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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-45 鋼神と呼ばれた男6

「よう、遅かったじゃねぇか? せっかくカリスが茶を入れてくれたってのによ」


悠が家の中に入ると、ベロウとカリス、それにカロンがテーブルに着いてお茶を嗜んでいた。もっとも、カリスとカロンは外から聞こえて来る悲鳴が気になってお茶を飲む所では無かったのだが。


「に、兄さん・・・その、バラック達は・・・?」


恐る恐るカリスが悠に尋ねたが悠の口調には特に変化が無く、ただ事実だけをカリスに告げた。


「もう奴らがお前達に絡んで来る事は無いだろう。メロウズとかいう男はそれなりに才覚がありそうだ。心を入れ替えて真っ当な道に進めばいいが、たまには毒も薬だ。清いだけでは人は生きては行けないからな。ああいう男も必要だろう」


そう言って悠はテーブルに着いてお茶を一口飲んだ。残念ながら悠の好みの濃さでは無く、温度も冷め始めてしまっているが、出された物に文句を付ける様な真似はせずにありがたく頂いた。


ちなみに、悠に見逃されたメロウズが裏社会で一目置かれる存在になるのはもう少し後の事である。


「済まないな、兄さん達。ウチのゴタゴタに巻き込んでしまって・・・」


「あっ、そうだよ! あの金貨3枚は必ず返すから・・・」


「いや、あれは仕事を頼みたいと思っているから、その手付けだと思ってくれればいい。近く子供用の装備一式を幾つか依頼したいのだ。訓練用だからそこまで気を張る必要も無い。受けてくれるか?」


悠はただ金貨を貸した事にしてはカロン達も心苦しいと思い、その使い道として咄嗟に子供達の装備品の事が頭に浮かんだので提案してみた。どのみち、屋敷で子供達に訓練するならある程度の装備は必要になるし、有事の際の備えにもなる。メロウズに対して返還を求めなかったのは、叩きのめした男達の治療費のつもりだったからだ。


その悠の提案にベロウが渋い顔をした。


「おいおい、ユウ。カロンほどの鍛冶師を捕まえてガキの装備を作れってのは・・・」


「いや、やらせて頂こう。俺はこんな体だからしばらくは無理だが、カリスならもう出来るだろう」


「えっ!? い、いいのかいオヤジ?」


そのベロウの言葉を遮ってカロンは快諾し、カリスに任せる旨を悠に伝えた。カリスはカロンが渋るなら自分で受けようと思っていたので渡りに船と大喜びだ。


「感謝する。子供達は近い内に一度連れて来るので、その時に採寸を頼む」


「よしてくれ、兄さんに頭を下げられてはこちらの立つ瀬が無いよ。俺も体がマシになったらカリスを手伝うからさ」


「初めての装備がカロン工房かよ・・・チクショウ、いいなぁ・・・」


カロンの承諾を見てベロウは羨ましそうにそう呟いた。


「兄さんにもそのうち作るからもう少し待ってくれよ。兄さんの剣を見るにノースハイア流だろ? 俺の剣とは相性がいいと思う。期待して待っていてくれ」


「へへっ、期待してるぜ、カロンさんよ!」


破顔して喜ぶベロウに、カロンは不意に何かに気付いた表情になってカリスに声を掛けた。


「そうだ! おいカリス、その兄さんの靴を見せて貰え!! 兄さん、もう一度いいかい?」


「別に構わんが・・・」


「何だよオヤジ、そんな血相を変えちゃってさ。特に何て事の無い靴じゃないか。まあ、意匠は変わってると思うけど・・・」


「ハァ・・・お前もまだまだだな。よく見てみろ、その靴を保護している金属を」


そう言われてその靴をじっくりと見たカリスの眉が顰められた。


「あれ? これ、タダの鉄、じゃない? ・・・いや、どうなってるんだ? 全然硬度が違う! に、兄さん! ちょっと持ってみてもいいかい?」


「ああ」


悠は椅子に座ったまま靴の紐を解き、それをカリスに渡した。カリスはその持った時の手ごたえにもう一度驚いた。


「嘘だ・・・鉄でこれだけの硬度を出そうと思ったらこんな厚みで済むはずがないのに、嘘みたいに軽いや・・・お、オヤジッ! も、もしかしてこれが神鋼オリハルコンなのかい!?」


