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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
207/1111

4-15 花の都フェルゼン1

「なるほど・・・お2人が通り掛かったのは当家にとっては僥倖でした。ローラン様と若様が襲撃を受けたと聞いた時は私も随分取り乱したものです」


「・・・だろうなぁ・・・」


詰所の中でお茶などを提供されながら、ベロウはシロンに掻い摘んで状況を説明した。シロンは見た目は冷静な出来る男の風体をしているが、かなり激情家らしく、周囲に居る兵士達もウンウンと何度も頷いている。


「フェルゼンに居る時ならば我らが一命に代えましてもお守り致す所存でありますが、お役目を放棄して王都に行く訳にもいかず、一日千秋の思いでお帰りを待ちわびておりました。そんな折に、この魔物モンスターの異常でしたからね。お迎えをお送りしようかと思っていた所だったのです」


「結局、魔物の異常については何か分かっているのだろうか、シロン殿?」


「シロンとお呼び捨て下さい、ベロウ様。敬語など不要です。ユウ様とベロウ様はフェルゼニアス家の恩人でありますれば」


「・・・警備責任者が単なる冒険者に敬語と敬称を使ってちゃマズイだろ? 俺達も呼び捨てでいいよ、シロン」


「それでは私の気が・・・」


「恩人の言う事は素直に聞く物だと思わないかい、シロン?」


「・・・分かりました、ユウ殿、ベロウ殿」


シロンに慇懃に扱われる事に辟易したベロウが肩を竦めて言い、ローランも後押しする事でようやく渋々とではあるがシロンもそれを了承した。


「魔物の大量発生については現在の所まだ何も掴めてはおりません。我らがそれを知ったのも今日になってからなのです。フェルゼンに向かう商隊や近隣の村から被害報告が幾つも届いております」


「・・・兵の派遣は?」


「我らの権限の及ぶ範囲で可能な限りは。しかし支援要請の数が多過ぎて全てには対処出来ておりません。冒険者ギルドにも本日より依頼として提出済みですが、何分滞っていた依頼の消化が急務となっておりますので十分な数を確保出来ていないのが現状です」


シロンの報告にローランも軽く眉を顰めた。ここでもまた『黒狼こくろう』がローランの足を引っ張っているのだ。


「・・・報酬を多少上乗せしても構いません。私も明日には兵を出しましょう。とにかくまずは領内の安全を確保しなくては・・・」


「あの、一ついいですか?」


シロンに指示を与えるローランにミリーが挙手して発言の許可を求めた。


「何でしょうか、ミリーさん?」


「推論になりますが原因に心当たりがあります」


「それは本当ですかミリー殿!?」


その発言にシロンが食い付いた。


「はい。私達が戦った魔物はかなり多岐に渡る種類の物でした。ゴブリン(小鬼)、オーク(豚鬼)、ジャイアントラット(大鼠)にジャイアントボア(大猪)、オーガ(大鬼)まで・・・これだけの魔物が移動をしているという事は、彼らの住む場所に何らかの脅威が現れたのでは無いかと推測出来ます。単一の種族が繁殖した結果としての縄張り移動としては急にこの様な状況になるのは不自然です」


「なるほど、ではミリー殿は魔物の生息地に、更に強力な魔物が現れたのでは無いかと仰るのですか?」


シロンの確認する言葉にミリーは頷きを返した。


「ええ、これだけの魔物が追われるという事はその可能性が高いのでは無いかと。・・・少なくとも、バジリスク(蜥蜴鶏)かリッチ(死せる魔法使い)クラスの魔物が発生した可能性があります」


「ば、バジリスクにリッチですか・・・」


「・・・もしそうであるならば一大事ですね・・・並みの兵士や冒険者では歯が立たないでしょう」


バジリスクはランクで言うならⅦ(セブンス)ランクに位置する魔物で、石化の視線や猛毒、火炎放射などの特殊能力を持った難敵であり、個体で生態系を狂わせる可能性を持つ魔物である。リッチも同様で、数々の魔法を行使する魔法攻撃能力は通常の魔法使い5人分に匹敵すると言われ、更に属性を持たない攻撃を無効化する能力を持っている為、一般人が出会えば絶命必至と言われる恐ろしい魔物だ。時を経る事で更に上のランクのエルダーリッチ(死せる大魔導士)へと変化する事もある。ちなみに、魔物のⅦランクとは冒険者のⅦランクがパーティー単位(通常4~8人)で挑んで同格という物で、Ⅶランクの冒険者単一で討伐出来るという意味では無い。


「ですので、まずは精鋭を持ってこの領内の魔物の生息地への調査をするべきかと考えます。お心当たりはございますか?」


「この領内で魔物が多く住む場所と言えば・・・『アザリア山脈』一帯でしょうかね、シロン。ただあそこは・・・」


「・・・エルフとの国境も兼ねている土地ですから、迂闊に兵を入れる事は出来ません。ただでさえエルフは排他的な種族です。ローラン様の尽力でここ数年は諍いはありませんが、先代との間で起こった戦争の確執は長いエルフの寿命からするとつい昨日の事の様に感じられるでしょう」


元々フェルゼニアス公爵家は穀倉地帯であると同時に緩衝地、更には防衛線としても機能しており、万一エルフが侵攻して来た時の抑えにと国王によって初代フェルゼニアス公爵が封じられた土地である。森や山の資源を巡って長年に渡り対立してきたエルフだが、ローランは自分の代に代わってからは資源採取は必要最小限に留め、領内の交通網を充実させる事でそれら不足しがちな資源を他から補う事を優先していた。・・・もっとも、その事に対してエルフから感謝の言葉が上がる事は一切無かったが。


「となると冒険者・・・それも相当な手練れかつ、信用の置ける人間でなければ戦争の火種にもなりかねませんね・・・ならば、ユウ」


「了解しました、明日にでも我らがそのアザリア山脈へ赴きましょう」


「すまないね、ミーノスよりマシとは言え、そこまで任せられる冒険者はそうは居ないのだよ。領内の討伐も続けて貰わなくてはならないしね」


ローランとしては他の私兵や冒険者で対処療法し、悠達に根本的な調査あるいは解決を図って貰おうと言う考えだ。


「ユウ、不用意にエルフを怒らせるんじゃねぇぞ? エルフの魔法は人間の比じゃねぇんだからな!」


「分かっている。・・・素早く距離を詰めれば飛び道具は防げよう」


「だーかーらー! その戦闘脳をヤメロ! 万一出会ったら交渉は俺がするからな!」


「冗談だ。俺とて問答無用で殴り倒したりはせん」


「・・・ほんとに頼むぜ? エルフは沸点が低いんだ。ユウと相性がいいとは思えねぇんだよ・・・」


表情を変えずにのたまう悠にガックリと肩を落としてベロウが愚痴り、その肩にローランが手を置いて追い討ちを掛けた。


「バロー、エルフに出会ったらくれぐれも慎重に頼むよ? この状況に加えてエルフとまで争ってなど居られないからね?」


「頼みました、バローのアニキ!」


「お願いします、バロー兄さん。私も頭に血が上りやすい質ですので・・・」


ビリーとミリーもローランに追従してそう付け加え、バローの肩は下がる一方なのだった。

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