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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第四章 新天地探索編
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4-3 安息の地3

所変わって、こちらはローランの馬車の中である。


「ではケイとメイはユウと同じ世界からやって来たのかい?」


「は、はい、最近交流し始めたばかりで、私達はただの一般市民ですけど・・・」


「おにいちゃんがおとうさんのおはなをとってくれたの!!」


「そうかい、向こうでのユウはどんな感じだったのかな?」


「悠さんは私達の世界の英雄です。他の誰を知らなくても、悠さんの事を知らない人間は居ません。・・・悠さんが居なかったら、私達もきっと今この場所に居ないでしょう」


「凄い・・・本当の英雄なんだ、ユウ先生・・・」


「ときどきかたぐるましてくれるの!! そうしたらみんながわたしのことをみるんだよ!!」


「・・・明、あんまりはしゃがないでね? お姉ちゃん、胃が痛いわ・・・」


ローランは弁舌爽やかに恵と明相手に談笑していた。その巧みな話術で恵もようやく多少は緊張も解れて来た様だ。明はそんな事は全く意に介していないのでいつも通りだが。


「ユウはあまり自分の事を理解していない節があってね? どの様に一般には思われているのかには興味があったんだよ。ユウ、随分と遠慮が過ぎるんじゃないかい?」


「そ、そうですよ!! やっぱり凄い人じゃないですか、ユウ先生!!」


ローランがアルカイックスマイルを浮かべて悠に笑い掛け、アルトが興奮気味に捲し立てたが、当の悠はどこ吹く風といった風情で答えた。


「一般にどう思われているかは俺は知らんからな。俺は俺のやるべき事、やりたい事をやりたい様にやっただけだ。俺が居なければ別の人間がそれをやっただろう。それだけの事だ」


「そんな事ありません!!! ・・・あ・・・ご、ごめんなさい!!」


突然、恵が大きな声でそれを遮ったが、自分が大声を出してしまった事に気付いた恵は赤面して謝罪した。


「構わないよ、ケイ。言いたい事があったら言ってあげるといい。ユウと差し向かいでは言いにくい事もあるだろうからね。向こうでのユウの事と一緒に教えてくれるかい? 客観的にはユウがどう思われていたのかを聞ける貴重な機会だからね」


「・・・はい」


恵は一つ深呼吸をして訥々と語り出した。


「私達の世界――『蓬莱ほうらい』は滅亡に瀕していました。私が生まれる前の事ですけど、突然龍ドラゴンが侵略して来たんです。龍は容赦無く人間という弱い種族をその爪牙に掛け、人間にそれに抗する術は殆どありませんでした。味方してくれた、レイラさんの様なリュウの方々がいらっしゃらなかったら、私は生まれてすら居なかったと思います。沢山の龍と竜、そして人が死んで、死んで、死んで・・・60億を超えると言われていた人間の数は20年で1億程度まで減ってしまいました」


「・・・なんと、60億とは・・・世界の人口からしてこことは桁違いですね・・・」


「そ、そんなに沢山の人が・・・」


アーヴェルカインでは人間種族を全てかき集めたとしても2000万にどうにか届く程度であろう。最大の国土を誇るノースハイアで600万、ミーノスで500万、アライアットが400万で、他周辺の小国を合わせて500万人といった所か。


ローランはその規模の国の運営や経済規模を考えて唸り、アルトは想像を絶する人命の喪失に大きなショックを受けていた。


「そんな時、ある若い将校が将軍として軍に入られました。『蓬莱』で将軍となれるのは基本的に『竜騎士』の方だけです。人々はその若い将軍の誕生を我が事の様に喜びましたけれど・・・戦場に散る宿命にある『竜騎士』になってしまったその若い将軍を悲しむ声も少数ながらありました。如何な『竜騎士』と言えど、中の人は人間です。殴られれば痛みを感じ、斬られれば血を流す人間なのです。・・・お父さんが言っていました。「我々は『竜騎士』様に守られているからこそこうして家族を持つ事が出来る。だから感謝の心を忘れてはいけないよ」って・・・」


昔を思い出す様に遠い目をした恵に、周囲の人間は言葉を差し挟まずに聞き入っていた。


「その若い『竜騎士』様はとてもお強い方でした。いつも必ず先陣を切って戦場に入り、必ず最後まで戦場に留まりました。多くの敵を屠り、より多くの味方を生還させた若い将軍は、いつしか最強の『竜騎士』として人々に認識される様になります。その若い将軍は幾多の戦場で功績を積んで軍の階級を駆け上がり、やがて軍人の最高位たる『戦闘竜将』として不動の地位を得ました。それが神崎 悠戦闘竜将閣下であり、こちらに居る悠さんです」


恵はそこで一度言葉を切って周囲の反応を見た。


悠は膝に明を乗せて我関せずといった様子だったが、ローランは興味深げに話に聞き入っており、アルトに至っては目を輝かせて続きを待っている。


「続けますね。・・・その悠さんが居てすら私達の国、東方連合国家の人口の減少は止まりませんでした。龍も数を減らしていましたが、私達の国もまたそれ以上に疲弊していたのです。『竜騎士』様も多数の方が亡くなられ、龍と人は拮抗状態になります。・・・軍に居た私達のお父さんもその時に亡くしました」


