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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-48 VSドラゴン7

「ところでその姿のままでいいのか?」


「フッ、いらぬ世話よ。人型になろうとも我の力は些かも衰えぬわ!! その身をもって知るがよい!!」


正面を向いて対峙する両者だったが、まずはスフィーロが仕掛けて来た。身体能力に任せ、瞬時に悠の懐に飛び込み、拳を悠の顔に突き立て様としたが、これはあまりに人間を、悠を舐め過ぎた一撃であった。その報いは直後にその身に返って来る。


「がっ!?」


悠は特に苦も無くそれをかわすと、代わりに自分の拳をスフィーロの顔に突き立てた。その一撃でスフィーロは10メートルほども吹き飛ばされ、地面を2回3回とバウンドしてようやく姿勢を立て直した。


「な、何故だ!? ニンゲンに今の攻撃がかわせるはずがっ!?」


全力での攻撃で無かった事が幸いし、スフィーロは何とか立ち上がれたが、下手をすれば今ので終わりかねないカウンターであった。


現在、悠とスフィーロの肉体的な能力に大きな差は無い。今スフィーロに殴られれば、悠とて大きなダメージは避けられない。しかし・・・


「ぬおおおおっ!!!」


立ち上がったスフィーロは再び悠に攻撃を加え始める。先ほどの失敗を踏まえ細かい連撃を放つが、それでも悠には掠りもしない。


「な、何故、何故だ!? 何故当たらんのだっ!!」


それに律儀に答えるほど悠はお人好しでは無いので、動揺で大振りになった攻撃にカウンターを合わせる事でそれに答えた。


「ゴフッ!?」


再びダンジョンの壁まで殴り飛ばされるスフィーロの顔には苦痛と困惑の表情があった。


繰り返すが、両者に肉体的な能力の差は無い。両者の決定的な差は、技術的な能力の差である。


スフィーロは人型をしていても格闘技術を学んだ事も剣技を磨いた事も無かった。また、その必要も。これまでどの様な相手であろうとも肉体的な能力だけで蹂躙出来たのだ。ドラゴンにとって、技術を学ぶなど恥以外の何物でも無い。しかし、今その技術の差が両者の越えがたい壁としてスフィーロの前に立ち塞がっていた。


「貴様が弱者と蔑む人間の技で滅ぶがいい、スフィーロ」


壁に手を付いてこちらを睨むスフィーロに、今度は悠から攻撃を加え始める。


「グッ!? ウグ!? アガッ!?」


スフィーロはそれをかわす事が出来ずに、いい様に悠に殴られ続けた。いや、スフィーロとてかわそうとはしているのだ。しかし、慣れない人型の体はスフィーロの動きを制限し、知らない人間の格闘技は玄妙な一撃となってスフィーロの体に降り注いだ。カウンターやフェイントなど、ドラゴンには必要の無い技術なのだ。圧倒的な力による蹂躙こそがドラゴンの真骨頂なのだから。スフィーロは自ら作った人型の枷に追い詰められていた。


顎を捻り上げるような掌底を食らってスフィーロは三度地面に崩れ落ちた。


「そのダメージではもう立てまい。負けを認め、何故この地に来たのかを話せば命までは取らぬ」


倒れ伏すスフィーロに悠は冷然と問い掛けた。悠としてもこのまま一息にスフィーロを殺す事は出来ない。アイオーンやベロウの話を聞く限り、これだけのドラゴンが目的も無く出現するとは思えず、恐らく何らかの理由があると悠は感じ取っていたのだ。


「だ、黙れ・・・! ま、まだ勝負は、つ、付いて、おらん、ぞ・・・!」


「将ならば引き際を知れ。このままでは貴様だけで無く、部下にも累が及ぶぞ」


「!? グッ、さ、サイサリス!?」


スフィーロが悠の言葉に促されてそちらを見ると、そこには満身創痍のサイサリスの姿があった。片方の目は潰れ、片足も無くして体の鱗は所々剥がれて血を流している。


対峙するベロウとアイオーンも中々酷い有様であったが、まだ動ける範疇の損傷であった。互角に近い戦いを続けていた両者に悠が加勢したらどうなるかなど、火を見るより明らかな状況である。


それを悟ったスフィーロは覚悟を決めた。


「サイサリス!! 貴様は退け!! この場で死する事は許さん!!」


「な、何を仰いますか、スフィーロ様!!! 私はまだまだ戦えます!! 今すぐこの人族共を葬り去って加勢致しますのでしばし時を!!」


その時、悠の脳裏に雑音の様なノイズが走った。それが何なのか分かった悠はレイラに調律させると、脳裏に意味ある音声として聞こえ始める。


(聞け、サイサリス。こいつら、特に我と戦うこのユウの強さは異常だ! このままでは我等2人共滅ぼされる事になろう。悔しいが、誰かが情報を持ち帰らなければならぬ。だが、ユウはその様な隙は見せぬであろう。なれば貴様が情報を持ち帰れ! そしていつか我と弟の仇を取るのだ!)


(恐れながら、帰るべきはスフィーロ様です! 斥候としてこちらに派遣された我等の部隊長はスフィーロ様なのですから!)


