4-41 原因究明11
「交渉は俺に任せるって言っただろ!? 危ねぇ真似すんなよな!」
「聞かれた事に答えただけだ。交渉は任せただろうが」
「あの時のエルフ共の顔と言ったら・・・ククク」
「アイオーンも笑ってんじゃねぇっての!」
憤慨するベロウに対し、全く普段通りの悠に妙に楽しげなアイオーン。そしてそんな3人の50メートルほど後ろには睨み続けて付いて来ているエルフ達の姿があった。
「余計な奴らが付いて来ちまった。きっとあいつら、俺達を囮にしてドラゴンとやり合うつもりだぜ? このままじゃ後ろから撃たれかねねえ」
「そうなったらまず奴らから叩き潰すだけだ。何の問題も無い」
「然り。魔法鎧を纏っていないエルフなど、甲羅を持たぬ亀同然よ。幸いにも目撃者は居らんのだ。細首叩き落としてくれる」
「まだそうと決まったワケじゃねぇんだから殺気を振りまくんじゃねえ!!」
自分以外全て戦闘思考である事にベロウは頭痛を覚えて嘆いた。喋らぬレイラに話を振っても更に過激な発言が返ってきそうで話し掛ける気にもならない。
そんなレイラは悠と『心通話』で会話をしつつやはり過激な内容を語っていた。
(ユウ、ベロウの言う通り、足手まといが居ては説得にも戦闘にも差し支えるわ。せめて意識を飛ばしてこの場に転がしておいたらどうかしら? 魔物も居ないんだから短時間なら死にはしないわよ)
(それは出来んな。女王の長子を害すればエルフはローランの領土に攻め寄せよう。俺個人がどれほど恨まれようと構わんが、そのツケをローランに回す訳にはいかんよ)
(面倒ねぇ・・・間違い無くあいつらはユウ達を害するつもりよ? それにあんなのがいちゃ『竜騎士』にもなれないわ)
(Ⅳ(フォース)ランク程度ならこのままでもよかろう。それ以上のランクのドラゴンであれば・・・例え俺達を囮にした所で奴らも無事には済まんよ。・・・奴らは己を過信し過ぎている。上手く逃げる事も叶うまい)
悠は飛んで来た弓勢や男達の動きから、その大よその力を掴んでいた。その結果は体術は話にならぬレベルと言ってよいと見取ったのだ。一番の手練はナターリアであろうが、それでもドラゴンと戦うにはまるで足りぬと言わざるを得ない。魔法的な手段で補うにしても、それ以前に攻撃を受ければ呆気無く殺されて終わるだろう。
(そうなったら助けるの、ユウ?)
(可能な限りは。だが、それもこれ以上命を狙われなければだ。こちらごと害そうとする者を助けるほど、俺はお人好しでは無いな)
(それが聞ければいいわ。つまり助けないって事になりそうだから)
(だろうな・・・稚拙な殺気がここまで届いている。あの程度では不意打ちすら不可能だが)
悠が最初に遭遇した時に弓を掴んだのも殺気を感じ取っていたからこそだ。レイラに探知して貰うまでも無く、悠はエルフに気付いていたのだから。
「ユウ、さっきから黙りこくってどうした? レイラと相談事か?」
「ああ、これからの事を話していた。それよりアイオーン、そのダンジョンとやらは後どれ位だ?」
ベロウの質問を軽く流して悠はアイオーンに問い掛けた。「エルフをどう扱うか相談していた」などと言えばまたベロウが嘆くのは目に見えていたからだ。
「既に中腹は越えている。入り口自体は山頂にある訳では無いから、およそ2時間だな」
「そうか・・・。ならばここで一度休憩にしておこう。そろそろ昼も回る」
「そうだな、一度も休まずにここまで来たんだ、メシにしようぜ。クエイドが気を利かせて『魔力回復薬』と一緒に昼飯も包んでくれてただろ?」
「目聡いな。確かに入っている様だ」
悠がクエイドに貰った箱を取り出して中を見ると、確かに食欲をそそる香りがする包みが入っている。箱の中身を見た時にベロウは全て確認していたのだった。
