4-27 花の都フェルゼン13
「せ、説明してくれないか、ユウ?」
ローランは混乱の極みといった体で悠に事の次第を尋ねた。
「『顕現』と呼ばれる技の応用だ。レイラの精神・魂を写し取ってその指輪に定着させた。ささやかながら、俺とレイラからの出産祝いだ」
《『分体』とも言うけどね。流石に竜騎士化は出来ないけど、簡易的な結界や治癒くらいなら出来るから、何かあったら頼るといいわ》
「そ、そんな事が・・・信じられないよ。それを使えばいくらでもレイラの分身を作れるじゃないか!」
ローランの言葉に悠は首を横に振った。
「そう上手くはいかん。その『分体』にはレイラの力の一部を封じ込めてある。幾つかは作れようが、その分レイラの力が落ちてしまうからな」
今ミレニアの指に嵌っている指輪にはレイラの力が5%ほど込められている。つまり現在のレイラは元の95%程度になっているのだ。
「そんな!? ユウ、君という男は・・・!」
ローランは事の重大さにまたしても蒼白になった。まさか悠が自らの妻に対してここまでしてくれるとは思ってもいなかったのだ。
「ゆ、ユウさん、これはユウさんにとって大切な物なのでは? お、お返しした方が・・・」
「気にするな。レイラも了承した事だ」
《そうそう、素直に受け取っておきなさいな。何かあったらユウに助けを呼ぶ事も出来るわ》
ミレニアがローランの顔色を見て、事の重大さに薄々気付いて返却を申し出たが、悠もレイラも首肯しなかった。
「ユウ・・・何故だい? 私の家内だとしても、今日初めて会った人間だろう? 何故そこまでミレニアに・・・」
ローランは青くなりながらも悠とレイラのミレニアへの厚遇が理解出来なかった。自分への友情だけでここまでしてくれる物だろうか? 後ろ盾として公爵家の力を欲するからか? ローランの頭に様々な憶測が駆け巡ったが、悠の言葉はもっとずっと・・・当たり前の事だった。
「何故・・・か。そうだな、強いて言えば未来を見たからか。・・・俺がここに来てからというもの、失われる物ばかりを見て来た気がする。だが、今日新しい命の誕生を見て、俺はこの世界の未来を感じた。それを一番信頼する者に見守って欲しいと思った。だからミレニアにレイラの『分体』を託そうと思った。あとは・・・」
《私とユウで取り上げた子ですもの。守ってあげたいと思うのはおかしいかしら、ローラン?》
「!」
2人の言葉を聞いたローランはその場に崩れ落ち、俯いたまま嗚咽を漏らし始めた。
「私は・・・何と下種な考えを・・・! ユウ、レイラ、あ、ありがとう、ありがとう!!」
涙を流しながら礼を言い続けるローランの側に片膝を付いて、悠は肩に手を置いた。
「泣くな、ローラン。妻子の前で父親が泣いていては様にならんだろうが?」
「く・・・ハハ・・・君はいつだって冷静なんだね、ユウ。ハハ、ハハハ・・・」
いつしかアルトやミレニア、アランも涙に目を濡らしていた。そしてこの強く、それ以上に大きな優しさを持つ悠という男に敬意を抱いたのだった。
「さて、レイラが居れば俺が付き添う事も無いだろう。・・・元気に育てよ。アラン、樹里亜と神奈を部屋まで運ぶから案内を頼めるか? それと広間に居る皆にも、もし起きていたら無事済んだと伝えて欲しい」
「はい、畏まりました、ユウ様。広間の皆様はソファーでお休みになっていますので、後ほどもう一度様子を見て参ります」
悠はさらりとその場を流し、ドアを開けると、先ほどよりも丁寧な気持ちを込めたアランに先導され、樹里亜を横抱きにすると部屋を後にした。
「・・・なんて男だ・・・私は素晴らしい男と友誼を結んだのだな・・・」
「僕、やっぱりユウ先生みたいな人になりたいです・・・」
「アナタやアルトが惚れ込む理由が少しだけ分かりましたわ。・・・とっても大きな方ですわね」
《無愛想で仏頂面ですけどね》
レイラが付け加えた一言で緊張が解れた一同に自然と笑いが起こった。
「ハハハ! 確かにユウの感情は読めないね!」
「プッ、ククク・・・わ、悪いですよ父さま!」
「ウフフ、そういうアルトも笑ってるわよ?」
ひとしきり3人が笑ったあとに、ローランがふと表情を微笑みに変えてミレニアに話し掛けた。
「ねぇ、ミレニア、突然だけど子供の名前を思い付いたんだ。聞いてくれるかい?」
「あら、早いわね? いいわ、伺います」
ある種の予感を感じながらもミレニアは笑顔でローランの言葉を待った。
「男の子の名はユーリ、女の子の名はレイリアっていうのはどうかな?」
「とっても素敵だと思いますわ。ユーリ・フェルゼニアスとレイリア・フェルゼニアスね・・・ふふ、やっぱりアナタの事だから、ユウさんとレイラさんから名前を貰ったんでしょう?」
「アハハ、流石にすぐに気付くよね? ・・・でも、思い付きで決めたんじゃ無いんだ・・・ユウやレイラの様に、強く、そして優しく育って欲しいと思ったからこそなんだよ・・・」
「ええ、分かっていますわ、アナタ・・・」
「ユーリとレイリアかぁ・・・よろしくね、2人共」
アルトが産まれたばかりの2人の手をチョンとつつくと、眠ったままの赤子2人はきゅっとその指を掴んだ。
「2人を取り上げたのは英雄と竜なんだもん。きっと元気に育つよね・・・」
《ええ、きっとね。これからもよろしくね》
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします。レイラさん」
《友達にさんなんて付けて呼ぶ物では無いわよ、ミレニア?》
「ウフ、そうね・・・レイラ」
自分の指に親愛の情を込めてミレニアが語り掛けた。初めての親友に。
「くか~~・・・ううん、悠しぇんしぇ・・・えへへ・・・」
ただ一人事態に付いて行っていない神奈も夢の中でそれなりに幸せそうであった。
最後の最後に誤字を見つけて訂正しました。




