4-4 安息の地4
それから小刻みな休憩を挟みつつ、ローラン達との旅行きは続いた。
「へへ、ゆうせんせーがかって来てくれたんだ!! おれのとうちゃんはこのボールをけるのがせかいでいちばんうまいんだぜ!!」
「ぼ、ぼくはせんせーにご本をかってもらったの。早くじぶんの目で見てみたいなー」
京介と始は街で悠が見つけて来た半透明のボール状の物と一冊の本を取り出してローラン達に見せた。
「ほう・・・これは海竜魚の浮き袋を加工した物だね。それにこっちは最新版の植物図鑑の様だ。よく見つけたね、ユウ?」
「ギルドで尋ねたら心当たりがある職員が居てな。お蔭で見つける事が出来た」
悠が言っている職員とはエリーの事である。エリーは悠の尋ねる断片的な情報から見事にボールになりそうな物を探し出し、場所を教えてくれたのだ。海竜魚の浮き袋をその様に使う人間は居なかったが、素材だけはあったので、恵に縫製して貰ったのだ。図鑑は道具屋で購入する事が出来た。
ちなみに値段は浮き袋が金貨3枚、図鑑が金貨15枚もしたのだが、それは2人には伝えていない。辛い目にあった時、一つくらい手慰みがあった方がいいと思ったからだ。浪費は良くないが、物を大切にするという事を覚えるのにもいいだろうと悠は判断した。
「今から行く場所には広い場所も植物が生い茂る林もあるから、きっと2人は気に入ると思うよ」
「やった!! アルトにいちゃん、ついたらいっしょにあそぼうぜ!!」
「え、あ、う、うん」
「ぼくはおはなもみたいな・・・」
「始、時間を作って皆で外で食事する時間も取ろう。その時に一緒に見て回ればいいだろう」
「う、うん!! えへへ・・・」
「・・・ユウは案外子煩悩なんだね・・・」
子供達をケアする悠を見てローランが珍しそうに呟いた。
「意外じゃ無いですよ、父さま。悠先生は僕にもちゃんと教えてくれますから」
「おっと、そうだったね。私もうかうかしてはいられないな」
「そうだ、おれもせんせーにたたかいをならうんだ! 知ってるぜ、アルトにいちゃんは『あにでし』になるんだろ?」
「い、一応そうなる・・・のかな?」
「よ、よろしくおねがいします! あ、アルト、おにいちゃん・・・」
「うん! ・・・弟っていいなぁ・・・」
慕われて悪い気はしないアルトだった。
続いては年少組2人と小雪の番だったのだが・・・
「く~~~~~・・・・・・」
「ちょ、ちょっとかぐら! しばらくすわったらこうたいだって言ったでしょ!! 次はわたしのばんよ!!」
「ま、まぁまぁ」
3人は若干許容量を超えているので一人が悠の膝の上という提案をし、神楽が最初に座ったのが良くなかった。乗り始めはニコニコしていた神楽だったが、悠の体温で気持ち良くなり、遂には眠ってしまったのだ。収まりが付かないのは次の順番待ちをしていた朱音である。
「私の膝じゃダメかい、アカネ?」
ローランが手を広げて朱音の事を誘ったが、朱音は思案顔だった。
「う~ん、ローランさんもカッコイイんだけど、やっぱりわたしはゆうせんせいがいいの。ごめんなさい」
ローラン、人生で初の女性からの拒絶である。
「は、はは、そうかい・・・娘にこれを言われたらどうしよう・・・」
「と、父さま、まだ決まった訳じゃありませんから・・・」
まだ見ぬ我が子が娘であると想定して思い浮かべたローランはその未来予想図に思わず凹んでしまった。もしかしたら相手の男を勢いに任せて殴ってしまうかもしれない。いや、そんな事をして娘に嫌われては・・・と益体も無い想像は留まる事を知らなかったが、アルトがそれを何とか宥めた。
「ユウ!! いくら君でも娘はあげないよ!!」
「・・・いや、ですからまだ決まってませんから、父さま・・・」
「アルト、ローランは疲れているのだ。そっとしておけ」
「は、はぁ・・・」
そう言いながら悠は神楽を片方の膝に移動させ、もう片方の膝を空けると朱音を手招きした。
「これなら2人共座れるだろう。乗っていいぞ、朱音」
「わーーーい!!!」
朱音は待ってましたと言わんばかりに悠の片膝の上に腰を下ろし、背中を悠にくっ付けて膝の上を満喫した。
「ほわぁぁぁ・・・あったかい・・・」
最初ははしゃいでいた朱音も次第にその温かさに夢見心地になり、神楽と並んで2人共夢の世界へと旅立って行った。
「すー・・・」
それを見たローランは最後に残った小雪に向き直り、普段は王宮でもしない様な輝く様な笑みを浮かべて小雪にアプローチをした。
「さ、さて、ユウの膝は塞がってしまったね!! コユキ、どうだい? ここは一つ私の膝に・・・」
「わ、わたしはお姉ちゃんだからだいじょうぶです!!!」
ローラン、人生で2度目の女性からの拒絶である。
「そ、そうかい? ・・・ユウ、楽しいかい? 私だって娘を持った父親の気分を味わいたかったのに、自分だけ楽しむなんてズルイんじゃないのかい!?」
「・・・ローラン、それはもうすぐ生まれる自分の子にやれ」
「父さま、恥ずかしいのでやめて下さい・・・」
「ん? そうだ! 私にはアルトが居るんだ!! さあおいでアルト!! 存分に父さまの膝を堪能するといいさ!!」
「しませんよ!? どうしちゃったんですか父さま!?」
馬車の中は中々カオスな空間になりつつあった。
ちなみに順番からあぶれてしまった小雪の頭には悠の手が乗っている。乗せてやれないお詫びとしての事なのだろうが、小雪は人前で膝の上に座るのは既に年齢的に恥ずかしさを覚えるお年頃だったので、それで満足なのだった。
・・・ローランはそれを見て更に嫉妬を募らせ、最終的にはアルトを膝の上に乗せて撫で回していたが、アルトにはご愁傷様と言う他に言葉が無かった。
ローランが壊れました。次の子供は女の子をご希望のようです。