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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-34 原因究明4

暮れゆく草原の中を疾駆する人影がある。馬にも勝るその人影はアザリアの町の南側に居た魔物モンスターの集団に近寄ると、大きく飛び上がってその群れを急襲した。


「ゲギャ!?」


「反応が鈍い。お前も、お前も」


オーク(豚鬼)の中でも特に大きい個体の頭を飛び蹴りで粉砕し、混乱する魔物達を次々狩っていくのは当然悠である。オークの体に突き刺さる打撃はオーク達の内臓を破壊し、目や鼻や口から濁った血液を撒き散らしながらその命を散らせていった。


一瞬たりとも足を止めずに悠はそのまま町の南門まで辿り着くと、そこには異様な魔物が2体、門を破ろうと奮戦している。人間の倍くらいの身長を持つジャイアント(巨人)だ。


《あら大きい。初めて見る魔物ね、ユウ?》


「ああ、だが急所も分かり易い。とっとと仕留めるぞ」


門を破る事に集中しているジャイアント達は悠の事には未だに気付いていない様で、体当たりをしたり、手に持つ棍棒を門に叩き付けたりしてひたすら攻撃を繰り返していた。


「シッ!」


悠はジャイアントの一体の背中を駆け上がると、その後頭部に打ち抜く様な強烈な蹴りを叩き込む。その蹴りはジャイアントの後頭部に異様な音を立ててめり込み、延髄を破壊するとジャイアントの体がビクンと痙攣し、膝からガクリと崩れ落ちて動かなくなった。


「ガァァァァアッ!!」


仲間がやられた事に気付いたもう一体のジャイアントが怒りの咆哮を上げ、悠に手に持つ棍棒を叩き付けて来たが、大振りなその攻撃が悠に当たるはずも無く、風を巻き起こしただけで空しく空を切った。


「フッ!」


大威力の攻撃を行って体が流れているジャイアントの懐に飛び込んだ悠は飛び込んだ勢いもそのままに膝に向かって関節蹴りを叩き込むと、ジャイアントの膝が爆発する様に破砕し、血と骨を飛び散らせながらその巨体に膝を付かせる。


そうなると当然、頭部が地面に近くなり、ひねりを加えて飛び上がった悠がそのこめかみに爪先を突き刺す回し蹴りを放ち、ジャイアントは脳内出血を起こして顔の穴という穴から血を噴出させて絶命させた。


「でかい図体をしたただの力自慢か」


《一応知能はあったみたいだけど、緻密な戦術を練られるほどじゃ無いみたいね》


ジャイアント2体を秒殺した悠は手応えらしい手応えも感じてはいなかったが、ジャイアントは1体でⅤ(フィフス)ランクに届く、アザリア山脈の麓では最強クラスの魔物の一つである。それが2体ともなれば、Ⅵ(シックス)と認定されてもおかしくはないのだが、悠にとっては単に体が大きい的に過ぎなかった。


そんな悠に門番から声が掛かった。


「お、おーい! 助かったぜ!! 今の内に中に入れよ!」


悠の戦闘を見守っていた門番は悠が強力な戦力になると見て、仲間に引き込もうと声を掛けたのだが、悠はその言葉に首を振った。


「見える範囲にまだかなりの魔物がいる。俺はもう少し狩ってから戻る」


「あ、お、おい、待てよ!」


悠は近くに落ちていた、元は兵士の物であろうスピアを拾うと、肩に担ぐ様にして持ち、そのまま血の匂いに引かれてやって来たフォレストウルフ(森林狼)の群れに向かって投擲した。


「!?」


「ギャン!!」


「ガァ!?」


山なりでは無く水平に投擲された槍は50メートルほど先にいたフォレストウルフ達を先頭から3匹纏めて貫き通し、そのまま地面に突き刺さる。


唖然としてそれを見つめる門番に構わず、悠は更に槍を2本拾うと、生き残ったフォレストウルフに向けて疾駆する。


50メートルを4秒と掛からず走破した悠はまるで軽い棒切れを振るう様にして二刀ならぬ二槍を振り被り、地を這う一撃とそれに平行する様に放たれた水平の一撃は、反応出来なかったフォレストウルフの足を斬り飛ばし、飛び上がって回避しようとした個体を2枚に下ろして血風を巻き起こした。


