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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-55 餓狼死すべし3

ガシャンと大きく音を立てて地に落ちた剣を見て満足そうな笑みを浮かべるガーランとタムランに、悠が大声で怒鳴った。


「武装は解除した!! 恵を放せ!!」


それを見てガーランはますますその笑みを深くした。


「冗談はよせよ、ユウ。これから楽しい楽しい時間の始まりなんだぜ? ・・・俺の拷問にお前がどれだけ耐えられるかの、な?」


その言葉に子供達の顔色が真っ青になって京介と朱音が何か言おうとしたが、先んじてベロウがその口を塞いだ。


「黙ってろ! ・・・恵に危険が及ぶ」


思わずその手に噛みつこうとした京介と朱音だったが、ベロウの声が真剣なのを感じ取ってそのまま黙り込んだ。


「へへへ、よく躾けられてるじゃねぇか。なぁに、お前とそこの腰巾着以外は殺しはしねぇよ。殺しはな。・・・クッ、ヒヒヒヒヒヒッ!!!」


感極まって狂的な笑いがガーランの口から漏れだした。ああ、復讐とはなんと甘美な果実なのだろうか!! これに比べたら他の愉悦など取るに足らないとしか今のガーランには思えなかった。


「・・・一体、どうやってあの爆発を・・・!」


樹里亜の茫然とした呟きを聞きつけたガーランが嬉しそうに経緯を語った。


「ヒヒ、知りたいか? ・・・俺はいざという時の為に使い捨ての魔道具を持ってたんだよ。一回使うとぶっ壊れるが、強力な結界を張る魔道具をな・・・」


ガーランは懐から壊れた魔道具を取り出すと、その場に投げ捨てた。


「俺は運が良かっただけだがね」


そういうタムランは最初に意識を失った時、前に居た男に覆い被さられた状態のままだったので、爆風や瓦礫から守られたのだ。それをガーランに発掘されて子供達を追い掛けたのである。


玄関から出て来る時に子供達以外の反応に気付いたレイラが警告を発したが、悠はともかくレイラに慣れていない子供達は恵を除いて反応出来なかったのも痛かった。


「さて、いつまでも話なんぞしてちゃあ時間が勿体無いな・・・」


ガーランはそう言って腰の剣を抜き放つと悠に近づいて行った。


「・・・全員、目を閉じていろ」


「ゆうせんせー!!」


「悠先生!!」


「先生の言う事は聞いた方がいいと思うぜ? 今から見れる光景はガキにはちょっとキツイかもしれねぇからなぁ?」


「へへ・・・兄貴、やっちまえ!!」


ガーランは悠の近くまで来ると、悠に命令した。


「おい、手を前に出せ」


「・・・」


悠は特に抵抗するでも無く、両手を前に差し出した。


それを見て、ガーランは剣をゆっくりと上段に構え・・・振り下ろした。


「ユウッ!?」


「ヒッ!?」


「おにいちゃん!!」


「見るな!!」


その剣は手甲の隙間から悠の手首を通り、そして通り抜けた。そして少し遅れて地面に悠の両手がボトリと音を立てて転がった。


「テメェはエラく強いらしいが、どうだ? 手が無くても戦えるのかよ? ギャハハハハハ!!!」


その哄笑を彩る様に、ユウの手首からは血が噴き出している。しかし・・・


「ギャハハ・・ハ・・・おい・・・テメェ、人間か?」


悠は手を失っても特に表情を変えずにガーランを見ていた。その目はギルドで最初にガーランを見た時から一切変わっていない。・・・まるで興味の無い物を見る様な、感情の籠らない瞳だ。


