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1-9 それぞれの夜ver.悠andレイラ

軍宿舎に帰ってきた悠は熱いシャワーを浴びて一息ついていた。湯が肌を滑っていく感触を楽しみながら右手だけで頭を泡立てている。左手は二の腕付近で失われており、更に足も良く見ると右足の膝から下も無い。シャワーの熱で赤くなった体にも至る所に傷跡が浮き上がっており、ぐるりと手足を回る傷跡も多数ある事から、四肢の喪失が一度や二度の事では無い事が分かる。


切創、擦過傷、貫通創、火傷に溶解創と、およそ傷と言える物の種類はコンプリートしていると思われるが、胸を中心として円形に無傷の場所があり、その場所には赤い宝石のペンダントが首からぶら下がっている。


当然、軍人であるかどうか以前に悠に体を宝飾品で飾る遊び心は無い。これこそが待機状態の竜鎧レイラであり、この状態でも会話は可能なのだ。


《行く前に四肢の再生をしておかないといけないわね、ユウ》


「ああ、そうだな。レイラのサポートがあるから義肢でも普段の動きに差し障りは無いが、向こうでは何があるか分からんからな」


『竜騎士』にまでなった人間はある意味で最早人間では無い。人間としての重要器官が破壊されると死ぬのは変わらないが、即死でなければある程度の生命維持や再生は可能である。ただ、かなりの竜気プラーナを必要とするので迂闊に戦闘中に再生する訳にはいかないのだ。限界を超えて戦闘、再生を行うと、今も病院のベットの上で絶対安静状態の轟のようになり、相棒たる竜も低位活動モードとなって竜気の回復に努めなければならない。


「今再生出来るか? レイラ」


《ええ、最後の戦いからもう1週間になるし、一応50%程度までは回復したわ。足と手の再生で10%ずつかかるけど、低位活動モードに落ちるほどじゃ無いから大丈夫よ、じゃ、いくわね》


そしてペンダントから赤い靄のような物が出てきたかと思えば、それは体表を伝って失われた左手と右足の先に集まってきた。待つ事数秒で赤い靄が晴れた後には、元通りとなった手足があった。


「少し細いな、また鍛え直さなければ」


再生させた左手を握ったり閉じたりしながら悠は呟いた。ちなみに再生リジェネレーションを最も得意とするのはキャンサー(蟹座)たる朱理で、竜気のロスも少なく、再生時間も短い。その辺りも皇帝に万一の事が無いようにという護衛の条件に適っている。


《ねえ、ユウ。まだ傷跡は消さないの?》


レイラが心配そうに悠に問いかける。再生力を強めれば体中に残る傷跡を消す事も可能であるが、悠はその傷跡を消そうとはしなかった。


「構わんよ。これは俺が生きてきた証だ。誰かに見せる訳でも無いからな」


(でも、せっかく戦いが終わって、ユウも少しは穏やかに暮らせるようになると思ったのに。まさか異世界でまで戦う事になるなんて。・・・この世界に来て戦っている私が言えた義理じゃないわよね)


レイラ達竜も(龍も)元々はこの世界の生物では無い。そして積み重なる世界の住人ですらない。この辺りにナナの説明しなかった事があるのだが、それはまた後述する。


新しく生えた手足を洗い、シャワーを止めた悠は浴室から出てタオルで体を拭った。良く鍛え込まれ体躯であり、短く切った黒髪の下には強い意志を感じさせる眉と両の目が備わっている。口は引き結ばれており、188センチの高い身長と相まって軟弱さを欠片も感じさせない。


「明日は国葬で忙しくなるから早めに寝るとしよう。明後日以降もやらねばならん事が山ほどあるからな。父上と母上、そして香織の墓参りに竜将の引継ぎ、挨拶回り・・・ああ、軍を抜けるからこの軍宿舎の引き払いもあるな」


下着のみを身に着け、悠は明日からやらねばならない事を指折り数えて思い浮かべていた。


《ねぇ、ユウ。シヅカ・・・皇帝陛下の事はどうするの?》


「・・・・・・」


悠は黙って目を閉じていた。悠は別にライトノベルの鈍感系主人公では無い。志津香が自分に向ける感情にもとっくに気付いていて尚且つ深く接触しないように気を付けていたのだ。そしてそれは軍を抜け、この国を後にすれば完成するはずだった。図らずも異世界に行く事となり、その意図は達成されようとしていた。


悠は恋愛に関してはたった一つだけ信念があった。それさえクリアする女性が現れたならば、むしろ自分から求婚するつもりですらあった。


「俺では皇帝陛下を幸せには出来ない。戦場の鬼は戦場でくたばるのがお似合いだろう。陛下にはもっと日常を支える人間が必要だ。これからの時代は特に、な」


《・・・良く分からないわ、人間の恋愛は。でも結婚って必要だからするとか必要無いからしないとか、そんなものじゃないと思うわ。平和になったからこそ、もう一度改めて考えてみてもいいはずよ。貴方にも人の幸せを追求する資格があるんだから。だからちょっとだけ考えてみて、ね?》


「ああ、分かったよ、レイラ」


レイラは悠の事を愛してはいるが、それは人と違うメンタリティをもった竜としてのものだ。だから悠には人としての幸せを手に入れて欲しいと常々思っていた。悠には青春と呼べるような甘い記憶など無い。いつの時を思い出しても、血と涙と苦痛と、そして死があるばかりだった。


悠はベットに腰掛け相棒に今日の別れを告げる。


「おやすみ、レイラ」


《おやすみない、ユウ》


そして部屋は闇に包まれた。

男の裸の詳細描写って誰得だろうかと思いながら書きました。


口直しに陛下にも脱いでもらったらいいんでしょうか。

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