悠の脳裏に響く声は『心通話テレパシー』で会話するドラゴン達の物であった。『心通話』に通じた者であればこの位は特に難しい芸当でも無い。


(どの道龍王様は任務に失敗した我を許しはせん。どうせ死ぬならばせめて戦いの中で誇りを持って死にたいのだ。分かってくれ、サイサリス)


(い、嫌です!! 私はスフィーロ様を・・・あ、愛しております! 果てるなら共に!!)


薄紅色のドラゴンの目の狂気が慈愛に満ちた物になっていた。その言葉にスフィーロの目が一瞬大きく見開かれたが、やがて全てを諦めた様な表情になって『心通話』を続けた。


(変わり者と評判だった我にその様な酔狂な想いを抱く者が現れようとはな・・・ならば尚更貴様を死なせる訳にはいかぬ。・・・惚れた女を死なせる様な真似を我にさせてくれるな、サイサリス)


(!! す、スフィーロ様!!!)


(行け!!! 我が最後の力を振り絞って血路を開く!! 貴様は生きて幸せを掴むのだ!!!)


「ユウ!! 我の真の力を持って貴様を倒す!!! カァァァァァアッ!!」


倒れ伏すスフィーロが吼えると、その体が発光し、周囲が光に包まれた。それと共にスフィーロの体が輪郭を失い、次第に大きく膨れ上がっていく。


「グオオオオオオオオオオオッ!!!」


やがて光が治まった時に現れたのは、サイサリスより一回り大きな緑色のドラゴンの姿だった。既にその口にはブレスが充填されている。


「全員伏せろ!!」


悠の警告に周囲に散ってベロウとアイオーン、そしてナターリアが地面に伏せると、スフィーロは悠の頭上目掛けてブレスを解き放った。


多量の岩石を含んだそのブレスを受けた天井が崩壊し、悠に降り注いで来たが、悠はそれを滑る様な足取りでかわしていく。


「今だ!!」


「クッ! スフィーロ様、御武運を!!」


大量の砂煙が発生する中、スフィーロの言葉を受けてサイサリスは一直線に広間から通路へと飛び込んでいった。最後に一瞬、悠と視線がすれ違ったが、その目には恐ろしいほどの憎悪が込められていた。


天井の崩落が収まった後、その場にはもうサイサリスの姿は無かった。


「何故この地に来たのかを話せば命までは取らぬと言ったはずだが?」


「・・・貴様は約束を違える男では無かろう。だが弟を殺されたサイサリスにそれを強要は出来ぬ。また、我が殺されればサイサリスは激昂し、貴様の話など聞くまい。そして反りが合わぬからと言って同胞を裏切る事は出来ぬ。なれば、我に出来るのはこの位の物よ・・・」


「愛する女を遺して逝くか、スフィーロ?」


悠の言葉にスフィーロの目に動揺が走った。


「き、貴様! 『心通話』を!?」


「もう一度言う、下るのだスフィーロ。悪い様にはせん」


「聞かれたというのならば尚更捨て置けぬわ!! この身と引き換えにしてでも貴様を・・・!」


「不可能だ。・・・変、身!!」


《了解!》


悠がスフィーロが動く前にペンダントを掲げ唱えると、悠の体を赤い靄が包み、その身を覆う赤き鎧として顕現した。これこそが人型のドラゴンの完成体であると告げる様に。


「な、何っ!? 馬鹿な・・・ドラゴン!? 何故ニンゲンからドラゴンの気配がする!? ユウ、貴様は何者なのだ!?」


《さっきからドラゴンドラゴン煩いわね。私はリュウよ。ドラゴンと一緒にしないで》


「何者だ!? 同胞の裏切り者かっ!?」


《同胞なんかじゃないわ。500年しか生きていない若僧が私に指図するんじゃないわよ。・・・ユウ》


「ああ、決着の時だ、スフィーロ」


「ぬ、ヌオオオオオオオッ!!!」


悠に先手を打たせまいと巨体による突撃を行おうとしたスフィーロの前で悠が静かに告げた。


「レイラ、竜気解放プラーナリバレートサード


《参? ・・・ふぅん? ま、いいわ、竜気解放・参!》


悠の言葉に一瞬怪訝そうに問い質そうとしたレイラだったが、『心通話』でその意図を伝えられてそのまま竜気解放を行うと、悠の体から爆発的なオーラが赤く噴き上がった。その強大なオーラに思わずスフィーロも足を止めてしまう。


「こ、この力は!?」


「新生せよ、スフィーロ。『竜ノ爪牙マテリアルコラップス強制転化コンパルションリバース


「ガアアアアアーーーーーッ!!??」


瞬時にスフィーロに取り付いた悠の赤く輝く拳がスフィーロの体を貫通し、スフィーロの体を波紋状の力が広がっていった。


拳が着弾した箇所の鱗が円形に弾け飛び、スフィーロは体の結合がバラバラになっていく痛みに意識が漂白されていく。


(な、何という物理干渉力!? この我が抵抗すら出来ぬとは・・・ああ、体が崩、れる・・・・・・さ、サイサ、リス・・・・・・)


それを最後にスフィーロの意識は闇に落ちた。ただ愛する者を思いながら。


周囲を照らしていた赤い光が収まった時、そこにはもう緑鱗のドラゴンの姿はどこにも見当たらなかった・・・

決着です。章の締めはもう少し先ですが。

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