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1-14 墓前1

献花と挨拶を済ませた悠は高天原たかまがはらの郊外へと足を進めていた。実家に向かうにはレイラで飛んでいく必要があるが、戦時ならばともかく、今そのような事をしてはまたドラゴンが襲ってきたのかといらぬ混乱を人々に与える事になる。そのため、こうして人気の無い郊外から出発しようとしていたのだ。


「レイラ、実家への往復でどの程度竜気プラーナがかかる?」


《そうね、200キロ程度なら1%もかからないわ。戦闘速度で向かう事でもないし、往復でも2%弱って所ね。ただし、時間は2時間くらいかかるわよ》


「そんな所だろうな。昨日結構大量に竜気を使ったが、回復具合はどうだ?」


《戦闘が無いと速いわね。昨日使った分はもう半分取り戻しているわ。現在で40%くらい》


竜気は大体戦闘無しの状態で一日10%ほど回復する。悠は対アポカリプスで手足を片方ずつ無くし、身体の損傷の治療などでも竜気を食っていたので、低位活動モードに落ちるのを防ぐためにも、しばらくは義肢で生活していたのだ。


「ならば、問題は無さそうだな。では行くか」


《ええ。・・・? ユウ、ちょっと待って、そこの林の中に生体反応があるわ。こっちに向かって来てる》


「龍か?」


レイラからの情報に悠は目を細める。このように都にほど近い場所に龍がいるとなっては大問題だ。しかしレイラは否定の意を返した。


《いいえ、これは・・・人間ね。しかも子供で二人よ」


「子供二人でこのような場所に出歩いているとは、危険だな」


都が見える程度の郊外といえど、まだ完全に安全となった訳では無い。それは悠の警戒具合からも分かる事だ。やがて林の中を駆けてくる幼い女の子が見えてきた。


「おねーーーちゃーーーん!! やっぱりここにしかないよーーーー!!」


大きな声を張り上げて走ってきた女の子は木の上に注意を払っていたせいか、そのまま数歩走った所で足元の木の根に引っかかって盛大にコケた。


「ぶわぁぁぁ!!! ・・・・・・う、う、うぇぇぇええええええん!!!!」


それを見た悠は咄嗟に駆け出して、女の子を助け起こした。


「大丈夫か?痛い所は無いか?」


女の子の服の汚れを払いながら、悠は女の子に、悠にしては優しく尋ねた。


「あしが、あしがいたいよぅ~~~!!」


その時ようやく追いついた少女の姉と思われる女の子が慌てて妹に駆け寄ってきた。


めい、だから走っちゃ駄目って言ったのに! すみません、妹がご迷、わ、く・・・」


謝罪してきた15,6と思しき少女は、喋っているうちに、目の前に居る人物が誰なのかを悟ったらしく、その語尾は消え入るように小さくなり、顔からは血の気が引いていった。


