表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
175/1111

3-48 間隙3

その少し前の『虚数拠点イマジナリースペース』近くの森の中での事である。




「こんな場所に屋敷だと?」


「へい、先行してる奴らが見つけたんです。かなり大きな屋敷ですぜ」


子分の言葉にガーランは首を捻った。この辺りはそうそう人が立ち入る場所では無いが、それにしても今まで噂一つ聞いた事も無いのは不自然だ。


「まるで昨日今日出来たばかりみたいにキレイな建物だったらしいです。どこかの貴族が愛人でも囲う為に作ったんじゃないんですかね?」


「なるほどな・・・」


貴族がその様な目的で人目を忍んで屋敷を建てるのは珍しい事ではない。大方、最近手に入れた愛人を本妻から隠す為にどこかの貴族が建てたのだろう。それにしても魔物モンスターが出るような森の奥というのは珍しいが。


ガーランのその疑問は子分の次の報告で氷解した。


「どうも結界が張られているみたいでしてね。屋敷にそんな物を付けるくらいですから、余程中の女に入れ込んでるんでしょうよ。・・・中には女の為の贈り物もたんまりあるに違いありやせんぜ」


下品な笑いを浮かべて、子分の男はガーランに襲撃を促す様に囁いた。


「そうだな・・・」


「兄貴、考えるまでもねぇだろ? 俺達には金が要るんだ。そこに降って湧いたみたいにこんな美味い話があるなんて、俺達にもツキがある証拠じゃねぇか!」


弟のタムランは既にその屋敷に押し入る気満々だった。30人にもなる大所帯を維持していくのは楽な事では無い。これから国境を超えるとしても、金はいくらあっても困る事は無いのだ。


ガーランもそれを分かっているが、不自然さと欲望が拮抗していた。


しかしそれも次のタムランの言葉を聞くまでだった。


「それに、兄貴。兄貴はあのユウとかいう野郎に復讐したいんだろ? それなら俺達はもっともっと大きくならないといけねぇよ。その為にはまずは先立つ物が必要だぜ?」


その言葉にガーランの冷静な思考は吹き飛んで、悠への恨みで赤く染まった。


「・・・ああ、絶対アイツだけは何があっても殺す!!! いいだろう、女と使用人だけなら俺達くらいの数が居ればどうとでもなる。おい、その屋敷に案内しろ!!」


「へい!!」


ガーランがそう号令を掛けると、子分達は嬉しそうにそれぞれの武器を構えて案内する男の後に続いた。男達の頭にあるのは、金、食料、温かい寝床・・・そして若い女の体を存分に貪るという欲望だった。


餓狼は涎を流しながら、子羊達を蹂躙する為に行進して行くのだった。








《! 緊急事態! 屋敷内に侵入者あり! 結界を再稼働します!!》


「・・・え? え?」


「葵、状況はっ!?」


食後のお茶を楽しんでいた子供達の中心に居た恵のポケットの中から葵が突如鋭い警告を発して結界を再稼働させた。恵は状況が分からずに茫然としていたが、樹里亜は即座に状況を把握して葵に確認を取った。


《・・・現在、12名の侵入者が屋敷に入りました。武器を携行。この時点で結界を再展開。危険度Aと認識。今すぐここから逃げる事をお勧めしますが・・・私に周囲の索敵能力はありません。周囲を囲まれている可能性があります》


偵察した男が見た時には発動していた結界だったが、その後結界休止のローテーションの時間となり、間の悪い事にガーラン達が屋敷の前に来た時には既に結界は解かれていた。ガーランはこの状況を訝しむよりも好機と捉え、自らを筆頭に屋敷を強襲したのだ。


更に葵が言った通り、葵には周囲を探る能力は無い。その為、屋敷に押し入った男達を感知してから結界を張り直すのが精一杯の対応だった。


「・・・代替案はある?」


《次善の策としては籠城する事です。幸い、今は全員この広間に揃っています。バリケードを築き、この場に籠れば1時間は安全でしょう・・・しかし、その後は直接戦闘は避けられないものと思われます。マスターに帰って来て頂ければ話は別でしょうが・・・》


状況の打破の為に頭を巡らせる樹里亜が葵に尋ねたが、その対応は精々延命措置といったものだった。


「・・・いいわ、まず私達が第一に考える事は生き残る事よ。私達年長組は長い時間はまだ戦えないし、年少組はそもそも戦闘経験が無いわ。この中で今まともに動けるのは・・・小雪ちゃんだけね」


「・・・!」


その言葉を聞いて小雪が胸の前で両手を重ねて握り締めた。


その脳裏には、悠と出会った時の光景が思い出されていた。


(こ、こわいよ・・・またあんな事をするの、わたし? いえ、出来るの?)


その時の事を考えると体がバラバラになりそうだ。頭は高熱を感じているのに体は酷く震えて、まるで極寒の氷原に裸で放り込まれたかのようだった。


顔を蒼白にする小雪をみて、樹里亜は決断した。


「まずは全員でバリケードを作るわよ! 皆、持てる家具を持ってドアの前に積み上げて!! ・・・小雪ちゃん、小さい子達の守りをお願い。智樹は逃げる時に蒼凪を背負って。恵、あなたは全員の引率をお願い。・・・神奈」


「分かってるよ、言わなくても。さ、早いとこ積み上げよう!!」


樹里亜の意図を込めた目線に神奈は皆まで言うなとばかりに快活に答え、率先して家具を両手に持ってドアの前に積み始めた。


「え? それってどういう・・・?」


小雪は状況に付いて行けずに疑問符を浮かべながら樹里亜に問い掛けたが、樹里亜は鋭くそれを窘めた。


「疑問は後よ! 手を止めないで!!」


その言葉に弾かれるようにして、何か言いたそうにしていた子供達も急いで近くにあった家具を手にドアへと走り出した。


(私の失態だわ・・・悠先生が帰って来るまで、何としても皆を守らないと・・・!)


樹里亜は自分の判断ミスに叫び出したい気持ちだったが、指揮を任されている自分が取り乱す訳にはいかないという責任感でギリギリの精神状態で踏み止まっていた。それを察した神奈は特に反論せずに樹里亜の言葉を受け入れたのである。


・・・最悪、2人が捨て駒になって、皆を生かす為に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