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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-26 花の都フェルゼン12

「ユウ!!」


「分かっている。早速処置を始めるぞ。アラン、大小の桶を幾つか用意してくれ」


部屋に戻った悠達を焦った顔のローランが出迎えた。悠は心得ているとばかりにアランに新たな指示を飛ばす。


「既にご用意致しております、ユウ様」


「助かる。樹里亜、神奈、湯で手を消毒しろ」


「「は、はい!」」


「レイラ、生体管理は任せる。異常があれば伝えてくれ」


《了解よ》


自らも熱い湯で手を洗いながら、悠は各自に指示を飛ばした。


「ではこれより取り掛かる。ミレニア、俺の指示に従ってくれ」


「あぐ・・・は、はい・・・っ!」


「ユウ、私達はどうすれば?」


「外に出ていろ。終わったら呼ぶ」


「行きましょう、ローラン様、若様。我々が居るとユウ様の邪魔になります。ユウ様、外で控えておりますので、何かあったらお呼び下さい」


ローランとしてはこの場に留まりたかったのだが、アランに促されると渋々部屋を出て行った。が、振り返って悠に一言だけ誓願する。


「ユウ・・・ミレニアを、頼む」


「任せろ。これが終わればお前は二児の父親だ。名前でも考えておくんだな」


力強く請け負う悠に力無い笑みを送って今度こそローランは心配そうに振り返るアルトと共に部屋を出て行った。








それから3時間後。


「ふぁぁぁあ!!」


部屋の中に産まれたばかりの赤ん坊の声が響き渡ったのを聞いたローランとアルトは眠り掛けていた所であったせいで仲良くソファーから転げ落ちた。


「あたっ!?」


「う、産まれたのかい、ユウッ!!」


「入るなッ!!」


地面を這いながらドアを開こうとしたローランに中から悠の鋭く制止する声がして、ローランはビクッと体を硬直させた。


「ど、どうしたんだい、ユウ! まさか子供に何か問題でも?」


自分で想像して、ローランの顔が真っ青になった。目や耳、手足はちゃんと揃っているんだろうか? いや、それでも生きていけるのなら構わない。まさか、生きていけない様な障害が・・・