「も、もしや貴方様は神崎竜しょ」


悠はスッと人差し指を口の前に立ててそれを遮った。まずは氏素性よりもこの明と呼ばれる幼女の治療が先だろう。そのまま明の前に片膝をついて怪我の具合を確かめた。


「レイラ、骨に異常は無いか?」


《ええ、ちょっと膝を擦りむいてしまっているけど、折れたりヒビが入ったりはしてないわ。筋も傷つけてないから、このまま消毒と治癒促進するわね》


「頼む」


そうして悠が傷の上に手をかざす事数秒。赤い靄が漏れ出る手の平を外すと、そこには傷一つ無い綺麗な肌が再生していた。


「ぐす・・・ん? あれ? おねえちゃん! もういたくないよ!」


泣いていた明は消え去った足の痛みに途端に笑顔になり、姉に抱きついた。当の姉は顔を青くしたり赤くしたりしながら妹共々その場に平伏した。


「も、も、も、申し訳ありませんでした、神崎竜将閣下!!!」


妹の明もなんだか良く分からないけれもど、姉に倣ってお礼を言った。


「ありがとー、おにいちゃん! でもおにいちゃんのおなまえながいね。りゅうおにいちゃんてよんでもいーい?」


妹の暴言に姉は気絶しかけたが、なんとか意思の力を振り絞って耐えた。


「自分は神崎 悠だ。悠でいい」


「そっかー、じゃあゆうおにいちゃんだね~」


にへっと笑う明の口を塞いだ姉は、再度悠に向き直って半泣きで謝罪した。


「ご、ごめんなさい!! 子供の言う事ですのでお許し下さいぃぃ!!」


「構わない、気にせずに頭を上げなさい。君達は?」


姉に口を塞がれてふごふご言っていた明がぐいっと姉の手をどけると、元気良く自己紹介した。


「たかなしめいです! ろくさいです!」


小鳥遊たかなし けいです。15歳です・・・」


元気一杯といった明とは対照的に、精根尽き果てたといった風情の恵。


「そうか、明と恵か。しかし子供だけで郊外に来るのは感心しないぞ。龍の首魁が滅んだとはいえ、全ての龍共が滅ぼされた訳でも無いのだからな」


「でも、でも、おそなえするおはながほしかったんだもん・・・」


「すみません、いけないとは思ったのですが、どうしてもお父さんにお供えする献花として、あの花が欲しかったんです」


そういう恵の目線の先には、白い花の咲いた木があった。


「このお花、なんていう名前なのかは知りませんけれど、生きている時、お父さんが好きだったお花で、お母さんにプロポーズする時にもこのお花を渡したんだそうです。それで、どうしてもお母さんにこのお花を渡してあげたくて・・・ごめんなさい・・・」


落ち込む二人に悠は静かに告げた。


「銀木犀だ」


「え?」


「この花の名前だ。銀木犀という」


「ぎんもくせい・・・」


銀木犀は秋に花を付け、その香りは甘く、可愛らしい。本来は9~10月に咲く花であるが、この木は特に遅く咲いたようで、周りには他に咲いている銀木犀は無い。


「ちょっと待っていなさい」


直後、悠は3メートルほど飛び上がって、目にも止まらぬ速さで手刀を一閃し舞い降りた。その手には銀木犀が一枝握り込まれていた。


「さぁ、これを持って行きなさい」


「わぁ! ありがとう、ゆうおにいちゃん!!」


「あ、ありがとうございます神崎竜・・・いえ、ゆ、悠さん! お詳しいのですね、お花に」


悠に抱きついていく明を少し羨ましそうに見やりながら恵は尋ねた。悠も明を抱き止めながらそれに答える。


「いや、そんな訳では無い。自分の母上もこの花が好きだった故だ。・・・君の父上と母上は結婚される前から長くお付き合いしていたのではないかな?」


「え、ど、どうして分かるんですか? 確かにお父さんとお母さんは幼馴染だったとは聞いていますけど・・・」


「その花の花言葉は・・・『初恋』だ。であれば、昔から知り合いだったのではないかと思っただけだ」


「初恋・・・」


父に聞いても赤くなるだけで花の名前すら教えてくれなかった訳が今やっと分かった。母に聞いてもニコニコするばかりで教えてくれなかったのだが、その理由も。


「ん~~~~、はい! ゆうおにいちゃん!!」


恵の持つ枝にぐーっと手を伸ばして明は花を一房むしると、その花を悠の目の前に差し出した。


「おおきくなって、まだゆうおにいちゃんがケッコンしてなかったら、めいがおよめさんになってあげる!」


「そうか、ありがとう。強く育てよ」


受け取ろうとした悠だったが、明を抱きとめているために手が塞がっていた。


「わ、私に貸して! 明!」


明の手から花を取ると、恵は悠のポケットにそっと花を差し込んだ。自分の心に今生まれたばかりの精一杯の気持ちも乗せて。


「ありがとう、ではそろそろ帰りなさい。母上もご心配されているかもしれん。献花にも行かなければならないのだろう?」


「あっ、そうだった! おねえちゃん行こう!」


「ほら、もう走っちゃ駄目よ、明。悠さん、本当にありがとうございました・・・ま、また、お会いできますでしょうか?」


「高天原にいる時なら会えるかもしれんな。さぁ、行きなさい」


「はい、では!」


「またねー、ゆうおにいちゃーーーん!!」


そうして姉妹は銀木犀を片手にもう片方でお互いの手を繋いで帰っていった。


《なんでユウはあの優しさを他の女の子には発揮出来ないのかしらね・・・》


「子供には優しくするのが大人の務めだ。子供達は傷付き過ぎた。この時代はな」


《・・・そうかもしれないわね》


過去に思いを馳せたレイラに、悠は出発を促した。


「さあ、少し時間を食ったな。レイラ、少々急ぐぞ。幸い、墓前に供える花も手に入ったからな」


その悠の胸には銀木犀が淡い香りを発しながら揺れていた。


《ええ、じゃあ行きましょう》


そうして二人は空の上に飛び立ったのだった。

銀木犀は自分が大好きな花なのでエピソードに加えた・・・ワケじゃありません。


むしろ姉妹の方がこれから子供達と絡む事が多くなる悠のプレエピソードとして書きたかった事です。


あと、悠はロリコンじゃありません。子供には優しいだけです。

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