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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-51 帰路2

悠はアザリアの町に向けて高速で飛び続けた。多少寄り道をしても、悠ならば1時間と経たずに帰れる距離だ。


飛んでいる間に、悠はふと気付いて静かな相棒に声を掛けた。


「どうした、レイラ? 別に声を出しても構わなかったが?」


《・・・ねぇ、ユウ。ナターリアの事をどう思っているの?》


レイラの突然の質問に悠もすぐに答えられない。


「? すまん、質問の意味が分からんが?」


《・・・ごめんなさい、私も何を言っているのか分からないわ・・・。今の話は忘れて》


それきりまたレイラは黙ってしまったので、悠もそれ以上質問はしなかった。レイラは独立した意識を持つ生命体であり、悠の付属物では無い。レイラはレイラで悩む事もあるだろうと思ったからだ。自分に出来るのは、レイラが自分に打ち明けて来た時に、真摯に話を聞く事位のものだ。


それは亜梨紗や志津香、燕ならすぐに気付いたかもしれない。誰よりも悠と長く共にあったレイラだからこそ、今の自分の心の内を打ち明けられない。


レイラは悠が女性に求める条件を知っている。それは悠と肩を並べるほどに強いという事。事ある毎にレイラは悠に妥協や再考を促して来たが、悠は決してそれを曲げる事は無かった。


だが、真に悠に近付けた女性が居ない事に助けられていたのは自分なのではないかという思いがレイラを捕えて離さなかった。自分は本気で悠に翻意を促したか? その場その場では間違い無くイエスと言えるその問いに、今のレイラは素直に頷く事が出来なかった。


先ほどの悠の言葉が頭を離れない。




(言葉が通じ、意思が通じるのならきっと繋がる事は出来る。例えそれが最初は細い糸の様な物であっても、いつかは切れない絆となると俺は信じている)




では自分とはどうなのだ? 確かに悠とレイラには何物にも代え難い強い絆がある。しかし足りない、足りないのだ。悠ともっと深く、もっと強く繋がりたいという想い。




――人はそれを愛と呼ぶのかもしれない。




(私はユウが好きよ、この世界の誰よりも。全ての世界の誰よりも。・・・でもそれは家族の様な好きなんだと思っていたわ。だからユウにちゃんと好きな人が出来て、結婚したら私も嬉しいんだと思っていた。・・・でも本当にそうなのかしら? 私は、私自身がいつの間にかユウの事を・・・)


その想像に、レイラの思考は暗く染まった。脳裏にはナターリアと口付けを交わす悠の姿がちらちらと点灯していた。


悠と共にある限り、自分と悠は決して結ばれないという事実に、レイラは今初めて気が付いていた。誰よりも悠の側に居るはずなのに、誰よりも悠からは遠い場所に居る自分の身が、レイラには酷く寒く感じられた。


(何を考えているの、私は!? リュウと人がそんな・・・馬鹿げているわ!!)


だがその考えを他ならぬ悠が先ほど否定していたはずだ。繋がる事が出来ると。いや、あれはエルフが人型だからだと思い直したが、ならば自分が人型になれば可能なのではないかという思考がレイラの存在しない心臓を跳ねさせた。あるのだ、人型になれる手段が。それは先の戦闘でスフィーロがやっていたはずだ。そしてその魔法のサンプルはスフィーロがドラゴンに戻る時に既に回収している。


レイラは誰にも言わず、その魔法の解析を始めた。それは、レイラが悠に初めて持った秘密であった。








夕暮れ時、悠はアザリアの町の近くで地に降り立った。これ以上近付いては町の者に発見される恐れがあるし、何よりバローとアイオーンを見つけたからだ。


「よぅ、無事送って来たのか?」


「ああ、エルフの里の近くまで送って来た」


「今日はここまでにして、アザリアに宿泊する。クエイドにも伝えなければならん」


アイオーンの言葉に頷きを返した悠はそのままアザリアの町の門へと向かって歩いて行った。門には当然の様に見張りがおり、薄闇の中の悠達を誰何して来る。


「何者だ!」


「今朝出発した冒険者のユウだ。依頼を達成して来たので中に入れてくれるか?」


「え!? ああ! あんたらはこの町を助けてくれたあの・・・分かった、今すぐ隊長・・・いや、町長代理に伝えて来るから待っていてくれ!!」


そう言って見張りの男が姿を消した5分後には門が開き、町長代理であるクエイドが3人を出迎えた。


「あんたら、随分と早いじゃないか? 依頼を達成したと聞いたが・・・?」


「ああ、これがその証拠だ」


悠が『冒険鞄エクスパンションバック』からダイダラスの素材を取り出してクエイドに見せると、クエイドが驚きの声を上げた。


「なっ!? こ、こりゃあドラゴンの素材じゃないか!? ま、まさかあんたらは・・・?」


「山頂に新しくドラゴンが巣食っていたのでそれを退治して来た。このバローがトドメを刺したのだ」


「お、おい、ユウ!?」


さり気なくベロウの功績が大である事をアピールして悠はドラゴンの素材の一部を纏めてクエイドへと手渡した。


「『魔力回復薬マナポーション』や昼飯はとても助かった。これは街の復興の資金の足しにしてくれ」


ドラゴンの鱗や角、皮、肉、爪などを悠はクエイドに差し出した。クエイドは更なる驚きの目で悠を見返した。


「ちょ、ま、待ってくれ!! 確かに金はいくらでも必要だが、俺はここまでの事はしちゃいないよ!?」


クエイドが尻込みするのも無理は無い。これだけのドラゴンの素材となれば、恐らくその価値は金貨1000枚に届くだろう。当座の資金としては十分過ぎる量だ。


だが悠はそんなクエイドの手に包みを押し付けて言った。


「善意には善意を返したいと俺は思っている。俺達も自分達の分は確保してあるゆえ、遠慮無く受け取ってくれ」


引っ込める気が無い悠の目を見てクエイドも結局は折れた。個人としては受け取れないが、町長代理としては町の事を考えればこれ以上助かる話も無かったからだ。


「・・・分かったよ、これは町の為に使わせて貰う。せめて今日はあんたらを精一杯持て成させて貰うよ」


「また一晩世話になる」


魔物モンスターの襲撃は徐々に落ち着いてくるはずだぜ。もうしばらくは警戒する必要があると思うがな」


ベロウの言葉に頷いて、クエイドは周囲に大声で宣言した。


「皆、冒険者の一行によって脅威は取り除かれたぞ!! 今晩は宴だ! 労いの宴だ!!」


響き渡るクエイドの声を聞いた住人や兵士から大歓声が上がった。そしてそれが宴の始まりを告げたのだった。

レイラに何らかのフラグが立ちつつあります。前回の乙女成分を引きずってますね。

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