軽々と5体のフォレストウルフを蹂躙した悠だったが、フォレストウルフもその高度な連携能力からⅣ(フォース)ランクに位置する魔物であって、決してただの雑魚では無い。しかし、最初の投擲でリーダーの個体を失い連携能力にヒビを入れられたフォレストウルフに瞬時に連携を回復する様な時間は与えられなかった。


結果として10体ほど居たフォレストウルフもそこから1分と経たずに全滅の憂き目に合い、大地にその骸を晒したのだった。


《いっそ『竜騎士』になって竜砲でも撃てればすぐに終わるのにね》


「人前で竜騎士になる訳にはいくまいが・・・あと少しで日も暮れる。その後なら誤魔化す事も出来るだろうよ」


槍に付いた血を振り払う事で飛ばした悠がレイラの愚痴に答えた。時刻は午後6時を過ぎ、辺りは急速に闇に包まれ始めていた・・・








「じゃああんたらはアザリア山脈に入るのか?」


「ああ。領主であるローラン様直々の依頼だからな。ギルド長のアイオーンが居るのが何よりの証拠になると思うが?」


「あ、ああ・・・まさかⅦ(セブンス)ランクの魔物なんてのが絡んで来るとは。この町の防御力じゃこの辺りでは最強のジャイアントですら手に余るってのに」


そのジャイアントが悠に秒殺されている事を知らない町の兵士はその名を出して額の汗を拭った。ジャイアントに対する備えが十分で無いのは、普段はジャイアントは麓の森の中から出る事が無いからだ。だから森の中に入らない限りジャイアントに襲われる事は無かったからこその対応だったのだが、これまでの常識はもう通用しないらしい。


兵士と交渉するベロウはあくまで余裕のある態度を崩さない。交渉を有利に進めるコツは、相手を自分の風下に置く事だ。こちらの方が上だと認識させる事が出来れば要求を通すのは難しい事では無かった。


「明日にでも俺達は調査を開始する。一晩の宿を提供して欲しいんだが?」


「ああ、それは勿論! あんたらが居なけりゃ今晩だって持ちそうに無かったからな・・・」




「待て!!」




纏まりかけた交渉に待ったを掛ける声がその場に響き、ベロウは思わず舌打ちしたい気持ちになったが、それを表情に出す様な真似はしなかった。


「ん? 誰だアンタ?」


「ワシはこの町の町長ハモンドだ! あんたらにはこの町を守る為に力を尽くして貰う!」


そう言って現れたのはアザリアの町長であるハモンドと名乗る人物だった。その周囲には人相の悪い冒険者が数名取り巻いている。


「何を言ってるんだ? 俺達は領主直々に依頼を受けてるって言ってるだろ?」


「そんな事はどうでもいい! 嫌だと言うなら宿は提供せん! 勝手に外でくたばるがいい!!」


「は、ハモンド様・・・それは・・・」


「黙れ!! ワシに断り無く門を開けおって!」


ハモンドが諌めようとした兵士の顔を裏拳で殴り付け、兵士の口元が切れて血が飛び散った。


「いいか、貴様らは朝までこの町を守り通せ! そして明日の朝になったらワシを安全な場所まで護衛するのだ!」


思わずベロウは天を仰いだ。ここまで馬鹿な町長が居るとは予想外だったのだ。しかもハモンドは自分達をどこまでも使い潰すつもりらしい。


「はぁ・・・そんな事はそこの冒険者にでも頼んだらいいだろ? 見た所、誰も怪我一つして無いじゃねぇか。・・・大丈夫か、アンタ?」


「あ、ああ、すまない・・・」


ベロウは溜息を付いてハモンドにそう言うと、殴られて尻餅を付いている兵士に手を貸して立ち上がらせた。これは親切心というよりも、数少ない味方を確保しようと思っての事だ。


「彼らは私の個人的な護衛だ。どの様に使おうと貴様の知った事では無い!!」


その言葉に冒険者達の顔に下種な笑いが浮かんだ。自分達の優位を確信しての、他者を見下す笑いだった。


それを見てベロウも腹を据える事にした。そしてとびっきりの策に嵌める事を決意する。


「・・・黙って聞いてりゃいい気になりやがって、このクソハゲが。誰がテメェの言う事なんか聞くかよ!! テメェこそ町を守る気もねぇんだったらその御大層な護衛を連れてこの町から失せやがれ!!」


