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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-32 原因究明2

「俺の居ない間、ビリーとミリーが皆に戦いの初歩を教える。良く言う事を聞いて暮らす様に」


「「「はい!!」」」


「それと蒼凪、お前だけはまだ訓練に参加するな。まずは体を治す事に努めろ、いいな?」


「はい、悠先生」


と、そこで悠は一人様子がおかしい事に気付いた。元気よく皆が返事をする中、始の顔色が優れず、声にも張りが無いのだ。


「・・・バロー、アイオーンを連れて外へ。始はこの場に残ってくれ。少し話がある」


「あん? ・・・ああ、分かったぜ。行くぞアイオーン」


「手早く済ませろよ、ユウ」


「分かっている。他の皆は広間に行ってくれ」


「「「はーい!」」」


「はじめー! 先に行ってるぞーー!!」


悠の号令でバローとアイオーンは外へ行き、始以外の子供達は不思議そうな顔をしながらもビリーとミリーに先導されて広間へと移動していった。


「さて・・・言いたい事があるなら今の内に言ってくれ、始?」


悠は片膝を付いて始の目線に合わせて尋ねた。


「ぼ、ぼくはべつに・・・」


「俺の目を見てそう言えるか、始?」


「う・・・うう・・・・・・」


悠に正面から見据えられて始は忙しなく視線を漂わせた。その目に少しずつ涙が溜まっていく。


悠は思い当たる事があり、始に問う。


「・・・戦いたくないか、始?」


「えっ!? な、なんで分かるの? あっ!?」


図星を付かれた始が思わず正直に悠に答え、慌てて口を押さえた。


「だ、だめっ! みんなにはないしょにして、ゆうせんせい!」


「誰にも言わんさ。だがどうして始は戦いたく無いんだ?」


「・・・だって・・・こわいもん・・・」


悠の吸い込まれる様な深い色の瞳に見つめられて、始は正直に答えた。智樹や小雪も戦いを嫌う傾向があったが、悠との対話や先の戦いで奮戦しその葛藤を乗り越えていた。が、始は未だ自分が戦うという事に大きな恐怖を抱いたままだったのだ。


「殴られるのが怖いか?」


「・・・それもある、けど・・・なぐるのも、やだ・・・」


始は暴力そのものに対して忌避感を持っていた。変身ヒーローは大好きだったが、それは彼らの身体的能力や形状、そしてその善性に因る所が大きい。物語のヒーローは誤らないし、敵はどう見ても悪者だった。自分に自信の無い始にとって、揺ぎ無い彼らは憧れの存在だったのだ。


しかし、いざ自分がそれをやろうとすると、途端に始の心に恐怖が押し寄せた。当然の事だが、叩かれれば痛いし、叩くと相手も痛い。始は感受性豊かで、相手の痛みも自分の痛みとして受け取ってしまうのだ。


悠はそんな始に言うべき言葉を探していた。軍ならば甘えた事を言っている者など叩きのめしてから諭せばいいが、事は子供の情操教育に関わる事だ。悠は子供達を軍人に仕立て上げて故郷に帰したいのでは無く、自らの個性を保ったまま、健やかに故郷へ帰してやりたいのだ。


だから悠は始の頭に手を乗せた。


その瞬間に始は目を瞑りビクッと体が強張ったが、動かない悠の手を感じ、怒られるのでは無いと分かって恐る恐る目を開けた。


「・・・ゆう、せんせい?」


「優しいな、始は。相手に痛い思いをさせたくないんだろう?」


「うん・・・ないてる人を見るの、やだ・・・」


「そうか・・・でも始、例えば京介が誰かに泣かされていたら始はどうする?」


「え? えっと、えっと・・・な、なかしてる人にやめなよって言う」


「そうだな。だがそれがとても悪い人で止めなかったら? それともその相手が魔物モンスターだったらどうする? 始の言葉を無視して京介に酷い事を続けても始は何もしないか?」


「あう・・・えと・・・えっと・・・」


始は思考が袋小路にはまり込んで返答出来なくなった。京介は助けたい、でも戦うのは怖い、相手を止めようとしても止まってくれず、京介は泣き続ける、でも戦うのは怖くて・・・と、思考は堂々巡りを続けていた。


「始、だから俺は戦って来た。俺の大切な者を泣かせる者達から彼らを守る為に。皆が皆戦う「力」を持っている強い人間では無い。だが、人間は誰しもが戦おうと踏み出せる「勇気」を持っていると俺は思う」


悠は始の頭を撫でながら続けた。


「始、もしそこでお前が何もせずに京介を見捨てたら・・・次からは戦う事がもっともっと怖くなる。それはこの先、ずっと、ずっと・・・始が大きくなって、年を取って、老人になっても、ずっとな。それこそが本当に怖い事なんだ」


「ずっと、ずーっと?」


「ずーっとだ。それに比べたら戦う事なんて怖い事じゃ無いと始にも分かる時が来ると思う。現に、俺はお前達を守れなかったらと思うととても怖い。それに比べたら殴られるのなんてどうでもいいと思える位にな」


「え!? ゆうせんせいもこわいって思うときがあるの?」


始は悠の言葉に本気で驚いていた。悠は斬られても殴られても痛いと言わないし泣いたりもしない。怖い目にあっても怖いと言う事も無い。だから始は悠がヒーローだから特別だと思っていたのだ。


「ああ、ある。始にだけ教えておくが、俺とて痛いと思う時もあるし、苦しいと思う時もある。そして怖いと思う事もな。・・・男と男の秘密だぞ?」


「う、うん! おとことおとこのやくそくはまもらなきゃダメだってきょうすけくんも言ってた!」


始は悠を秘密を共有した事が嬉しくて笑顔になった。そして悠に向かって小指を差し出した。


「ゆうせんせい、ゆびきりしよ?」


「指切り?」


「ぼくたちのところではやくそくするときにするの。ゆうせんせいもこゆびを出して?」


「ああ、こうか?」


悠が見様見真似で小指を差し出すと、そこに始の小指が絡められた。


「ゆびきりげんまんうそついたらはり千本のーます、ゆびきった! ・・・えへへ、これでやくそくしたしょうこだよ?」


「ああ、約束だな。・・・始、最初は学校でやっている様な感じでやってみろ。怖い事から逃げられる様に走るだけでもいい。もし怪我をしてもちゃんと治してやる。だから・・・頑張れ」


「うん。ぼく、がんばってみる」


「そうか。帰って来た時に始が頑張っているのが分かるくらい頑張っていたら一緒にフェルゼンに花を見に行こうな。あの図鑑を持って」


「ほんと!? じゃあいっぱいいっぱいがんばる!」


「いい返事だ。・・・そろそろ俺も出掛けようか。じゃあな、始」


「いってらっしゃい、ゆうせんせい!!」


いつの間にか始の顔には既に暗い影はすっかり無くなっており、元気な笑顔で悠は送り出されたのだった。

始の悩み解消回。『蓬莱ほうらい』に指切りの文化は無かったので始に教えて貰いました。


悠はよく約束するので、今後も指切りを続けるでしょう。


子供の悩み相談室の様な回でしたが、上手く伝えたい事が伝わるか心配です。要は大人も相手が子供だと馬鹿にせず、真摯に向き合いましょうという事です。自分を飾らずに子供目線で話すのは案外難しい物ですね。

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