1-10 それぞれの夜ver.雪人and真and匠
隠しサブタイは「女々しい野郎共の詩」です。
雪人、真、匠の三人は示し合わせて皇都の街にある軍の高級仕官用の酒場に繰り出していた。雪人の前にはもう既に決して安くも度数の低くも無い酒瓶が二本空になっており、三本目も半分くらい減っていた。その目も顔もアルコールで赤く染まっていて、普段は後ろで括っている髪は乱れており、酒を含んでいない時の口はなにやらもごもごと口ずさんでいる。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねんぐっ」
呪いの空間が形成されていた。
「いいかげんにしろ、雪人。酒が不味くなるだろう」
悪い酒になっている事に辟易した匠が、さすがにそろそろ止めさせようと口を挟んだ。軍人としては雪人の方が格上だが、悠と同じく教官であった匠に敬意を払い、オフの時間は立場は年少者と年長者のそれに準じていた。だが、酔った雪人はやぶ睨みで匠を見返した。
「そもそもですねぇ! 防人教官殿は! なぜ止めなかったんスかねぇ~!、あのバカ野郎、そのうち死んじまいますよ! 俺の! 見てない! 所で! 死ぬなってんだ!! うー、うーー、ブッ殺してやろうか・・・」
もはや支離滅裂で、連合国家随一の智謀の持ち主にはとても見えない。雪人の気持ちも分かる匠は宥めるように雪人に話しかけた。
「今まで悠が自分で決めた事を覆した事などあったか? ならばせめて俺達は気持ち良く送ってやろうとは思わんか? 誰にも祝福されず遠くに行くあいつは、決して顔にも言葉にも態度にも出さんだろうが・・・傷付くんじゃなかろうかな・・・」
そう言って口を酒で湿す匠をみて雪人は憮然として黙り込んだ。勿論そんな事は百も承知だ。悠は傷付かない金剛石では無い。むしろ傷だらけで、新たな傷を負っても人には分からないだけだ。雪人もこの時代の人間の常として幸福な人生を送ってきたとは言えないが、悠はその比ではない。それは子供の頃から悠を知っている雪人が一番近くで見てきたのだ。だから、
「分かってますよ! でも、あいつは、あいつは、悠は・・・幸せにならなきゃならんのですよ・・・でなきゃ何の為に・・・」
酒に映った自分の顔にイラついて、雪人はコップに残っていた酒をぐいと干した。そしてふと隣を見ると、真が自分のコップを見つめながら泣いていた。
「お、おい、真、どうした?」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしつつも声を押し殺して泣いている真を見て、雪人の酔いが少し醒めた。真は囁くように語り出す。
「おれ、おれ、神崎先輩に何も恩返しも出来てないのに。どうしたらいいんスか? どうしたらいいんでしょうか?真田先輩、防人教官・・・」
真は途方に暮れていた。大戦の最後でも自分は連れて行っては貰えなかった。今回の件でもどうしたらいいのか分からない。そして一週間後には悠とは二度と会えなくなるかもしれない。止める事も祝福する事も力になる事も出来ない。出来ない、出来ない、出来ないばかりだ。
《泣き言を言うなマコト! ならば力づくで止めれば良かろうが! 今度こそ彼奴めをワシの足元に這い蹲らせて・・・》
《ホッホッ、100戦100敗の常勝不敗ならぬ常敗不勝のお前がユウをどうしようというんじゃ。マコトに無駄に怪我をさせるだけで百害あって一利なしじゃわい》
《こ、この糞爺がぁ!》
歯があればギリギリと歯軋りでもしそうな口調でガドラスが吼えるが、プロテスタンスはそ知らぬ口調で真に語りかけた。
《マコトや、こやつは小僧で阿呆じゃが、それでもお前をなんとか元気付けようとしてこのように振舞っておるんじゃよ。少しは意を酌んでやってはくれんかな?》
「はい、分かってますよ、プロさん。ガド、悪かった」
《ば、バ、バカがっ!! 俺はユウを倒してレイラを手に入れたいだけだ!! 勘違いするなよ!!!》
雪人は騒々しいなと思いながらも、主と深く結びついた竜騎士を羨ましく思った。雪人は竜器使いで筆頭たるシリウスの座にはあるが、己の竜とは対話出来ない。デスクワークが多く、訓練に時間を割けなかったせいもあるが、竜騎士に覚醒して初めて人は竜との対話を可能とする。それには想像を絶する苦難と修練が必要だった。
(俺ももう少し鍛えてみるかな・・・)
そんな事を思う雪人だった。
雪人に今の所覚醒予定はありません。今後は分かりませんが。
そしてガドラスがツンデレを発動しました。また誰得・・・