手首からの出血も脇の下を筋肉で締める事である程度出血を抑えていた。


「切って赤い血が出るのだから人間に決まっているだろうが。貴様ら屑と一緒にするな」


悠の挑発的な言葉でガーランの理性が一気に吹き飛んだ。


「その目を・・・止めろッ!!」


憤りのままに突き出されたガーランの剣が悠の左目を抉り、悠の視界が最初は赤く、そして闇に染まった。


「どうだ! 痛ぇだろうが! 苦しいだろうが! さっさと這い蹲って俺に命乞いをしろ!! 逆らった事を泣いて悔め!! 俺を・・・楽しませろッ!!!」


ガーランは剣を投げ捨て悠の体を殴りつけた。感情の赴くままに、何度も、何度も。


「やめて!! もうやめて!!!」


「行けっ兄貴!! もっと、もっとだ!!」


タムランも血と暴力に酔ったのか、顔を赤くしてガーランをけしかけた。


「・・・クソが」


飛び出しそうな京介、朱音、そして明をふん捕まえながら、ベロウは拳を硬く握り締めた。何か行動を起こそうにも距離が遠過ぎる。子供達が魔術でも使おうものなら間違いなく恵にも被害が出るだろう。


打撃音が30を超えた辺りで、悠の口から血が漏れ出した。


「ハァッ、ハアッ・・・チッ、呆れるほど我慢強い野郎だな。・・・もういい」


血は流せども一向に変わらぬ悠に業を煮やしたガーランは投げ捨てた剣を拾い上げた。


「いくらテメェが意地を張っても死んじまえば同じ事だ。・・・ガキ共は俺が飼ってやろう。そこそこ育ってるのも居るしな・・・」


恵と樹里亜、神奈を見てガーランはまた違う楽しみを見出して余裕を取り戻し、舌舐めずりした。


「兄貴、この女は俺にくれよ。いいだろ?」


タムランがそう言って恵の体に手を這わせると、恵は嫌がって身を捩った。


「さ、触らないで!!」


「後で俺にも回せよ? さ、これでテメェもお終いだ。最期まで悲鳴を聞けなかったのは残念だが、もうどうでもいい。・・・くたばれ、ユウ!!」


ガーランの剣が振り上げられる中で、悠は半分になった視界で一つの事を見続けていた。そしてその機はガーランの剣が振り下ろされるその時にやって来た。


「兄貴、殺っちまえ!!」


タムランの恵に押し当てていたナイフが興奮で頭上に突き上げられた瞬間、悠の口がポツリと言葉を吐き出した。




「今だ」




ガーランがその声に不審を抱く前に状況が一変した。


「うっ!?」


背後から苦鳴が上がったかと思うと、悠が振り下ろされた剣を避けたのだ。


「避けるんじゃねぇ!! あのガキがどうなっても――」


「それより弟が大変そうだが、いいのか?」


「何ぃ!?」


思わずガーランが振り返ると、そこにはナイフを掲げたまま硬直し、目の焦点が合わない様子のタムランの姿があった。恵はとっくにその手から抜け出している。


「た、タムランッ!?」


「そして貴様は油断し過ぎだ。屑」


その声と共にガーランの背中に凄まじい衝撃が起こり、ガーランはそのまま宙を水平に飛んでタムランと激突した。悠が無防備な背中を蹴り飛ばしたのだ。


「うげぇっ!!!」


ガーランとタムランは顔面から衝突したせいで、互いの鼻骨と歯を砕きながら地面に崩れ落ちた。


「すごいや・・・このナイフ、本当にちょっと斬っただけで動かなくなっちゃったよ」


タムランの近くに居た神奈が感嘆の声を上げて自分の持っているナイフをまじまじと見つめた。


「危ないから刃には触るなよ、神奈」


「はい! って、悠先生、お、お怪我が!!」


「何、多少体が欠けて血が減った程度だ。すぐに治る・・・レイラ」


《はいはい。目と両手、打撲の治療をするわ。・・・『再生リジェネレーション』》


レイラが『再生』を発動すると、悠の損傷個所が靄に包まれ、そして元通りの体を取り戻した。


「やっぱりワザと注意を引いてたのか、ユウ?」


その様子を見てもう安全と判断したベロウが子供達を放して悠へと問い掛けた。年少組の子供達はすぐに悠の下へと駆けつけてその足に抱き付き、悠は子供達の頭を順に撫でながら答えた。