「まだこの辺にゃあ草も生えてるから、その辺に腰を下ろして食おうぜ」
「うむ、腹が減っては戦えん。頂こう」
そう言って一同は道を外れて腰を下ろし、箱を地に置いて包みを開くと、中から大振りのサンドイッチの様な食べ物が現れた。
「お! こりゃ美味そうだぜ!」
「細やか気配りの出来る男だな、クエイドは。帰りに土産の一つでも渡して行くか」
「美味いな、冒険中に食う飯はまた格別だ」
クエイドの心遣いとサンドイッチもどきの味に舌鼓を打つ一行であったが、それに水を差したのはやはりエルフ達であった。
「おい、貴様ら!」
「んぐっ・・・今度は何ですかね、エルフの方?」
食事をする悠達の下にエルフの男がやって来て詰問して来たのを、ベロウは嫌々ながら自分で対応した。しかし、流石に嫌気が差していたのでその口調も崩れ始めている。それは続く言葉で両者の徹底的な溝となった。
「その食料と『魔力回復薬』を我らに供出せよ! どうせこの後ドラゴンに殺されてしまう貴様らには無用の物であろう?」
「・・・は?」
「下等な人族では我らの言葉は理解出来ぬか? わざわざ貴様らの国の言葉で話してやっておると言うのに。我らはここまで来る予定は無かったゆえ、食料の持ち合わせが無い。仕方がないから貴様らのその粗末な食料で我慢してやろうと言っているのだ。ついでに『魔力回復薬』もな。貧相な魔法しか使えぬ人族が持っていても活用出来んだろうが。では持っていくぞ」
悠達の無言を肯定と取ったエルフの男は嘲りの笑みを浮かべて箱に手を伸ばしていったが、その手を最後まで伸ばす事は叶わなかった。何故なら・・・
「ギャアアアア!!!」
突然エルフの男が手を押さえて悲鳴を上げ始めたからだ。その手の甲にはいつの間にか悠の投げナイフが突き立っている。
「上からの物言いは不愉快だと言ったはずだが? それにこの食料にはクエイドの真心が込められている。粗末では無い。・・・それと貴様らは加減しろ」
「先を越されたか」
「俺はアイオーンみてぇに頭なんざ狙って無いぜ? ちょっと手首を落としてやろうかと思っただけで」
「食い物に血が掛かるだろうが。少しは考えろ」
悲鳴を上げ続けるエルフの前でなされる悠の少々的外れな説教にもベロウとアイオーンは悪びれずに抜き掛けていた己の得物をしまった。2人の殺気から破局は必至と見たからこそ、悠はそれに先んじてナイフを放ったのだ。
「き、貴様ら・・・下賎な人族の分際で高貴なるエルフになんという事を・・・!」
これほど無礼を受けた事など無いナターリアがしばし呆然とした後に、震える指を突きつけて悠達を弾劾したが、皆我関せずと食事を続け、最後まで腹に収めてからナターリアに返答した。
「好きにすればいいとは言ったが、その枠の中に俺達を含めるな。貴様も王族であるのなら行動に対する責任を知れ」
箱をしまい、転げ回るエルフの背中を踏みつけて手からナイフを回収すると悠は再び上を目指して歩き出そうとしたが、今度はそうは行かなかった。
「最早許せぬ!! 貴様らはここで朽ち果てるがいい!!」
「! 全員伏せろ!!」
ナターリアが背中の弓を引き抜いて悠を射抜こうとした瞬間、正面からの衝撃に吹き飛ばされて地面を二転三転と転がされた。悠が蹴り飛ばしたのだ。
「姫に何という事を!? ガッ!?」
その行動に憤ったエルフの男は悠に攻撃魔法を放とうとしたが、それは永遠に果たされなかった。
そのエルフの横から高速で飛翔する何者かによってエルフの男は横腹を噛みつかれたまま遥か上空に攫われてしまったからだ。その何者かとは即ち・・・
「ど、ドラゴンだぁ!!!」
口にエルフをくわえて地上の悠達を睥睨するのは、目的としていたドラゴンに他ならなかったからだ。
エルフは紙装甲です。合掌。




