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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-30 弟子への贈り物2

「昨日の武器屋に行こうぜ。お勧めだけあって中々いい品揃えだったしよ」


「ふむ・・・アルト、行きたい武器屋が決まっていないなら、俺達が知っている店でいいか?」


「はい、僕もまだこの街の事はよく知りませんからお任せします」


3人が向かっているのは昨日悠とベロウが装備を購入した武器屋である。地元民のエリーのお勧めというだけの事はあり、品揃えも品質もかなりの水準に感じられたのだ。アルト用の剣もその武器屋なら気に入る物があるのではないかと悠とベロウの意見が一致したので、アルトに依存が無いならとその武器屋で購入する事に決めたのだった。


外は日が傾き始め、これから夕方になろうかという時刻である。2時間もすれば夜の鐘(午後6時)が鳴るだろう。


「俺はアルトの剣術は見てないんだが、流派はなんだ?」


この中で一番剣について詳しいベロウがアルトに尋ねた。剣は流派によって使う物が異なるので、気に入ったからといって適当に購入する訳にはいかないからこその質問だった。


「特定の流派はありません。正しい剣の振り方や受け方を習った程度です。ずっとやりたかったんですけど、勉強が忙しくて・・・」


アルトは公爵家の嫡男であり、この年でありながらも大人と対等に話せるだけの知性を得ていたが、心の奥では同じ年頃の少年達と同様に著名な剣士や英雄に憧れを持っていた。生来の気質からあまりワガママを言える性格でも無いのを知っていたローランは、この機会に多少でも希望を叶えてやろうと思って悠達に今回の依頼を行ったという一面もあった。


「ローラン様を見るに、アルトもあんまり筋肉が付く体質でも無いかもな。後々を考えてあんまり重い剣は止めておこう。小剣ショートソードで良さそうなのがあったらそれにするか」


「はい!」


ベロウの言葉にアルトは嬉しそうに返事を返した。頭の中は剣を持ってそれを振るう自分の姿で一杯になっている。


なので、当然アルトは気付かないが、悠とベロウは周囲に漂う微量の悪意を感じ取っていた。


「バロー」


「ああ、分かってる・・・だが、大通りを通っている内は大丈夫だろ。こんな所で仕掛けたら、即警備の兵が飛んでくるからな」


悠とベロウは小声で相談を纏めていた。『黒狼こくろう』の者か、新参の悠達をカモにしようと思ったならず者かは不明だが、何者かがこちらに害意を持って様子を伺っている気配を感じたのだ。


2人は自然とアルトを挟む様に位置を調整し、飛び道具による奇襲を警戒した。ギルド内で毒を盛られた時と違い、相手にも分かる様に警戒したのは、気付いている事それ自体が相手への警告になるからだ。


その甲斐あってか、武器屋に入るまで特に相手から仕掛けてくる様な事は無かった。が、武器屋に入ると中で店主が誰かと揉めている最中だった。


「だから、そんな簡単に商品を置いてやる訳にはいかないんだよ。ウチはちゃんと先代からの信用の置ける職人の物を置いてるんだ。お嬢ちゃんみたいな若い、実績の無い子の物を置く場所は無いんだ。諦めて、露店から始めるんだな」


「アタシの作るモンがここにあるモンに劣ってるとは思えない! なぁ、頼むよ、一つ二つでいいんだ! 絶対後悔させないからさ!!」


「はぁ・・・困った嬢ちゃんだな・・・ん、いらっしゃい、兄さん達、また来てくれたのかい?」


店主はこれ幸いにと売り込みの女性から離れて悠達の下へとやって来たが、その女性も諦めずに悠達を巻き込んで再度売り込みを始めた。


「なぁ、アンタもコイツを見てくれよ、悪い出来じゃない自信はあるんだ!!」


「お嬢ちゃん、いい加減に・・・」


「まぁ待ちなよオヤジさん、一体どうしたってんだ?」


ベロウの鷹揚な言葉に店主が事情を語り始めた。


「実は・・・このお嬢ちゃんがウチにどうしても商品を取り扱って欲しいって言うもんで困ってたんですよ。ウチは長い時間を掛けて信用出来ると見込んだ職人の品だけを扱ってます。昨日今日この街に来たような人間の品は扱えません。何かあったらウチの信用問題ですからね」