中から聞こえる悠の声音からは何も伺い知る事は出来ず、続く悠の言葉が更にローランの不安を煽った。


「・・・ローラン、お前に言った事を訂正せねばならん」


「どういう事なんだ、ユウ!!! ま、まさか赤子かミレニアに・・・ここを開けてくれ!!! ユウーーーッ!!!」


「ユウ先生、う、嘘・・・ですよね? 答えて下さい、ユウ先生!!!」


悲壮な顔でドアを叩く2人が、あくまで冷静な悠の次の言葉で動きを止めた。




「何を取り乱しているのだ? 訂正すると言ったのはお前が二児の父になると言った事だ」




「・・・え? え? そ、それはどういう・・・?」


「普段は明晰なローランも家族の事になると頭の回転も鈍りがちだな。赤子は一人ではない。もう一人いる」


「なるほど、双子で御座いましたか。確かに二児の父では御座いませんな」


冷静さを保っていたアランが事実を指摘すると、ローランとアルトはズルズルとその場に崩れ落ちた。


「お、驚かせないでくれないか、ユウ・・・」


「こ、腰が抜けました・・・」


「とにかく、出産はもうしばらく掛かる。アラン、湯と布の追加を頼む」


「畏まりました、すぐにお持ち致します」


悠の指示を聞いたアランはすぐに遂行すべくその場から立ち去った。


「はぁぁぁぁ・・・寿命が10年は縮んだよ」


「僕の時も大変だったのかな、母さま・・・」


「お互い、役に立てないのは悔しいねぇ、アルト?」


「はい・・・父さま、終わったら、母さまにうんと優しくしましょうね?」


「勿論だとも。きっとユウなら大丈夫さ」


そう言いながら、祈る様な視線でドアを見つめるローランだった。








《ユウ、済んだかしら?》


「ああ、多少取り乱しはしたがな。続けるぞ」


それを聞いて疲労困憊といった樹里亜が神奈にバトンタッチした。


「か、神奈、後をお願い・・・」


「ま、任せとけ!」


神奈の顔にも疲労の色が濃かったが、樹里亜にこれ以上は無理だと判断して体に残った力を振り絞って椅子から立ち上がった。


「神奈、産まれた子を頼む。湯で洗って清潔な布で包んで隣のベットに寝かせてくれ」


「は、はいぃ・・・」


「すまんな、もう一踏ん張りだ」


そう言って励ます悠の顔には焦りも疲労も見られない。元々数日の徹夜で動けなくなる様な柔な体でも精神でも無いのだ。


《私も迂闊だったわ。一人取り出すまでもう一人の存在に気付かないなんて・・・》


「赤子と母体はそれ自体がある意味一つの生命体だ。分かりにくいのも無理はない。これ以上母体に負担を掛けたくない。手早く終わらせるぞ」


《了解。ミレニア、もう少しだけ頑張ってね》


「は、はい・・・」


ミレニアは当初からこの場に居ないのに聞こえて来る女性の声を不思議に思っていたが、何故か恐怖は感じなかった。それどころか、その慈しみを感じる声に大きな安心感を得ていたのだった。


(見えないけれど、感じるわ。私を助けてくれる女の人の存在を。ありがとうございます・・・私、頑張りますわ)


二人目の赤子が取り上げられたのは、それから1時間後の事であった。








「あうあー」


「スー・・・スー・・・」


「良く頑張ったな、ミレニア。少し眠るといい」


「ええ、でももう少しだけこうして居たいんです」


「女の子と男の子かぁ・・・私とアルト、両方の願いが叶ったね」


「はい・・・僕の弟と妹・・・」


「ご無事で何よりでした、ミレニア様」


「「くー・・・」」


両手に我が子を抱くミレニアの顔は憔悴しているが、それ以上の喜びに満ち溢れていた。アルト以後、中々子供が出来なかったのはミレニアの密かな悩みの一つだったのだ。


周囲も祝福ムードでそれを見守っているが、樹里亜と神奈は疲労の為に既に部屋のソファーでダウンしていた。


「ローラン、お前も少し眠れ。ミレニアと赤子の事は俺が看ていよう」


「ユウ様こそ少しお休みになって下さい。一晩中働いたのは他ならぬユウ様なのですから」


「その言葉はありがたいが、この程度でへばる様な鍛え方はしておらんよ、アラン。俺が疲れている様に見えるか?」


「・・・残念ながら全く。やれやれ、冒険者とは凄いですな」


「ユウ先生は特別だよ、アラン」


「そういう事だね。その辺の事情も追々アランとミレニア、2人にも話すさ。いいだろう、ユウ?」


ローランの問い掛けに悠は首肯した。


「ああ、お前が話していいと思う相手なら構わんよ」


「何か複雑な事情がおありの様ですな。後ほど聞かせて頂きましょう」


「ええ。あの、それと一つ聞きたいのですが・・・ユウさん、出産の時に女性の声がした様に思うんですけれど、他に誰かいらっしゃいましたか?」


「私も聞きましたな。ユウ様?」


2人の質問には悠では無く、レイラが答えた。


《私よ。レイラって言うの。ユウのパートナーをしてるわ。2人共よろしくね?》


「まぁ! ペンダントから声が・・・!」


「ほう! ・・・ユウ様はこの様な魔道具までお持ちでしたか」


突然ペンダントから聞こえて来たレイラの声に、2人共目を丸くして驚いていた。


「ミレニアの状態管理をしてくれたのはこのレイラだ。紹介する暇も無くて悪かったな」


「いえ、いいんです・・・あの、ユウさん、レイラさんをお譲りして頂く訳にはいきませんか?」


「ん? どうしたんだい、ミレニア? 君は宝石がこの上なく好きだという訳でも無いだろう?」


意を決して切り出したミレニアにローランが不思議そうに聞き返した。


ミレニアは公爵夫人でありながら、清潔は好んだが華美である事はあまり好まない性格であった。本人自体が宝石などで飾る必要も無いくらいの美貌の持ち主であるので特にその事について言われた事は無かったが、ローランからの贈り物も本や可愛らしい小物が多い。


