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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
201/1111

4-9 安息の地9

「早速なんだがミリー、確かミリーは魔法が使えるんだったか?」


「え? はい、ほんの初歩ですけど・・・」


「ならば子供達に魔法の手解きをしてやってはくれないだろうか? 何人か魔法に適正があるんだが、ノースハイアではまともな魔法教育が行われていないのだ」


「そうなんです。お茶をどうぞ」


そこにお茶を淹れて運んで来た樹里亜が口を挟んだ。


「ありがとう、えっと、貴女は?」


「私は樹里亜と言います。召喚された中では一番の古株です、ビリーさん、ミリーさん」


「ああ、よろしくな!」


「よろしくね。それでどういう事なのかしら?」


「私達召喚者・・・『異邦人マレビト』は反乱防止の為に幾つかの処置が成されています。私達に過剰な力を持たせない事もその一つで、『能力鑑定アプライザル』で見つかった才能を単純に扱う為の駒としてしか魔法や能力スキルの使い方を知りません。・・・私達は単なる魔法や能力の出力装置だったんです・・・」


これまで失ってきた仲間達の事やクライスの事などを思い出して樹里亜は顔を俯かせた。


「私にもっと力があったら助けられた仲間も居たのに・・・私達は魔法の呪文すら知らないんです」


「え? ・・・でも無詠唱じゃ威力も弱いし、魔力の消費も激しいわ。とても効率的な運用は出来ないはずよ?」


魔法は魔法構成、呪文、魔力注入、放出の4段階で構成されている。魔法構成が出来ていれば呪文は飛ばしても魔力を注ぐ事で魔法は作動するが、その為には魔力注入を余分に行わなくてはならず、結果として燃費も威力も落ちてしまうのだ。その分、高速で展開出来たり、相手に手の内を悟らせないなどの利点はあるが、そのロスは一般人では致命的なレベルであった。


「私達『異邦人』は魔法的な才能を持つ者は魔力がこの世界の一般人よりかなり多いらしいです。だから魔力のゴリ押しで何とかするしかなくて・・・半年の間に生き残れたのは、召喚されたばかりの子達と怪我人を除けば私と神奈だけでした。そんな事がノースハイアでは20年も続いて来たそうです。・・・今までに一万に届く子供達が亡くなりました・・・」


「い、いちま!?」


「何て事を・・・」


「と、父さま・・・」


「・・・」


樹里亜から語られる事実に皆一様に驚愕を顔に浮かべた。ノースハイアの『異邦人』部隊については他国でもよく話題になる物であったが、その全貌は誰にも掴めていなかった。しかしこれほどに残酷な現実が待っているとは思わなかったのだ。


「私や神奈、智樹、蒼凪も悠先生が助けてくれなければ今頃生きてはいないでしょう。いえ、私は後数分で死ぬ所でした。悠先生は私達の命の恩人なんです」


そこで樹里亜はその話題を打ち切った。


「ごめんなさい、話が逸れましたね。そういう理由で、年少の子供達はまだ初歩の戦闘訓練しか受けてないんです。一応魔法は使えますが、効率的な運用は出来ません。ですので、魔法に詳しい方に基礎を教えて欲しいんです。そして悠先生のお役に立ちたいんです。・・・どうでしょうか?」


樹里亜は懇願する様な口調でミリーに尋ねた。


その言葉を聞いてミリーはビリーと顔を見合わせ、一つ頷くと樹里亜の手を取って優しく笑い掛けた。


「分かったわ、私が教えてあげられる事なら何でも教えてあげる。・・・ごめんなさい、ごめんなさいね、ジュリア・・・」


ミリーは樹里亜の境遇に涙を流して承諾し、そして謝った。それは樹里亜に対してだけの謝罪では無く、アーヴェルカインに住む人間として失われた多くの命に対して謝らずにはいられなかったのだ。


「そんな、別にミリーさんが悪いんじゃ・・・」


「いや、俺も謝りたい。・・・今、無性にこの世界の人間なのが恥ずかしくなったよ・・・ごめんな、ジュリア・・・」


「私もです。それどころか度々攻めて来るノースハイアと『異邦人』に反感さえ持っていました。私の浅慮を許して下さい」


「ごめんなさい、ジュリアさん・・・」


皆が皆、揃って樹里亜に頭を下げていた。そして皆の後ろではベロウもまた深く頭を下げている。今一番居たたまれないのは間違い無く彼だった。悠と過ごして来て、ようやくベロウは自分の罪の重さを認識し、その重さに潰される様な思いを味わっていたのだ。


「皆さん・・・ベロウさん・・・」




「おーい、ごはんだぞーっ!! って何だこの雰囲気は!?」




そこに場違いに明るい声が響き、神奈が満面の笑みで広間に踊る様な足取りで顔を見せたが、客が全員頭を下げているのを見て声を裏返らせた。


「・・・神奈、空気を読んでよ・・・」


「な、なんだよ一体!? あたしはごはんだからごはんだって言っただけなのに!!」


《カンナ、貴女はこの人達が憎い?》


戸惑う神奈にレイラは冷静に尋ねた。その質問に神奈も戸惑いながらも返答した。


「え? 何で? ローランさんはあたし達に住む場所を用意してくれて、ビリーさん達は悠先生の仲間なんでしょ? 別に憎くないけど?」


《そういう事。突然大人に集団で謝られてもジュリアだって困るわ。当事者でも無いのに拡大解釈して大仰にしないの。貴方達の関係はこれからなんでしょう?》


レイラの言葉に冷静さを取り戻したローランが肩を竦めて呟いた。


「・・・やれやれ、ここはレイラに一本取られましたね」


「・・・フフ、レイラさん、先生みたい。・・・皆さん、レイラさんの言う通りです。私達は皆さんを恨んでなんていません。だから仲良くして下さいね?」


「そっか・・・ごめんな、どうしても謝りたい気分になってさ。そうか、仲良くか・・・」


「そう・・・うん、そうね。仲良くしましょう、ジュリア、カンナ」


「こちらこそ!! 樹里亜、こういうのを何ていうんだっけ? 同じ釜を食った仲だっけ?」


「残念、同じ釜の飯を食った仲よ。・・・プッ、まぁいいわ、似た様な物だし」


樹里亜の笑いが皆に伝染する中、食事を運んで恵と子供達が連れだって入って来た。


「さ、皆さん、今日はご馳走ですよ。・・・あら? 何だか楽しそうですね?」


「人と人とが互いに思いやりを持てば分かり合えん事など無いという事だ」


「はぁ?」


悠の総括する言葉に恵は頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。


《いいから食事にしましょう、ケイ。後ろで涎が垂れそうな子も居るみたいだからね?》


「ふぇっ!? す、すいません!!」


慌てて口元を拭う小雪に広間に笑いの波が広がり、重苦しい雰囲気は完全に払拭されたのだった。

これでようやく全員が打ち解けました。ベロウはまだ子供達に対して後ろめたい気持ちが大きい様ですが。

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