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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-51 間隙6

「兄貴、不味いぜ! 半分以上も殺られちまった!! もう逃げようぜ!!」


タムランは泣きそうな顔になってガーランに逃走を促した。人数が減ってしまい、浮足立ってしまっている。そもそもタムランは先の見えない状況が苦手であり、悠達と対峙した時も旗色が悪くなった途端、すぐに逃走に移ったのだ。


しかし復讐心がガーランに首を縦に振らせなかった。


「落ち着け! そもそもあんな小技に頼るって事は攻撃力のある奴が居ない証拠だろうが!! 中の奴らだってもう種切れに違いない! 二か所から攻めるのはヤメだ!! 残った奴全員で一気に落とすぞ!!」


「で、でも兄貴・・・うぐっ!?」


それでも渋るタムランの首をガーランが片手で締め上げた。


「タムラン、テメェは逃げてばっかりじゃねぇか!! そもそもここを攻めるって最初に言ったのはお前だろうが!! 『黒狼こくろう』ともあろう者がいつまでもビビってんじゃねぇよ!!」


「わ、分かった、分かったよ兄貴!! ・・・ゲホッ」


タムランが了承したのを確認してガーランが手を離した。


「ケッ、分かりゃあいいんだよ。いいか、今度は徹底的にやるぞ。結界にはまず何かを投げつけてどの結界か確認しろ。そして硬質系ならそのまま手を抜いて攻撃。反射なら何もせずに待機だ。そもそもずっと張っていられるなら最初からやってるはずだからな。そのうち魔力が尽きるだろう。そうしたら後は一気にドアを破るだけだ!」


ガーランは戦闘に関しては決して無能では無かった。冷静に最善を尽くした策を選択したつもりであったが、ガーランは戦術家ではあっても戦略家では無い。そしてそれに復讐心が絡む事によって、ガーランから逃走という選択肢を奪っていた。


「気合を入れろよ! 今度こそあのドアを破るぞ!!」


「「「お、おう!!」」」


そして最後の攻防が幕を開ける・・・








《・・・侵入者が戻って来ました。どうやらどこまでも突破を図るつもりですね》


「・・・仕方ないわね。皆、これが最後よ。次の連中さえどうにかすれば私達の勝ち。全員無事に悠先生を迎えるのよ!!」


「「「はい!!!」」」


押されているガーラン達と違って、こちらは皆気力十分だ。


《人数が減ったせいか、二か所から攻めるのは止めた様ですね。正面側から全員やってきます》


「これ以上各個撃破は望めないか・・・ま、いいわ」


樹里亜は特に落胆する事も無く最後の策の要になる子供達を見て言った。


「締めは頼んだわよ、京介君、始君、朱音ちゃん、智樹!」


「へへっ、さいごはヒーローのでばんだよな、はじめ!」


「う、うん・・・がんばる・・・」


「ほらぁ、しっかりしなさいよ!!」


「まぁまぁ、皆、自分のやる事をしっかりね? ・・・僕が一番不安なんだけど」


年少の子供達を宥めながらも智樹は自分の胃をさすって小さく溜息を付いた。元来荒事は苦手なのだ。始の不安そうな表情にはシンパシーすら覚える。


「まず最初は小雪ちゃんの結界を張って相手の出方を見るわ。その後は手筈通りにお願い。・・・行くわよ!!!」


樹里亜は自分自身を鼓舞する様に声を張り上げて言った。樹里亜も最後の策では役割があるのだ。画竜点睛を欠く様では悠を悲しませてしまう。気を抜ける物では無かった。


「「「はい!!!」」」


そして両者はバリケードと壊れかけのドアを挟んで3回目となる攻防が始まった。








「あ、兄貴、結界だ!」


「騒ぐんじゃねぇよ。おい、そこら辺の連中の得物を軽く投げてみろ。その場に落ちたら硬質系、強く跳ね返ったら反射系だ」


ガーラン達の中に魔力を扱うのに長けた人間は居ないので、見ただけで結界を判別するのは難しい。しかし、冒険者にはその様な状況の為のマニュアルというものがある。ガーランも腐っても冒険者であり、それらの方法を知悉していたのだった。


「・・・反射の結界です。このまま様子を見ましょう」


「たまに何かを投げつけるのを忘れるなよ。途中で切り替えて術者を休ませるかもしれねぇ。後、切れたからって無警戒で攻撃するんじゃねぇぞ。攻撃の瞬間に張り直してくるかもしれねぇからな。5分の力で斬り付けろ!」


