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1-12 国葬1

明くる日、大戦の国葬がしめやかに行われた。


大戦の戦死者、行方不明者は概算で60億を超え、東方連合国家内だけでも20億に届かんとする人命が失われた。人類の人口は一気に中世以前まで落ち込んだが、かろうじてその種の維持は可能だった。


東方連合国家の人口は3000万弱を数えるが、農業技術も中世以前とは比べ物にならないほど発達しており、国民が飢えるような事態は避けられていた。それも人口減少のおかげといえば決して喜ぶべき事ではないのかもしれないが。


そして大戦中にこのような大規模な葬儀は不可能だった。いつドラゴンの襲撃があるか分からず、むしろ人間が群れていたりすれば、龍達は嬉々としてその群れを虐殺した。


大戦初期は、人海戦術を取った国が一日で1000万超の被害を出して国の崩壊に拍車をかけ、死体から流れ出る血液で湖が出来上がったほどだ。


戦時の死体は打ち捨てられたまま、誰にも弔われる事無く大地に還った。そのため、葬儀ではあっても、それに参加する民衆の顔には悲しみと同程度に安堵が見て取れた。ようやく弔う事を許された安堵であった。


国葬とは基本的に皇族、最高級軍人、また国家に対して極めて功績の大きい人物に対して行われるものであるが(これに該当しない場合、国民葬となる)、皇帝たる志津香が今回の大戦死亡者を全員対象とする事を提案し、議会も国民感情やこれまでの経緯を鑑みて満場一致で可決された。


――東方連合国家は皇帝をただ一人のトップとして頂いているが、多数の国家が寄り集まって成立した国家であるため、皇帝の下に諮問機関的な役割を持つものとして議会が置かれている。


とにかく、国葬には全ての国民が参加しており、都の各地に献花台が設けられ、皆思い思いに死者に対して弔意を示していた。


街頭のスピーカーからは志津香の弔辞が流れている。


「罪無き民衆と英霊達に安らかなる事を。これからも我らを見守って下さいますよう、心からの弔意をここに表します。東方連合国家・第二代皇帝・天津宮 志津香」


志津香の黙祷に合わせて民衆も死者に対して頭を垂れた。この日11月1日は大戦終了記念日として東方連合国家の祝日に定められた。


それを遠くから見つめる一人の少女の姿があった。


「みんなから敬虔なカルマを感じるわ。それが天に昇っていくの。それは確かに死者に届くのよ。勇者を選定する者である私が言うんだから間違いないわ」


ナナの化身であるナナナである。皇居からそれが見える視力は確かに人のものでは無い。


「それは良い事を聞きました。死者の魂が少しでも慰められるなら、これに勝るものはありません」


隣でマイクを切った志津香が答えた。喪に服しているため、今日は黒いドレスを着用している。


「この後はどうするの、シヅカ?」


ナナナが志津香の近くにいて咎めだてを受けないのは昨日の『妖精フェアリーパウダー』の認識阻害効果にかこつけて、「外国からの国賓かつ志津香の友人」という設定を刷り込んだからだった。なお、滞在記録は雪人の指示で朱理が偽装済みである。


「お昼からは記念碑の除幕式や記念日制定の公布、戦没者家族会会長へのご挨拶、あとは細々としたものを数えると・・・今日はそれで終わってしまいそうですね」


文字通り目が回るほど忙しいが、これでも朱理が雑事を高速でこなしているからこそ、この程度済んでいるのである。本当なら寝る時間すらとる事は出来なかったであろう。独裁とは真面目にこなそうとすると、非常に皇帝に負担のかかる政治形態なのだ。


「明日は大丈夫?」


心配するナナナの口調はナナよりも若干幼い。生まれて(作られて)からあまり経っていないナナナの化身にナナの精神が引きずられているため起こる現象だ。


「ええ、問題ありません。朱理は・・・仕事に関しては! 有能ですから」


昨日の事を思い出して、一部分を強調して話す志津香にナナナは疑問を抱いたが、まぁいいかなと思って流した。ちなみに朱理は今はスケジュールの調整で外している。


「シヅカはカンザキ竜将・・・長いからユウさんって呼ぶね。それで、ユウさんが遠くへ行っちゃ嫌?」


「・・・はい、申し訳ありませんけど、神崎竜将にはこの国に居て欲しいと思っています。ナナナ様には分からないかもしれませんが、神崎竜将はこの国になくてはならない人です。何かをして欲しいのではないんです。ただそこに神崎竜将が居るだけで、みんな安心して暮らせるんですよ」


「シヅカ、嘘は言ってないけど、本当の事も言ってないね」


ナナナの言葉に志津香の眉がピクリと上がった。


「そんな事はありませんよ? これは国民皆が思っている事であり、勿論この私も・・・」


「今ので分かったわ。シヅカ、貴女の事についての部分だけ、心がこもってないもの。貴女はどう思っているの?」


「そんな、私は! 私は・・・」


「ユウさんの事、好きなの?」


「・・・・・・・・・・・・はい」


蚊の鳴くような声で志津香は白状した。神とはいえ、会って間もない少女にすぐばれるくらいに自分の態度は分かりやすいのかと恥じらいながら。


「ごめんね、本当に。私もなるべく私よりも偉い神様達にお願いしてみるから」


神と人とに板挟みになっているナナナは真実すまなそうに志津香に謝った。


「こちらこそ、声を荒げてしまって申し訳ありません。あの、それと・・・」


視線を宙に彷徨わせながら、志津香はぽそぽそと呟いた。


「悠様には、この事は言わないで下さいましね?」


「悠様には、この事は言わないで下さいましね?」(くねくね)


ゲスのセンサーは高感度だ。突っ込み所は逃さない。


「ひゃぁぁああ!!」


いつの間にか自分の真横で脚色した物真似をしている朱理に志津香は大声で叫んだ。


「しゅ、しゅ、朱理、いつからそこに!?」


「さっき来た所ですが、ナナナ様と志津香様がなんだか面白い話をしていたので盗み聞きしていました」


キリッとした顔で言う内容では無かった。


「いい加減にしないと私も怒りますからね!?」


「あ、そうそう、志津香様、マイクを見た方がよろしいですよ?」


「えっ!!」


思わずマイクを切り忘れたかと思って慌てて電源を確認したが、作動ランプは消灯したままだ。


「はぁ、びっくりした・・・」


と、後ろからベリベリという音が聞こえて振り返ると、朱理が志津香とナナナの掛けていたテーブルの下からテープで貼り付けられていた物を取り出した。


「・・・・・・・・・それは何、朱理?」


目のハイライトを消して志津香が問い質すと、朱理は微笑んで答えた。


「ボイスレコーダーです」


カチっと再生すると先程の会話が再生された。


『そんな、私は! 私は・・・』


『ユウさんの事、好きなの?』


『・・・・・・・・・・・・はい』


「ヒュー♪」


「きゃぁぁぁああああああ!!!!」


鳴ってもいない口笛を吹きつつ手の平を上に向けて肩を竦める朱理は果てしなくウザかったが、恥ずかしい会話を録音された志津香はそれどころではなく絶叫した。


なんとかボイスレコーダーを奪い取ろうと朱理の周りをピョンピョン跳ね回る志津香と爽やかな笑顔でそれを回避する朱理。


そんな朱理が回避中に志津香に見えない様にナナナにパチリとウィンクを送った。


(なるほど、これが二人の気分転換なのね)


了解の意を込めたウィンクを一つ返しながら、ナナナは素知らぬ顔でお茶をすするのだった。

朱理を出すと話が斜め上になると分かったのが収穫です。

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