「バカ、神鋼の特徴と全然違うだろう? 俺もユウさんに初めて教えて貰ったが、これは龍鉄という素材だそうだ。硬度は見ての通りで、ドラゴンの鱗と鉄を一定量混ぜると出来るらしい。俺も長く鍛冶の世界でやって来たが、ドラゴンの鱗がそこまで優秀な触媒だとは初耳だったな」


カロンが知らないのも無理は無い。この世界にはそもそも『蓬莱ほうらい』でいう所のⅤを超えるランク付けのドラゴンなど殆ど伝説クラスの存在であり、一般的に冒険者が狩れる限界はⅢ程度だった。そのランクのドラゴンの鱗を鉄と合わせても、出来るのは精々悠の持っている龍鉄の半分程度の硬度が関の山だ。また、鍛冶冶金の技術においても数段遅れたこの世界では再現は難しいであろう。


特にドラゴンの鱗は様々な薬や魔術の触媒としても扱われているので、鍛冶に使おうという物好きは殆ど居なかった。精々鱗鎧スケイルメイルとして素材をそのまま貼り付けるくらいだ。


「・・・ドラゴン、かぁ・・・流石に今のアタシ達には手が出ないね。試そうにも、鱗1枚で金貨5~6枚はするドラゴンの鱗なんてとてもじゃないけど手に入らないよ。しかも配合比も分からないんじゃ、金がいくらあっても足りやしない」


「だが、もし手に入れば・・・俺は生涯で最高の剣を打てるかもしれん。・・・兄さん方!」


カロンは強い決意を秘めた目で悠達に向き直った。


「無理を承知で頼む! もしドラゴンの鱗が手に入る機会があったら俺に譲ってくれないか? その変わり、この世界で一番の剣をバローさんに打つと約束しよう!!」


「お、おい、そりゃあもしそんな代物が貰えるんなら涎が出るくらい欲しいけどよ・・・流石にドラゴンはなぁ・・・ユウ?」


「・・・人に仇なすドラゴンが居たらな。友好的であるなら狩らん。それでもいいか?」


悠はレイラの手前、無差別に狩る様な発言はしなかったが、聞いていた者達には別の感想があった。すなわち、


「い、いや、流石に狩って来いなんて言わんよ?」


「・・・ユウ、その恐ろしい考え方をもう少し改めてくれねぇかな? ドラゴンだぞド・ラ・ゴ・ン!!」


「そ、そうだよ! ワイバーン(飛龍)だって厄介なのに、ドラゴンなんて2人だけじゃ自殺行為だよ!」


「お、おいカリス! 俺を頭数に入れるんじゃねぇ!!」


カロンはあくまで手に入ったら頼むという意味で言ったのであって、ドラゴンをこんな少人数で狩って来いなどという無茶を振ったつもりでは無かった。頭数の内に数えられてベロウも大いに慌てている。


《ユウ、別に私に気を遣わなくてもいいのよ?》


「そういう訳ではない、レイラ。竜は賢い。話せば通じる者も居るはずだ。最初から戦う気で行っては殺し合いにしかならんと思うからこそだ」


《ま、そういう事にしといてあげるわ》


ペンダントから笑いの波動が漏れ、悠はペンダントを弄った。


「それと心配は無用だ。ドラゴンは何度か狩った事がある。遅れは取らんよ」


「「「・・・」」」


悠の発言に3人は言葉を失ってただ茫然と見つめるだけだった。ドラゴンと戦って生き残るだけでも至難であるのに、悠は何度か倒した事があると言うのだから当然だ。・・・しかも真実として、悠は「何度か」狩った事があるのでは無い。「何度も」狩った事があるのだ。この場ではあえて強調しては言わなかったが。


「ではそろそろ暇しよう。また後日な」


3人が自失から完全に立ち直る前に、悠はカロンの家を辞し、遅れてベロウも慌てて悠の後を追ったのだった。

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