亡き父を悼む様に恵は目を閉じ、そして再び語り出す。


「それから数年、軍は最後の賭けに出たのです。龍の首魁たる終末の大龍『アポカリプス』を討つ為に、ごく僅かな手勢を国に残して反攻作戦に出る事です。この作戦を決行するに当たっては反対と賛成で意見が真っ二つに分かれていました。辛うじて拮抗している現状を維持するべきではないかという意見と、余力がまだある内に攻勢に出るべきだという意見に。私は・・・賛成でした。何よりお父さんを奪った龍が憎かったですから。そこで皇帝陛下である天津宮 志津香様と、悠さん、そして悠さんと並ぶ地位を持つ真田 雪人情報竜将は国民に激を飛ばしました。・・・「平和な国を見たくは無いか」と」


恵は一筋の涙をこぼして先を続ける。


「恐らくそれは東方連合国家の全国民の悲願だったと思います。人が人として天寿を全う出来る、平和な国・・・もう映像記録や書物の中でしか見る事の出来ない物だと思っていた、私達の理想郷です。それを陛下と悠さん、真田竜将は必ず民衆の手に取り戻すと約束してくれたのです。・・・その時の私達の熱い思いを言葉で言い表す事は出来ません。でも、その激の後、戦端を開く事に反対する人は殆ど居なくなったのです。反対している人も、皆陛下や『竜騎士』様方のお命を心配する人達でした。・・・皆、信じていたのです。最強の『竜騎士』様が私達の平和な国を取り戻してくれる事を」


恵は流れた涙を拭い、一息付いてからまた語り出す。


「激戦に次ぐ激戦、死戦に次ぐ死戦であったと聞いています。誰も最後の戦いには付いていけなかったので、それを詳しく知るのは今も悠さんだけだと思います。私達に分かるのは軍からの情報で、主だった高いランクの龍が討ち取られた事、そして悠さんが単身、『アポカリプス』との戦闘に入った事だけです。勿論、それに付随して沢山の将兵が亡くなった事も。・・・それから数日後、悠さんは帰って来られました。腕と足を一本ずつ失い、満身創痍の姿で帰還された悠さんの姿、そして『アポカリプス』討滅の報を聞いた私達の歓喜・・・それは今思い出しても身震いを感じるほどに凄まじい物だったのです」


恵は当時の興奮を思い出してその身をぶるっと震わせた。


「そして私達は手に入れました。平和な国を。天寿を全う出来る世界を。私達はそれを与えてくれた人の名を知っています。いえ、どうして知らずに居られましょうか? ・・・しかも悠さんはその平和を確か物とする為に軍を、地位を辞し、世界を回って平和に尽くす旨を国民と陛下に宣言なさいました。それは大変惜しまれましたが、結局は受け入れられ、神崎 悠戦闘竜将の軍人としての戦いは終わりを告げたのです。どうして受け入れられたかは私も今考えても良く分からない所はあるのですけど・・・」


そこはナナが『妖精のフェアリーパウダー』を使って催眠を施したからであるが、当然恵はそんな事は知らないのでその様に語った。


「ここまで語った事は国に居る者ならば学校で習うか、本や映像で誰でも確認出来、またそうするまでも無く知っている事です。私達が直接悠さんと面識を持ったのはその戦勝式典の後の事で、まだお会いしてから一月も経っていません。私と明が召喚されてこの世界に来たのはその式典から数日経った日の事でした。最初は何が何だか分かりませんでしたけれど・・・悠さんはまた、私達を助けに来てくれたんです。遠い遠い、世界すら飛び越えたこの場所に。・・・お父さんの言った通りでした。『竜騎士』様はいつ如何なる時でも民衆の、私達の守護神だったんです・・・」


恵が語り終えると、その場に拍手が沸き上がった。


「素晴らしい! ケイ、貴女は弁士としての才能をお持ちの様だ。これほど壮大で感動する話を聞いたのはいつ以来でしょう!! いや、感服しましたよ!!」


「ひぐ・・・凄いでず・・・ずばらじいでず・・・」


ローランは恵の語る悠の自伝とも言うべき内容の話に手放しの賞賛を送り、アルトに至っては感動で最早顔がぐちゃぐちゃだった。


と、そこで熱に浮かされる様に話していた恵が急に素に戻り、両手を振ってそれを否定した。


「す、すいません!!! ちょ、調子に乗って喋り過ぎましたぁ!!!」


「いやいや、どうだいユウ、本人の感想は?」


必死に謙遜する恵をにこやかに眺めながら、ローランは悠に話を振ってみた。悠はいつの間にか寝てしまった明を膝の上で抱きかかえながらそれに答えた。いつも通りの無表情で。


「そうだな・・・大筋としては問題無い。ただ、多少俺に対する美辞麗句が多いな。もう少し客観視して語る事が出来れば大戦中の良い資料となるだろう」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


《・・・それだけ?》


「それ以外に何かあるか?」


レイラの呆れた様な言葉はその場の全員の代弁だったが、悠は心底それ以外の感想が無い様だった。


「・・・苦労するね、レイラ」


《同情ありがとう、ローラン・・・ふぅ》


その溜息を持って、話は締め括られた。結局、どこに居ても悠は悠であるという事だ。

本日2話目です。一般市民の目線から見た悠の事が恵の口から語られました。レイラが語るとまた視点が異なるのですが、ローラン達に伝えるのならまずこっちかなと思い。


その内レイラから見た悠が語られるかもしれません。

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