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1-11 それぞれの夜ver.志津香and朱理

暴走した感はありますが、今割りと清々しい気分なので反省はしていません。

「夜這いですね」


この部屋にゲスが一人いた。


「そ、そんなはしたない事出来ません!!」


「出来る出来ないではありません、ヤるかヤらないかです。フヒ」


やっぱりこの部屋にゲスが一人いた。


ここは皇居の志津香の部屋である。基本的に皇帝以外の立ち入りは厳禁なのだが、朱理は家の権力、地位、皇帝の言質を持って、志津香の許す限りは立ち入る事が許されていた。それでももし朱理が男であったなら許されなかったであろうが。むしろ女でも許してはいけなかったような・・・


「今笑いましたね!? また私をからかっているのね! 朱理っ!」


さすがにいつもいつもからかわれていては育ちが良くて鈍い志津香でも感付く事はたまにある。たまに。


しかし怒られた朱理をみて志津香は怪訝そうに眉を顰めた。それは朱理が人前で志津香に、皇帝陛下としての自分に接する時の表情を浮かべていたからだ。


「志津香様、申し訳ありません。せめて少しでも志津香様の気が晴れればと思ってこのような事をしてみたのですが・・・やはり私はダメですね。志津香様のお気持ち一つ晴らせないなんて、秘書官どころか友人失格です・・・」


自らの至らなさを悔いて俯き、肩を震わせる朱理をみて、いつもと違う様子に志津香は慌てて言い募った。


「ちょっと待って下さい朱理! 朱理はたまに・・・時々おふざけが過ぎる事はありますけど、貴女は私の大切な友人ですわ!」


「いえ、いいのです、志津香様。私のように至らないダメ人間は部屋でノートにまともになるまで「真人間」と書き取りをして過ごせばいいんです・・・」


目を潤ませて首を振る朱理に、志津香は更に焦って宥めにかかった。


「ごめんなさい朱理! 私が言い過ぎましたわ! 私に出来る事ならなんでも言って?」


額に汗を浮かべながら朱理の肩を抱いて、泣く子をあやすように志津香は朱理に語りかけた。その言葉に、テーブルに指で「真人間」とエア書き取りしていた朱理が少しだけ顔を上げた。


「・・・本当ですか?」


「ええ、本当よ。だからそんな事は止めて、お話してちょうだい?」


右手は肩に回したまま、左手で朱理のエア書き取りの手を止めさせた。と、次の瞬間、何事も無かったかのように、朱理が懐から何かを取り出した。


「ではまず志津香様にはコレを付けて頂きたいなと思います」


その手には紐状のナニカがあった。


「・・・・・・・・・・・・なんですの、ソレ」


志津香が顔を真っ赤にして震える指でソレが何なのかを尋ねると、


「えっちな下着です」


ゲスがイイ顔で答えた。


「やはり人間がもっともリビドー、おほん、ルゥィヴィドゥーを感じるのは視覚です。ならばその視覚に訴えない手はありません。志津香様のその男好きのする体をこのヒモ・・・もとい、下着で包み込めば、それはもう一種の神秘と言って差し支えありません。必ずや神崎竜将であっても五体投地して礼拝を捧げる事疑いありません」


クワッと締めくくる朱理の前で志津香は口から半分ほど魂を入滅させかかっていたが、なんとか声を絞り出して朱理に問いかけた。


「どこでこんなモノを手に入れましたの・・・」


「あ、自作です。軍の紡績工場の見学に行った時に残っていたヒモ・・・もとい、生地がいくつかありましたので作ったんです。お裁縫は得意なんですよー」


「貴女実は結構暇なんじゃありません!?」


照れながらのたまう朱理に全く共感出来ずに志津香は叫んだ。


「まぁ、コレは前座ですから、本命は別ですのでご安心下さい」


このレベルの物体Xが前座である事に志津香は戦慄を覚えていたのだが、構わずに朱理は懐からその本命の物体Yを取り出した。しかし、


「?これは・・・とっても可愛らしいですわ・・・」


懐から出した瞬間に爆発物でも出てくるかのような反応をしていた志津香だったが、出て来た物は志津香の目から見ても十分に可愛らしい、フリルのあしらわれた白い下着の上下だった。


「もう、志津香様、少しは私の事も信じて下さいな」


信じられない行動の事は棚に上げていけしゃあしゃあとむくれる朱理にジト目を一つくれてから、志津香はその下着を手にとった。


「肌触りも悪くありませんわ。デザインも変にいやらしく無いですし」


「一応、水着を参考に作っているので、見た時の清潔感を主題にしましたから。これなら初めての時でも多少は恥ずかしくないですよ」


「いえ、それはやっぱり恥ずかしいです・・・」


顔を赤らめてはいるが、その下着が気に入ったのか、志津香はじっと手に取った下着を見つめていた。


「で、肝心の機能ですが」


「へ、機能?」


朱理は懐から同じ下着をもう一着取り出すと、テーブルに備え付けてあるコップにその下着を入れ、水差しからその水を注いだ。


「こうやって水を注いでくるくるっと混ぜると・・・アーラ不思議、下着は溶けて無くなってしまいました!! いやー、この生地は元々軍の機密文書用の繊維だったんです。作戦としては「最後に一度お背中をお流しさせて頂けませんか?」って言って神崎竜将を誘い出すワケですよ。神崎竜将も最後だから断ってばかりいるのは悪いなぁという罪悪感からせめてそれくらいならと許可しますよね? そして背中を洗ってお湯で泡を流して貰った神崎竜将は当然礼を言う為に振り返るワケで、そうしたらなんと! 背後に志津香様のZE・N・RA! そうしたらもう視覚効果うんぬんであとは二人でgo to heaven!! ヘタレ・・・もとい、慎み深い志津香様でも出来る自動脱衣下着! これは頂きましたね、志津香様! ・・・? 志津香様?」


あまりの落差に志津香は意識を手放していた。下着は手放してはいなかったが。


「おやおや、ちょっとした冗談でしたのに。溶ける下着はこちらの物だけで、志津香様にお渡ししたのは普通にいい生地を使った自信作だったんですよね。まぁ、一応気に入って頂けたようで嬉しい限りです」


肩を竦めて首を横に振ると、朱理はひょいと志津香をお姫様だっこしてベットまで連れて行き、衣服を脱がして横たえて、そっと毛布を被せた。そして志津香の持っていた下着に『こちらは普通の下着です。お気に召しましたらご着用下さい』とメモを付た。


「では志津香様、御機嫌よう」


そう言って部屋を後にするのだった。












《汝はもう少しスマートに出来んのか?あれではシヅカ殿の汝を見る目が悪くなろうが。ソツなく物事をこなすかと思えば、不器用な女よ》


「いいのよ、志津香様が元気になれば私の事なんて。明日は明日でまた大変なんだから。それに一番手っ取り早いでしょう、ああするのが」


《・・・やはり汝は不器用な女よの。だがそれでいい》


「フフ、ありがとう、サーバイン。貴女も不器用なイイ男よ」


夜の廊下に二人の声だけが木霊していた。

朱理は残念な部分を除けば才女です。家庭的な一般スキルは網羅しています。


志津香は残念な部分を除けばカリスマです。特に何も出来ません。

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