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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
205/1111

4-13 安息の地13

「そろそろ出て来たらどうだ、お前達?」


「え?」


悠の誰かに呼びかける声にベロウは思わず声を上げたが、よくよく気配を探ってみると確かに屋敷の陰から何者かの気配がしていた。


「す、すいません・・・出て行きたいのは山々なんですが・・・」


そこから聞こえて来るのはアルトの声だ。だがその声は困り果てた弱弱しいものだった。


ベロウも腹を押さえて立ち上がり、悠と共にその場に行ってみると、子供達が勢揃いしていて、そして一部を除いて全員が腰を抜かしてへたり込んでいた。


「す、すっげー・・・」


「ごめんなさい、悠さん。お2人の手合わせを見ていたら皆こうなってしまって・・・」


「かっこよかったよ、ゆうおにいちゃん!!」


「戦場でもあんなの見た事無いわ・・・」


「ば、バローさんがあんなに強いとは思わなかった・・・」


「・・・」


「・・・」


「ヤベェ・・・トモキが気絶しているぞ、おい!?」


「ハジメもね・・・むしろケイとメイは何で大丈夫なの?」


「私達は割と普段からドラゴンの脅威を感じていましたから・・・多分、そのせいかと」


「意識が・・・飛びそう・・・」


「し、しっかりして下さい、蒼凪さん!」


「すいませんでした、まだまだ僕は未熟です・・・」


恵と明は日常的に生命の危機を感じる脅威が近くに居たせいで殺気に対する耐性があったのかもしれない。明は天然の可能性も高いが・・・


樹里亜や神奈、ビリーとミリーも生命の脅威を感じる経験は多少積んでいるが、当然龍クラスの脅威にはお目に掛かった事が無かったのだ。


「・・・残念だが、今日は全員見学だな。バロー、忘れない内にもう一度手合わせだ。構えろ」


「うぇ!? ほ、本気か!? まだ力が入らねぇよ!!」


「だからこそいいのだ。今の内に脱力した動きを覚えろ。先ほどの動きはコロッサスに迫る物だったぞ」


「クッ・・・・・・分かったよ! 強くなる為だ、やってやらぁ!!」


「今度は『指導』してやろう。一度で覚えろよ?」


そして再び2人は剣と拳を交わらせた。








あれから30分ほど手合わせは続き、汗だくになったベロウと少し汗をかいた悠は浴場でその汗を流していた。他の全員は朝食の準備中である。


「酷い目にあったぜ・・・」


「まだまだ体に無駄が多いから疲れるのだ。もっと上手く体を使えば疲れないし動きも良くなる。・・・特に俺が躓いた時に放った一撃は良かったぞ。あれは前に見せた『重破斬』とは違って重く、そして速かった」


ベロウが悠に放った一撃は竜器使いの一撃に迫る勢いを持った物であると悠には感じられたのだ。もっとも、あれだけの一撃はそれ以降は放つ事が出来なかったが・・・


「あれは・・・『重破斬』じゃねぇ・・・一度も使えた事なんざ無かったが、ノースハイア流最奥義『絶影ぜつえい』だ、と思う・・・」


「『絶影』?」


「ああ・・・『絶影』は『重破斬』以上の重さと、それとは比較にならないほどの剣速を併せ持った、ノースハイア流の幻の技・・・らしい。言い切れねぇのは、今ノースハイア流で『絶影』を使える人間が居ねぇからだ。始祖の書いた書物にゃ載ってるんだが、後世の奴がハクを付ける為に創作した技なんじゃないかって言われてたぜ。俺も読んだ事はあったけどよ、「『絶影』極むればそれ剣影絶えて何者の目にも映らじ」とか嘘クセェと思ったもんだ」


