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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-31 弟子への贈り物3

「えへへっ」


アルトは新しく手に入れた剣を抱き締める様にして街を歩いていた。念願だった剣を尊敬する二人の師匠に買って貰った事が、2人に弟子として正式に認められた証の様に感じられて嬉しかったのだ。


しかし、そんな微笑ましいアルトの様子とは裏腹に、悠とベロウはアルトに向けない様にして周囲に殺気を放っていた。ギルドを出た時から感じていた害意が未だ消えないのがその原因だった。


時刻はもうじき夜の鐘(午後6時)が鳴る時間であり、晩秋である事も手伝って、既に日は落ちている。人気も少なくなり、襲撃にはもってこいの時間といえる。


このまま公爵家まで連れて帰る訳にも行かず、悠とベロウは視線だけで会話し、この場で排除する事に決め、貴族街の少し手前で暗い路地に入り、更に人気が無い場所へと移動した。流石にアルトもそこで違和感を感じて悠に尋ねて来る。


「ユウ先生? 家はあっちですけど・・・?」


「アルト、敵だ。周囲に注意しろ。バローから離れるなよ」


「えっ!?」


悠はより濃密になった害意の中でベロウにアルトの護衛を任せた。


「バロー、アルトから離れるな。・・・さっきの奴等とは錬度が違う」


悠は研ぎ澄まされた害意に、『黒狼こくろう』などとは違う、洗練された物を感じ取っていた。その為、ベロウにアルトから離れない様に指示を出したのだ。


「おう・・・どうやら、警告を送ってたのは向こうも同じだったみたいだな」


これだけの気配を放つ刺客が街中で分かる様に害意を放つ理由は、悠とベロウに対する警告だったのだ。そして『黒狼』にそんな事をする理由が無い事を考えると、狙いはむしろ悠達では無くアルトの方だろう。それに気付いたベロウもアルトを背後に庇うようにして剣を抜き放った。


「そろそろ出てきて貰おうか。影からこそこそ見るだけとは、お前達は鼠か?」


悠は周囲の暗闇に向かって声を掛けた。周囲は静まり返って物音一つ聞こえなかったが、やがて悠達の前に一つの影がどこからとも無く出現した。


「――お初にお目にかかる。我はミロ。命が惜しければその子供を置いていけ。貴様等の命は保障してやろう」


「み、ミロだと・・・まさか『影刃シャドーエッジミロ』か!?」


そのベロウの戦慄を含んだ言葉に、悠もピクリと反応した。それは人間の中でも特に注意が必要とベロウが言っていた者の一人だったのだ。


「そう呼ばれる事もある。我が刃は影から迫るゆえに。返答や如何に?」


ベロウは歯をギリギリと噛み締めながらミロを睨み付けた。ミロと言えば、暗殺術を得意とする生粋の暗殺者アサシンだ。この10年でミロに殺された人間は100を越すと言われている。そして、ミロには手足となる恐るべき集団、『影刃衆』と呼ばれる暗殺集団が常に付き従っていると噂されていた。


ベロウは思わず悠を見たが、その姿を見て少し冷静さを取り戻した。悠は全くいつもと変わらない、自然体のままミロを見返していたのだ。そして、ミロの言葉に明快に答えた。


「断る。アルトにはまだ教える事が山ほどあるのでな。貴様等の様な溝鼠には渡さん」


その悠の言葉に周囲の気配が害意から敵意、そして殺意に膨れ上がった。


「我等を罵倒するか、冒険者風情が。よかろう、貴様等には残酷な死をくれてやる」


その言葉が終わらない内に周囲から突然いくつもの影が悠達に向けて襲い掛かった。その手には黒く焼かれたダガーが握られている。


さしもの悠も全方位からの攻撃は防ぎ難く思われたが、手が霞む様に懐に入れられたかと思うと、瞬時に抜き出して周囲に向けて何かを放った。


「ぐっ!」


「ぎゃっ!!」


その直後、悠達に殺到し掛けていた影がいくつかの悲鳴を上げて地面に叩き付けられた。


「何っ!?」


ミロも自分に向かって飛んできた何かを手にした黒いダガーで打ち落とした。そこには先ほど武器屋で購入した投げナイフが1本転がっている。


悠は戦闘に入る前に、レイラと『心通話テレパシー』の会話によって敵の正確な位置を掴んでいた。そして『豊穣ハーヴェスト』を切り、飛び出してくる瞬間を狙い打ちにしたのだった。


今の悠の一撃で2人は急所に攻撃を仕留められ、2人は怪我を負い、無傷なのは影の一人と眼前のミロだけだ。


「『影刃』とは随分と大層な名を持っている様だが、子飼いがこの程度では興醒めだな。『黒鼠』と変わらんレベルでしか無いなら同じ鼠らしくとっとと尻尾を巻いて逃げるんだな。俺は慈悲深いから追わずにおいてやる」


「我等をあのような下等なゴロツキと同一視するかっ!?」


「キリギス!!」


悠はミロの一喝を聞いて確信を抱いた。『影刃』とその一味は『黒狼』と同じ雇い主に雇われていると。でなければ『黒鼠』という、悠以外に言わなかったセリフに反応はしないはずだ。その意図に気付いたミロが苦々しげに悠に告げた。


「・・・中々の策士だな。キサマ」


「性格の悪い友人がいるおかげで俺もこの様な手口に慣れてしまったようだ。朱に交わればとでも言おうか?」


頭の中で秀麗な顔をした軍人が心外そうな顔をした気がしたが、今は戦闘中であり、悠は目の前の敵に集中した。


「こうなっては目的だけは果たさせて貰おう、『影刃衆』! こいつの相手は我がする。お前達は公爵の息子を攫え!!」


「「「応!」」」


ミロの言葉と共に怪我をした者を含めた3人の『影刃衆』が悠を迂回してアルトとベロウに迫った。そしてミロ自身も悠に向かって黒い刃を構えて突進して来た。


「チッ、ミロ本人ならともかく、手負いの三下如きにゃ負けられねぇんだよ!!」


そのベロウの言葉と共に、戦いは第二幕を迎えたのだった。

バトル回です。次回も続きます。

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