4-47 VSドラゴン6
ダンジョンの第一階層奥。そこにはかなり広い空間が出来ていた。そしてその更に奥の下の階へ続く階段を背にして、薄赤色のドラゴンと緑色の髪を持つ男性が並んで立っている。
一目見るだけで異常な光景である。ドラゴンと人が並んで立っている光景など。
「お、おい、ユウ、ドラゴンと人間が並んで立ってるぜ? いや、髪の色からしたらエルフか? どういう事だ?」
「見た目に惑わされるな。あやつ、人間でもエルフでもないぞ。人型をしているがドラゴンだ」
「「「何っ!?」」」
悠は男の気配から、その正体を見破っていた。他の3人は驚きの声を上げていたが、人に化けるドラゴンなど聞いた事が無かったので仕方が無いだろう。
《見た事が無い技ね。あれも魔法かしら?》
「どうかな。3人のこの驚き様では少なくともドラゴンが使う様な物では無さそうだが・・・」
戦闘態勢に入った悠達を見て、人型の男は嬉しそうに顔に笑みを滲ませた。
「聞いたか、サイサリス? 彼奴ら、我の正体に気付いたぞ?」
「私と並んでいれば多少知恵の回る者であれば気付きもしましょう。それよりもスフィーロ様、ダイダラスの事を」
「分かっておる。・・・おい、そこなニンゲン達よ!! 貴様らに問う!! 途中で青いドラゴンに会ったであろう? それなのに貴様ら、何故生きておる?」
尊大に問い質すスフィーロに一言だけ返答したのは悠だった。
「襲われたから殺した」
その返答を返した途端、サイサリスの足元の地面にビシビシと亀裂が入った。殺気も一段と強くなり、噛み締めた歯からは軋る音が響いている。
「私の弟が人族如きに不覚を取っただと!? そんなはずは無い!!!」
「騒ぐな、サイサリス。ニンゲンよ、証拠があるのか?」
怒気を孕みながらも激発する事無く尋ねて来るスフィーロに、悠は懐から青い鱗を一枚取り出し、スフィーロに向かって投げ渡した。
「遺品だ。受け取れ」
「・・・確かに、この鱗の色はダイダラスの物だな」
「最早これ以上の問答は無用!! スフィーロ様、この下等生物の始末は私にお任せ下さい!!」
「自惚れるな、サイサリス。ダイダラスが不覚を取ったのだ。油断をすれば万一があるぞ。・・・ニンゲンに我等を倒せる様な力があるとは信じ難いが、こやつら、ニンゲンの中でも稀な力を持っているのかもしれん」
「・・・グルルルル・・・!」
「・・・なぁ、アイオーン、あの赤っぽいドラゴンはランクとしちゃどんなモンなんだ?」
威嚇してくるサイサリスに挙動不審になりながら、ベロウが隣のアイオーンに尋ねると、アイオーンは槍を持つ手に力を込めて警戒しながら呟いた。
「・・・大きさから言って、間違い無くⅨ(ナインス)以上。ひょっとすると伝説にのみ語られる、Ⅹ(テンス)かもしれん・・・私やバロー単体では勝利は100に一つも拾えまい」
「・・・嬉しくない情報をありがとうよ。・・・とすると、もう一匹はあの口ぶりじゃあ更に上って事じゃねぇのか?」
「人型なので判別は出来んが・・・もし上だとしたら、伝説のⅩに相違無い」
「か、勝てるのかよ、ユウ!」
アイオーンすら額に汗する中、この場で悠だけはどこまでも冷静であった。
「レイラ、どう見る?」
《・・・赤い方がⅣ(フォース)、人型の方は・・・力の大きさから見るに、Ⅴ(フィフス)~Ⅵ(シックスス)でしょうね。このままじゃキツイかもしれないわよ、ユウ?》
「ふむ・・・では俺はあの人型とやろう。ベロウ、アイオーン、お前達はあの赤い方を頼む。地下の洞窟を破壊したのはあの赤い方だ。ブレスには十分気を付けろよ? アイオーン、ベロウにも身体強化を」
「分かった。必ずや打ち倒して見せよう」
「早いとこ倒して俺達に加勢してくれよ、ユウ!」
(む、無茶だ! 正気なのか!? Ⅹのドラゴンなど、およそ人族が敵う相手では無いと言うのに!!)
あっさりと強い方を相手取ると決めた悠をベロウとアイオーンは送り出そうとしたが、実力を知らぬナターリアは思わず悠の袖を掴んだ。
「だ、駄目だ、ユウ・・・し、死んでしまうぞ!? せ、せめて私も助力を・・・」
このままでは悠が死んでしまうと思ったナターリアは膝を震わせながらも助力を申し出た。本来なら助ける義理など無いのだが、この場で生き残る為には協力し合うのは仕方が無い事だと自分を納得させながら。
そんな悲壮な思いを抱くナターリアの頭に手が乗せられ、ナターリアの言葉が途切れた。
「先ほど言った通り、お前は後ろで待っていろ。出来れば防壁を張ってな」
「で、でも・・・!」
一瞬、茫然自失となったナターリアだったが、再度渋る様子を見せ始めると、悠は反論を許さぬ口調で断言した。
「俺は誰にも負けん。お前が強いと言った、俺の心に掛けて。だから待っていろ、ナターリア。・・・すぐに済む」
「あ・・・」
悠の言葉にナターリアの手から力が抜け、悠の袖を解放した。そのまま踵を返すと、悠は振り返る事無くドラゴン達と相対して言った。
「スフィーロと言ったか? 貴様と一騎打ちを所望するが、返答や如何に?」
激発寸前の戦場に、一時の沈黙が訪れた。スフィーロもサイサリスも、当然悠達が纏めて掛かってくる物だと信じ込んでいたからだ。
「正気か、ニンゲンよ? まさか貴様一人で我を打ち倒せるなどと思っていまい?」
「思っている。恐れて逃げるのなら追わぬが?」
「誰が貴様らの様な下等生物を恐れるか!!! スフィーロ様、私が10数えぬ内にこの人族を討ち果たしてご覧に入れます!! どうかご命令を!!」
サイサリスが激昂し、悠と戦う許可を求めたが、スフィーロは楽しげに却下した。
「・・・面白い、実に面白い! この世に生を受けて500有余年、ニンゲンに一騎打ちを挑まれたのは初めてだ!! サイサリス、貴様は他の者共の相手をせよ。このニンゲンの相手は我がする!!」
スフィーロは笑って名乗りを上げた。
「ハハハ! 我はドラゴンが一族、スフィーロ! 名を名乗れ、ニンゲン!」
「人間、一冒険者のユウだ。いざ参る」
「覚悟しろ!! 貴様らの血でダイダラスを弔ってくれよう!!」
「弟の後を追わせてやる。行くぞ、バロー!」
「・・・この戦闘狂しか居ない空間から俺を出してくれねぇかなぁ・・・チッ、愚痴ってもしょうがねえ、やってやらぁ!!」
(ユウ・・・どうか無事で・・・)
それぞれの思惑を抱え、戦いの火蓋は切って落とされた。
最後のアイオーンのセリフ、思いっきり悪人臭いですね・・・




