」


ベロウは2時間程度しか寝ていない上に散々深酒をしたせいで馬の上で辛そうにしている。今日は戦力としては役には立たないだろう。


「おーい、そろそろ出発するぞーっ!」


クエイドの声で馬車の準備が整えられると、悠達もそれに付いて歩き出した。今日中には帰れるが、一応『心通話テレパシー』で蒼凪とミレニアには既に伝えてあり、首を長くして待っている事だろう。


アイオーンは昨日に引き続き何事かを考え込んでいる様だった。恐らくコロッサスとの手合わせの件であろう。帰ったら帰ったでまた一波乱ありそうな気配だ。


それでも今、草原に吹く風は穏やかで美しい。ナターリアと共に見た時と同じ美しさを胸に刻みながら、悠達はアザリアを後にしたのだった。

次で第四章は終わりです。章タイトルを「新天地探索編」に変更しました。修業は次です!

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