「だがそれは結局他の人間が出来ないからこそ眉唾になっていったのだろう。ノースハイア流中興の祖にでもなってみるか、バロー?」


「ヘッ、ガラじゃねぇよ。俺はノワール流の創始者として一旗揚げる予定なんだからな!」


痺れる腕を揉みながらベロウは大口を叩いてみせた。『絶影』と思われる技はベロウの鍛えられた体を持ってしてもその負担が大きかったのだ。


「っ、ミロがまた襲ってくるまでにはモノにしねぇとな」


「奇襲はあるまいよ」


「あ? 何でそんな事を言い切れるんだよ、ユウ。相手は名うての暗殺者だぞ? いつ襲ってくるかなんて分からねぇじゃねぇか」


「手合わせしてみて分かった。ミロは戦いに美学を持つタイプの人間だ。殺す事を生業にしながらも、殺されるかもしれない手練れとの戦闘を楽しむ様な、な」


「病気だな、ビョーキ」


「病んでいなければ暗殺者など務まらんよ」


「そりゃそうか」


まともで善良な暗殺者など存在自体が矛盾している。裏の世界の住人はそれに相応しい精神を求められるのだ。


悠はミーノスの街で襲い掛かって来たミロとの戦いの様子を思い出していた。








「では始めようか。楽しませてくれる事を期待するぞ、ユウ」


「残念だが貴様を楽しませるつもりは無い。獄に繋がれて世を儚め」


後ろで始まったベロウとキリギスの戦いを尻目に、悠とミロもまた正面から向かい合っていた。2人は動いていないかの様に見えるが、細かいフェイントの応酬を繰り返し、相手の隙を探っている。その状況に変化をもたらしたのは外部からの干渉だった。




「くっ、お前等、何をしている!! 早くそのガキを攫え!!」


「「は、ははっ!」」




ベロウとの戦闘で態勢不利となったキリギスが『影刃衆』を急かしたのだが、それは全くの悪手であった。悠はミロから視線を逸らさずに、後方に向かって投げナイフを放ったのだ。キリギスの声はそのタイミングを計る絶好の機となってしまった。


「うっ!」


「ぐあっ!!」


ナイフは狙いを外さずに『影刃衆』へと襲い掛かったが、その投擲の隙とも言えない様な隙を捉えてミロが『影刃シャドーエッジ』を悠の斜め後方から放っていた。


(これで決まりか。つまらんな、もう少し楽しませてくれるかと――何!?)


そのミロが硬直して驚きを得た。今までにこのタイミングで外した事の無いミロだからこその確信だったのだが、悠は『影刃』と回転を合わせる様にして前宙し、そのまま回避してミロとの距離を詰め、更にはその踵をミロの頭に振り下ろしたのだ。


「ヌゥッ!?」


ピッという擦過音だけを残してミロも悠の攻撃を回避したが、覆面から覗く冷たく凍っていたその目が徐々に細められていった。・・・笑ったのだ。


「今のを避けるか、ユウよ。それどころか我を捉えるとは・・・面白い、実に面白い」


「じきにもっと面白くなる。その時は手遅れだろうがな」


「言ってくれる。是非共その顔に苦渋を味あわせて・・・チッ!」


ベロウを背にしている悠と違い、全員の動きを捉える事の出来る位置に居るミロにはキリギスがベロウに腹に一撃食らって反吐をぶちまける様が見えていたのだ。


「残念だ、ユウ。邪魔が入るのは我の本意では無い。決着は持ち越しだ。・・・キリギス、退くぞ」


そう言って多少の応酬の後に退いて行ったミロだったが、その目だけは最後まで悠を捉えたまま離そうとはしなかった。狂おしいまでの闘争心に燃える戦闘狂の目だ。


その視線は悠に遠くない再戦の日を予感させたのだった。








「ミロの『影刃』は『絶影』よりも速かったかもしれん。対峙したならば油断は出来んな」


「精々頑張ってくれよ? 俺にミロの相手をしろって言っても困るからな!?」


《ノワール流の開祖様が情けない事言うんじゃ無いわよ》


「まだ開いてないんだから言ってもいいじゃねぇか!」


「お前は剣で頭が一杯になるくらいが丁度いい。またグズグズしている様ならいつでも稽古をつけてやる。覚悟しておけよ?」


「・・・お手柔らかにな・・・」


ベロウに出来たのは叶いそうも無い希望を口に出す事くらいであった。

次で安息の地は終わりです。キャラ同士の交流や心情に触れた為に些か長くなりましたが。

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