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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-37 目的4

「では、我々の前途が、そして世界の行く末が明るい物である事を祈って、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


フェルゼニアス家の広間に高くグラスが掲げられた。それは昨日の乾杯の時よりも真剣な気配が感じられるものだった。


「さて、ユウ。君の今後の展望を聞きたいな。家の者は料理を運ばせた時点で下がらせているから心配はいらないよ」


グラスに口を付けてからローランが悠に話を促して来た。今後の為にも情報は早く入手しておいた方が良いと判断したのだ。


悠もそれを受けて情報の仔細を語り出す。


「この世界の状況は大まかにバローに聞いたが、どの国も交易などはあっても信頼は無い。ましてや異なる種族とは殺し合うばかりだ。これでは火種は常に複数燻っているのと何ら変わらん。まずは人間国家で手を取り合い、それを異なる種族まで広げていくのが俺の目指す所だな」


悠が考えていたのは世界規模での緊張の緩和だった。現状では何かあればすぐに戦争に直結してしまうこの状況を変え、悪徳の芽が広がるのを押さえようと思ったのだ。


「・・・難しいですね。人間同士だからこそ譲れない価値観もありますから。これまでの歴史でも国同士の友好を結ぼうという動きは幾度もありました。しかし結局は互いを滅ぼしあう最終戦争にまで発展してしまっています。同盟を組んでも効果は精々戦争1回限りで、むしろ途中で裏切られる事も多々ありました。アーヴェルカインの人間は基本的に誰も信用していないのです。国も、他人も、いえ、ひょっとしたら自分の身内すらも。・・・私はそんな父上に反発してこういう性格になりましたが、異端ですので参考にはなりませんね」


そこまで言ってローランは再びグラスに口を付ける。


「俺も冒険者時代他所の大陸にも行ったが、基本的に敵ばかりだったぜ。魔物モンスターって意味じゃなく、人間の居ない大陸ではむしろ俺達が狩られる方だったからな・・・それでも、人間に対して友好的なヤツが全く居なかった訳でも無い。怪我をして動けない所を助けられた事もあったし、メシを恵んでくれたり見なかったフリをしてくれたヤツも居た。だから、俺はユウの言っている事が不可能じゃないと思う」


コロッサスが昔を思い出しながら意見した。


「問題は、上の人間にこそその意識が無いとユウの言っている状況を作る事は不可能だという事ですね。ミーノスは現王は無理にしても、ルーファウス様なら話を聞いて下さると思います。ユウ、ノースハイアはどういう状況だい? カザエル王に何かしたんだろう?」


ローランが自国の状況を確認しながら悠に尋ねた。


「なに、少々話しただけだ。娘の前で更正を誓わせたから、多少はマシになっているはずだ。少なくとも領地拡大の為の戦争などはもう行われまいよ。当分の間はな」


「・・・その「少々」が気に掛かるのだけれどね? まぁいいよ、それでまたノースハイアには行くのかい?」


「3月後にまた竜騎士として訪れると少々脅しておいた。召喚も出来ない様にしたから、従わざるを得まい」


「ならば今はその言葉を信じようか」


さり気無く大逆罪に相当する話をしているのだが、全員がその発言を流した。これから世界を相手取るならばこの手の話は今後もいくらでもあるだろうと思ったからだ。


「ミーノス、ノースハイアの両大国が手を結べば、それ以外の小国家も従うだろう。問題はアライアットだね。あの国はノースハイアが台頭してくるまでは一番の強国だったんだけど、この20年でノースハイアと同等以下にまで領土を切り取られて来たんだ。そう易々とは従わないと思うよ?」


「ならば大勢をこちらに傾けてから交渉した方がいいな。軍人を見たが、錬度はいいとしてモラルに欠ける。あの様な有様ではこちらの話は聞くまい」


「アライアットの兵士にも何かしたんだったね? 何を・・・と聞くのも野暮か」


ローランが肩を竦めて溜息を付いた。


「死体を嬲る奴等に温情を掛けるほど甘くは無いつもりだ」


悠のその言葉で一同は何があったのかを薄々察した。竜の尾を踏んだという事なのだろう。


「この3月の間に私も派閥闘争にケリをつけよう。ユウ、君もしばらくはこの国に留まって貰って構わないかい?」


「ああ、保護している子供達に安全な土地を用意して貰えるのならな」


「それは承った。既に場所も確保する様に文を出してある。返答が来次第そちらに移って貰うよ」


ローランはこの宴が始まる前に既に書状を領地へと送っていた。ここまでくればどうしようかなどと悠長に悩んでいる暇は無かったのだ。


「ユウにはしばらく冒険者としての声望を高めて貰いたいな。名が上がるほど君の意見の重みは増す様になるし、要人にも会い易い。国同士が手を結ぶというなら上層部の説得は必須だろうからね。あるいは・・・排除かもしれないが」


ローランの目に剣呑な光が宿っていた。普段はそうは見えないが、大国ミーノスを支える大貴族の一人なのだ。事極まれば非情な手段を控えるつもりは無い。


「分かった、当分はこの国でギルドの仕事をこなそう。コロッサス、出来れば難度の高い依頼を用意しておいてくれんか? 割りのいい仕事で無くともいい」


「難しい依頼を望む冒険者ってのも珍しいな。いいぜ、いくつか塩漬け状態になってる仕事がある。それをこなしていけば、ギルドでも一目置かれるはずだ」


悠の提案をコロッサスが受け入れた。割のいい楽な仕事を回すのは問題があるだろうが、誰も受けない困難な依頼であれば問題は少ないだろう。


「頼む、バローも一緒に来て貰うぞ? 俺達はパーティーと認識されている様だからな」


「・・・お手柔らかに頼むぜ、ユウ・・・」


その希望は叶えられないだろうなとベロウは思ったが、言わずにはいられなかった。

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