「理由を聞いてもいいか?」


「・・・私、不安だったんです。2度目とはいえ出産は色々と怖い事もありますし、お医者様も来れないとお聞きして・・・そんな時、レイラさんの声が聞こえて、私、凄く安心出来て・・・だから、レイラさんに・・・私のお友達になって欲しいと思ったんです」


ミレニアには同性の友人が少ない。それはローランとは違い、身分が低い家から嫁いで来たミレニアに対する一種の差別の様な物だった。低いといっても貴族の家なのだが、元々の爵位というのも貴族の間では重要な要素の一つだったのだ。それに、ミレニアは美し過ぎた。同性にとっては成り上がりで逆玉、更に美しいとくれば、近寄るよりも敬して遠ざけるのも無理は無いかもしれない。


「ミレニア・・・」


そんなミレニアの胸中を知るローランは頭を抱えた。金で解決出来るのならいくら払っても叶えてやりたいが、こればかりは無理であると知っていたからだ。


「・・・そうか」


《ねぇ、ユウ、アレならいいんじゃないかしら?》


「ああ、俺も今同じ事を考えていた。レイラがいいのなら俺は構わん」


悠とレイラは2人だけに通じる会話をし、悠が改めてミレニアに問い掛けた。


「ミレニア、普段から身に着けている物はあるか?」


「え? ・・・そうですわね・・・私が普段から身に着けている物と言ったら、この指輪くらいですが・・・」


ミレニアが傍らに赤子をそっと置いて、悠に自分の左手を見せた。そこには金のリングに赤い宝石が嵌っている指輪があった。


「では全員、今から何が起こっても他言無用に頼む」


悠が疑問符を浮かべる全員にそう言うと、ペンダントを掲げて宣言した。


「変、身っ!」


悠の持つペンダントが赤い光を放ち、そこから出た赤い靄が悠の体を包み、体に装着されていく。


「キャッ!?」


「こ、これは!?」


驚くミレニアとアランを捨て置き、悠は更にレイラへと要請した。


「レイラ、『竜気解放・プラーナリバレート・サード』だ」


《分かったわ。・・・『竜気解放・参』!》


鎧の一部が変化し、その隙間から莫大な赤いオーラが立ち上るのをミレニアとアランは呆然と眺めていた。


「ミレニア、左手を」


「・・・え? あ、はい!」


悠に言われて差し出されたミレニアの左手を悠が両手で包み、レイラに仕上げを頼んだ。


「レイラ、『顕現マニフェステイション』を」


《行くわよ・・・『顕現』!!!》


レイラが気合の雄叫びを上げると、悠から立ち上る赤いオーラが収束し、悠の手からミレニアの指輪へと注ぎ込まれる様に吸い込まれた。


そして待つ事10秒ほどで赤いオーラの収束は収まり、悠が竜騎士化を解除する。


「レイラ、解除を」


《ええ。上手く行ったと思うわよ》


レイラの言葉が終わる頃には、そこにはいつも通りの悠が立っていた。


「ゆ、ユウ、君は一体何をしたんだい? 特に何かあった様には見えないんだが?」


ローランの悠への質問に、別の場所から声が帰って来た。




《あら、これでもまだ分からないかしら?》




その声にローランの頭が混乱した。悠は今目の前に居て、当然レイラもそこに居るのに、レイラの声が後ろから聞こえたのだ。そして振り返ったローランの目に驚くべき物が映った。


「れ、レイラ・・・なのか!?」


《ええ、そうよ。貴方の知っているレイラで間違いは無いわ、ローラン?》


それはミレニアの指輪から話す、レイラに他ならなかったのだから。

出産に手間取りましたが、概ね予定通りに。


少し長くなりました。

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