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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
206/1111

4-14 安息の地14

「ローラン様、フェルゼンに着きましたよ!!」


「ご苦労様です、ビリー」


夕方近くまで馬車を走らせた一行の前に城壁に囲まれた大きな都市の姿が見えて来た。その規模は単なる地方都市という枠に収まる物では無く、王都であるミーノスに迫る物であった。


「やはり魔物の襲撃は多かったですが、予定通りフェルゼンに着けて何よりです。いえ、既に悠に提供する土地を見せる事も出来たのですから予定以上と言っていいでしょう」


「ああ。今晩からはそこに拠点を設置出来るからな」


「ん? ユウ、まさか君、今日からそこで寝るつもりだなんて言わないだろうね?」


「そのつもりだが?」


「待って下さいよユウ先生!!」


悠はローランの家で挨拶を済ませたらすぐにその地へと移動するつもりだったのだが、それを聞いたローランとアルトが悠の意見に異を唱えた。


「そうさ、ユウ。今日くらいは当家の持て成しを受けて貰わないと私の立つ瀬が無いという物だよ?」


「そうですよ!! 今晩くらいは僕達の家に泊まって行って下さい!!」


「しかし・・・俺達の様な粗忽者が大勢で公爵家に長逗留する事は出来んだろう。周囲の目もあるし、奥方もご懐妊されているのだろう?」


悠が心配するのは礼儀を知らない子供達を使用人やローランの妻がどう思うかという事だ。王都の屋敷でも悠のぞんざいな口利きを使用人達はあまり良く思っては居なかった。ローランが許可したから渋々従っている状態だったので、それが本家ともなれば余計にその目は厳しいだろう。それに失礼だが、ローランの妻がローランほど寛容だという保証も無い。下手に心証を悪くすれば伝手を頼って他の貴族に伝わり、子供達の正体がバレてローランに迷惑を掛ける事になりかねない。


「せめて行くとしても俺とバローくらいが精々だと思うが?」


「・・・ははぁ、ユウ、君は子供達が『異邦人マレビト』だとバレて私に迷惑が掛かると思っているんだね?」


「そうだ」


ローランは悠の思考を読んで正解に至っていた。悠も隠す事無く頷いて肯定する。


「心配無用だよ、ユウ。予め今日明日は屋敷には特に私が信用する者しか置いていないし、何よりミレニアは私よりもずっと懐の深い人間だからね」


「母さまはとっても優しい人ですよ、ユウ先生」


「それにフェルゼンは私の街だからね。王都と違って多少の無理は利くんだよ、ユウ」


「・・・そうか、そこまで言うなら俺も腹を括ろう。世話になる」


ローランとて悠達を連れて行けばどうなるかくらいは考えていたのだ。その為に前もって手紙を送り、特に口が堅く信用出来る者で屋敷を固めていたのだった。悠も完全に安心を得た訳では無かったが、その気遣いを受ける事を首肯した。最悪、何かあったら自分で対処しようと心に決めたのだ。


「さ、そろそろ城門だ。私は話を付けて来るから失礼するよ。居ない間に何かあったかの報告も聞きたいしね」


「ああ、我々の身分証明は要らんのか?」


「言っただろう、ここは私の街さ。馬車の中の客人は皆私が問題無しと了承したと見なされるんだよ、ユウ。・・・でも魔物モンスターの事で何か聞かれるかもしれないから、ユウ達冒険者には付いて来て貰おうかな。詳しい話を聞きたがるかも知れないからね」