「「「へい!!」」」


ガーランの策で子分達も多少落ち着きを取り戻していた。そのまましばらく結界は続いたが、やがて薄れる様に消えていった。


「よし、総攻撃だ!!」


その号令で男達は警戒しながらもドアへと各々の得物を振り下ろし始めたのだった。








「・・・・・・くっ、・・・ご、ごめんなさい、限界です・・・」


結界を維持していた小雪の手が力無く垂れ下がり、態勢を崩した。それをスタンバイしていた智樹が優しく受け止める。


「お疲れ様、小雪さん。少し休んでいて下さいね?」


「あ、は、はい・・・」


小雪を椅子に掛けさせると、智樹は打撃音が響くドアを見つめた。既に所々貫通しており、斧や槌の一撃毎に破られる瞬間が迫っている。


「上等よ、ここまでの時間稼ぎをありがとう、小雪ちゃん。・・・始君! 智樹!」


「で、できたよ~~、ふぅ、ふぅ・・・」


「はい! 始君もお疲れ様」


始が額の汗を拭って土属性魔術で出来た物体をカゴの中に入れ、智樹はそれを受け取った。


「どう、智樹?」


その物体を握って感触を確かめる智樹に樹里亜が問い掛けた。


「・・・十分だと思います。形も及第点だと」


「そう、それじゃあタイミングは私が合図するわ。それに合わせてお願いね?」


「分かりました」


そして智樹はその物体の入ったカゴをドアの正面に持って行き、その中の一つを手に取ってドアと正対した。


「まだよ・・・まだそのまま・・・」


樹里亜はドアの破壊を慎重に見極めている。まだというその言葉は逸る自分に言い聞かせているかの様だ。


全員が固唾を飲んでドアを見つめる中、遂に槌の一撃がドアを一際大きく貫いたのを見た樹里亜は待ちに待った合図を叫んだ。


「今よ! 砲撃開始!!」


「う、うわぁぁぁああああっ!!!」


智樹が覚悟を決めてその手から始の作った物体を能力スキルを使って破壊寸前のドアへと投げつけた。それはドアを薄紙の様に破ってドアの向こうのガーラン達に襲い掛かったのだった。








「!?」


それを最初、ガーラン達は上手く認識出来なかった。ドアに槌を振り下ろしてその破壊に気を良くしていた男の頭部が突然半分吹き飛んだのだ。


「な、何が・・・ギャ!?」


茫然と呟いたタムランを頭を吹き飛ばされた男の体と槌が押し倒す。運悪く倒れて来る男の持つ槌がタムランの体に強く当たり、胸から骨の折れる音がしてタムランは男に押し倒されたまま意識を失った。


「タムラン!? うおっ!?」


そのガーランの目の前を再びドアを突き破って飛んで来た何かが高速で通り過ぎた。それは更にもう一度飛んで来て、運の悪い子分の体に突き刺さり、その体をくの字に折らせて絶命させた。


ガーランがその男の体を見ると、何か光る物が埋まっているのが見えたが、ガーランにはもう逃げる時間もそれをよく確認する時間も無かった。








「よくやったわ!」


樹里亜の言葉に智樹がホッと胸を撫で下ろした。


樹里亜は智樹が接近戦を苦手としている事を知っていて、尚且つその能力を引き出せる活用法を考えたのだ。それが質量のある物体による遮蔽物を挟んだ投擲攻撃である。


まず始に食事などに使う金属器をいくつも合わせてボール状に加工して貰い、ソフトボールくらいの金属球を作り出した。いくら智樹の筋力が高いと言っても質量の無い物体では破壊力が出ないので、始の魔術は大いに役に立った。そしてドアを破壊してまでそれを行ったのは、最後の反撃への布石だった。


「最後よ! 2人で決めて!! 朱音ちゃん、京介君!!」


「はい! うまく当ててよ!」


「まかせとけ! うぉぉぉぉおおおお!!!!!」


朱音は穴の開いたドアから周囲に用意しておいた水をいくつも球にしてドアの向こう側に漂わせた。無論それだけでは相手は濡れるだけで何の効果も期待出来ないだろう。


しかし、そこに京介が自分の全魔力を振り絞って火属性魔術を叩き込んだらどうなるだろうか?


答えは京介が放った火球がドアの向こうへ消えた、ほんの少しだけ後に出た。




ヴジュバッ!!!!!




濁る様な大音響を上げてドアの向こう側で爆発が起こった。


――そう、水蒸気爆発である。

現在出来る最大の殲滅手段です。限定空間で行わないと味方にも被害が出ますが。

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