「なっ!? き、貴様!!!」


「大体よ、何でテメェだけ安全な場所に居る癖に護衛なんざ付けてんだよ! 他の戦える奴は今必死に町を守ってんだ! テメェも町長ならちっとは町に貢献しやがれ、このクソ野郎!!」


ベロウの暴言に顔を真っ赤にして絶句するハモンドだったが、ベロウの狙いは別にハモンドを怒らせる事では無かった。むしろ、自分の言葉を周囲に居る人間達に聞かせる事が目的だったのだ。


「しかも朝まで戦って安全な場所に連れて行けだぁ? ふざけんじゃねぇ!! 町長なら町の人間をどうやって生き残らせるか考えるべきだろうが!! テメェの事は帰ったらローラン様に報告させて貰う!! 精々残りの短い権力を楽しむんだな!! ・・・分かったらサッサと失せろ、老害!!!」


ベロウは激昂している風を装いつつ、町長を弾劾し先が無い事を周囲の人間に知らしめる。利を説き感情に訴えるベロウの言に周囲の人々の目は次第に熱を帯びていった。


「こ、こやつを捕えろ!! 殺しても構わん!!」


ついにハモンドの短い堪忍袋の緒が切れ、周囲の冒険者に向かって号令を飛ばすと、数の優位を傘に着て冒険者達がベロウを取り囲んだ。


「馬鹿の周りにゃ馬鹿しか居ねぇな。テメェらもこんな事に加勢してどうする気だ? もし俺を殺してもこの国に居場所なんざねぇぞ?」


「知った事か! 俺達はこんな所でくたばる気はねぇんだよ!!」


護衛のリーダーらしき男がベロウに言い返して剣を抜くと、取り囲む冒険者達も各々武器を構えた。


「こんな状況じゃ、フェルゼンに情報が伝わるのはもっと後になる。その間に俺達はサッサと他の国に行かせて貰うって寸法さ。だからテメェは死ね!!」


リーダーはそう言って剣を振り被った。対してベロウはまだ剣に手を掛けただけだ。それを見た周囲の人々の脳裏にベロウが斬り伏せられて血を撒き散らす姿が幻視されたが、結果は全く異なる物だった。


「フッ!」


リーダーの剣が振り下ろされる間にベロウが剣を抜き、そして高速で振るう。リーダーがそのまま振り下ろした格好になったが、ベロウは無傷だった。なぜなら、


「う・・・うう・・・ギャァァァァア!!!」


リーダーの悲鳴と共に地面にボトリと落ちたのは、リーダーの剣を持った両手だった。ベロウの剣は振り下ろされるリーダーの両手を目にも止まらぬ速さで切断していたのだ。


「おっせぇよ。そんな腕で誰を護衛しようってんだ?」


「ひ、ひぃぃぃぃい!!」


「野郎! ギャッ!?」


「こ、この! げぇ!?」


血を撒き散らすリーダーを見てハモンドの口から恐怖の悲鳴が上がった。それを聞いた周囲の冒険者達も応戦しようと身構えかけたが、それより先に行動を開始していたベロウの剣で一人は首を半ば断ち切られ、もう一人も返す刃で腹を裂かれて内臓をその場に撒き散らした。


「こ、コイツ、つ、強いぞ!!」


「お、落ち着け!! 遠間から槍で攻撃――」


「馬鹿が、よそ見してんじゃねぇよ!」


恐慌状態に陥りかけた槍使いの男を叱咤する為に横を向いた男の足を視界から消えたベロウがしゃがみ込んで斬り飛ばした。


「いぎぃぃぃぃいッ!?」


瞬く間に4人の護衛を戦闘不能に陥らせたベロウと周囲の惨状を見て、槍使いの男の手から槍が落ち、その場に崩れ落ちた。股間からは湯気が立ち上っている。


「た、助け――」


「てはやらねえ。あばよ」


槍使いの言葉に被せてベロウが言うと同時に剣を真横に薙ぐと、槍使いの男の首が断たれ、血を撒き散らしながら自らの血の中に沈んでいった。


どうせこの場で生かしても槍使いの運命は死罪以外に有り得ない。だからこそ周囲の人間もそれを止める様な事はしなかった。


そして残るのは・・・最後の仕上げだけだ。

結局全員戦う羽目になると。


今のベロウならこのくらい出来ます。というか元々出来たんですが。


気の持ちようで随分変わりますね。

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