「了解した」


「城門に着きましたよ、ローラン様!!」


「おっと着いたか。・・・では行こうか、ユウ?」


「ああ」


そう言って悠とローラン、そして外に控えていたビリー、ミリー、バローは連れ立って城門の責任者の下へと歩いて行った。


そこには下っ端の新人兵士から城門警備の責任者までが全員城門の両脇に並び、責任者らしき男が手を上げると一斉にローランへと向き直って敬礼を送った。


「「「お帰りなさいませ、フェルゼニアス公爵様!!!」」」


「皆さん、精勤ご苦労様です。通常勤務に戻って下さい」


「「「はっ!!!」」」


ローランが一声掛けると、大部分の警備兵は敬礼を解いて自分の持ち場へと帰って行った。王都の警備兵から見ても相当に練度が高く、また職業意識もしっかりとしている様だ。


「お帰りなさいませ、ローラン様。・・・道中大変ではありませんでしたか?」


「ただいまシロン。その口振りだと魔物の襲撃が増大している件は伝わっているんだね?」


「はい。・・・それで、こちらの方々は?」


シロンと呼ばれた、容姿の整った警備責任者の男がローランの後ろに控える悠達に視線を送って正体を問うた。


「彼らは私の護衛ですよ。丁度いいのでシロンに魔物の事を報告して貰おうと思いましてね?」


「左様でしたか。・・・はて、それにしては人数が少ないですが、他の方々は後ろの馬車ですかな?」


「いえ、護衛は4人だけです。後ろの馬車には客人が乗っているのでね」


「なっ!? ローラン様!! いくら何でも護衛が少なすぎますぞ!! ミーノスではまともな高位ランクは居りますまいに!!」


シロンの言葉はビリーとミリーのプライドを刺激し、2人は思わず声を上げかけたが、ベロウが2人の肩に手を置いてその言葉を遮った。


「バローのアニキ!」


「バロー兄さん!」


「黙って待ってろっての。警備の責任者が領主様の安全に気を配るのは当然だろうが。・・・申し訳ありません、シロン殿」


「いや・・・私もつい頭に血が上って失礼な事を申した。許されよ」


シロンは自分の言葉の意味を悟り、素直に悠達に頭を下げた。流石はローランが責任者に据えるだけあって、中々器の大きい人物らしい。


「あ、いや、こ、こちらこそ・・・」


「私達も出過ぎた真似をしました。申し訳ありません」


すぐに謝られた事でビリーとミリーも自分達の非を悟って両者の間のわだかまりは解消出来た様だ。


「つまり、この4人は魔物が増えている領内をいつも以上の早さで送り届けられる手練れ揃いと思って良いのでしょうか?」


「ご明察だね、シロン。ビリーとミリーはⅤ(フィフス)、バローとユウはⅦ(セブンス)のランクを持つ冒険者だよ。特にユウはあのミーノス冒険者ギルドのギルド長、『隻眼サイクロップス』コロッサスと互角の腕を持つ凄腕さ」


「なんと!? し、失礼ですが、その様な腕前の方ならⅨ(ナインス)ランクになっていないとおかしくはありませんか?」


剣を扱う者でコロッサスの名を知らない者など居ないと言っていい。シロンも当然知っているし、そのランクがⅨであった事も有名な事だ。


「それは仕方が無いね。なにしろユウはまだ冒険者になって一月と経っては居ないのだから」


「まさか!? そんな短期間にⅦまでランクが上がるはずは・・・あ! も、もしや『黒狼騒動』を収めたという冒険者が、確か・・・」


「またもご明察。そうさ、彼が『黒狼こくろう』一派を殲滅した冒険者であるユウだよ。その功績を持ってⅦになったのさ」


「ユウ殿!!! いえ、ユウ様!!! 此度の一件、誠にありがとうございました!!!」


ローランの言葉が終わると同時にシロンはその場に平伏して悠へ地面に額を付けて土下座し、感謝の言葉を送った。周囲の警備兵とバロー達はそれを見て目を丸くし、ローランは頭を掻きながら溜息を付いた。


「・・・相変わらず大げさだね、君は。周りの皆が驚いているじゃないか。いいから頭を上げなよ」


「例えローラン様のお言葉でもそれは聞けません!!! 私が頭を上げるのはユウ様のご許可を頂いてからです!!!」


「・・・造作は整ってんのに難儀な兄ちゃんだな・・・」


ボソッと呟かれたベロウの言葉に悠も全面的に賛成だったが、だからと言ってこのままにしておけるはずも無く、頑なに土下座を続けるシロンに声を掛けた。


「・・・俺がローラン様をお助け出来たのは偶然だ。頭を上げてくれ。そのままでは話も出来ん」


「ははっ! それでは立ち話という訳にも参りませんから、詰所までご足労を願えませんでしょうか?」


「分かった、中で話そう」


まるでローランに接する時の様に悠に接するシロンに苦笑を送って、ローランはふと気付いた様に悠達に向き直り、両手を広げて言葉を送った。




「ようこそフェルゼンに! ユウ、君達にとってこの街が安らげる場所になる事を願っているよ」




こうして一行はフェルゼンの地に最初の足跡を刻んだのだった。

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