「ああ、蒼凪と『心通話テレパシー』で会話しながら隙を伺っていた。上手く距離が詰められたならば俺が無力化するつもりだったが、神奈に保険になって貰った。最初にバローに剣を捨てさせた時に、隙を見て神奈達の方に、例のナイフを投げてな。後はそれをこっそり拾って貰って神奈に渡しただけだ。神奈の能力スキルなら隙さえあればかすり傷くらいはすぐに付けられるからな」


「ああ・・・それであんな事を言ったのか・・・」


悠の言うナイフとはカロンの家に押し掛けたバラックが持っていた『毒牙のナイフ』である。あの後街に出た悠は武器屋でナイフの鑑定もして、その正体を知ったのだ。かすり傷一つでも付ける事が出来れば麻痺させるという効果を。


更に悠はナイフが地面に落ちる音を消す為に大声で武装解除を宣言した。その後で蒼凪経由で樹里亜にも注意を引く様に協力を要請し、智樹にナイフを拾わせて神奈が後ろ手に隠していたのだった。


「皆の協力がなければ成せない事だった。ありがとう」


「ごめんなさい、悠さん、捕まってしまって・・・」


「恵が謝る事じゃないわ。私が反応出来なかったからこんな事に・・・ごめんなさい、悠先生」


恵も樹里亜もそれぞれの立場での責任者として悠に謝った。


「何も問題は無いとも。全員が無事に揃っている。これ以上求める事など何があろうか? 2人共、ご苦労だった」


そう言って悠は恵と樹里亜の頭に手を置いて2人を労った。


「悠さん・・・」


「悠先生・・・」


2人は何か言葉を紡ごうとしたが、その手から伝わって来る温もりに言葉が出なくなった。その温もりこそが悠の気持ちを何よりも大きく語っていると思えたのだ。


「さて」


2人の頭から手を放すと、僅かに悠の目の温度が変わった様な気配が漂った。その視線の先には倒れて血を流すガーランとタムランが居る。


「バロー、こいつらには確かギルドから手配が掛かっていたな?」


「ああ、結構でかい賞金だぜ? ちなみに生かして連れて来るのが条件なのはそこのガーランとタムランだけだ」


ベロウは言外に子分達は殺しても構わないが、ガーランとタムランは殺さない様に悠へと要請した。


「頭には色々喋らせなければならんだろうからな。・・・それに見せしめにしなければならんだろう」


別に人道主義でギルドがガーランとタムランを殺さない様に依頼を出している訳では無い。もし生きたままギルドに連行されれば、2人は過酷な拷問の末に情報を吐かされ、民衆の前で残酷に処刑されるだろう。それが2人の未来なのだ。だから悠は特に2人をどうこうしたいとは思っていなかった。ガーランの様な稚拙な復讐心でなぶる様な真似をする気も無い。


「それによ、この人数を街まで運ぶのはちょっと手間だぜ?」


中に居る10人は既に死んでいるが、外にはガーランとタムランを含めてまだ20人もの人間が居るのだ。縛るにも縄が足りないし、死ぬと分かっていれば大人しく連行されもしないだろう。


「コロッサスに連絡するしか無いな。・・・ここで処分するのは子供達に良くなかろう」


あくまで『黒狼こくろう』の生き残りに対しての慈悲ではなく、子供達の情緒面への配慮から悠はこの場での処分を否定した。


「俺が街へもう一度飛んで行くとしよう。中の死体を放り出して子供達を内部に収容する。そしてバローを道案内としてミーノスのギルドに置いて行き、俺はここで生き残りを監視する。こいつらのダメージは1時間程度でどうにかなる物では無いから大丈夫だ」


それでも往復に10分程度は掛かるので、悠は子供達を『虚数拠点イマジナリースペース』に収容して安全に配慮して動く気だ。


「分かったぜ。まずはその死体を片づけるか」


そう言って悠とベロウは子供達を伴って屋敷へと入って行った。


その背後には、牙を叩き折られた餓狼共が死屍累々と横たわるばかりであった。

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