「だから~、絶対そんな事は無いって!! どうすれば信用してくれるんだよ!?」


「露店で地道に商いをやって、評判が聞こえてくる様になったら信用するよ。それが商売ってもんだ」


「それじゃ困るんだよ・・・オヤジの薬を買わなきゃならないんだ。王都は場所代だけでウチみたいな個人はカツカツだ。とても薬代を貯める事は・・・。オヤジはアタシより腕のいい鍛冶屋なんだ! 治ったら、この店にきっと儲かるような品を持って来る! だから頼むから買い取ってくれよ・・・」


その女性は目を潤ませてとうとう土下座までし始め、店主はより困った顔で悠達を見た。


「・・・てな具合でしてね。ウチとしても並べられない物を買い取ったなんて噂が立ったら、懇意の職人はへそを曲げるし、こういう持ち込みもどんどん来ちまう。だからどんなに物が良くても、この手の話はお断りしてるんです。助けてやりたいとは思うんですがねぇ・・・」


店主の話を聞きながら、ベロウは女性の持ち込んだ大小2本の剣を鑑定していた。装飾は少ない無骨な作りだったが刀身の出来は良く、使用には差し支えない様に見える。ベロウは悠にも渡し、具合を確かめさせた。


「どうだ、ユウ。俺は悪くないと見たが?」


「・・・ふむ、鋼の作りは悪くない。細工が少なく無骨だが、実戦的と言えるだろうな。値段によっては買い取ってもいいだろう」


「ほ、本当かい兄さん達っ!!」


土下座していた女性はがばっと起き上がって悠とベロウに詰め寄って来た。その目は縋る様な期待感に揺れている。


「アルト、振ってみろ」


「え? は、はい!」


悠はアルトに短い方の剣を渡し、アルトに具合を試させる事にした。


「えいっ! やっ!・・・うん、この剣、使い易いですよ、ふらついたりもしません」


「みてぇだな。おい姉ちゃん、この剣はいくらだ?」


アルトが剣を振る様子を見て、ベロウはそれが同情からでは無く、本当にそう思ってる事を感じて女性に値段を尋ねた。


「買ってくれるのかい!?」


「慌てなさんな、値段に納得がいけばの話だ」


長剣ロングソードが金貨1枚に銀貨5枚、小剣ショートソードが金貨1枚だけど・・・どうだい?」


女性が不安そうに2人を見て、ベロウが肯定的な視線を悠に送った。その視線を受けて悠も軽く頷き、女性に購入の意志を伝える。


「分かった、俺達が買い取ろう。金貨2枚と銀貨5枚だな」


「お、恩に着るよ兄さん達!!」


「やれやれ、軒下で商売をされちゃ困るんだがね・・・」


購入が決まった事に女性は喜び、悠とベロウの手を両手で順に握り締めてぶんぶんと上下に振った。店主は自分の店で商売をされて困った顔をしていたが、悠はそれを労う為に小剣を店主に渡して更に注文する。


「店主、この小剣に合う少し見栄えのする鞘を金貨1枚くらいで捜してくれんか? あと、投擲用のナイフも10本ほど買いたい。収納付きで2つな。頼めるか?」


「ふ、兄さん達には色々気を使わせちまったな。あいよ、任せてくれ。ちょっと待ってな」


そう言って店主は鞘を探しに奥へと引っ込んでいった。


「ありがとう、兄さん達。アタシはカリスってんだ。最近この街に来たんだけど、オヤジが旅の途中で病に当たっちまってね。治る病なんだが、とにかく金が掛かるんだ。今日売れなけりゃ、もう身売りでもするしかないと腹を括ってたんだ。本当に助かったよ」


そういうカリスの足はよく見ると少し震えていた。身売りするしかないという話は本当の事だったのだろう。今更ながらにカリスを見ると、赤い髪を後ろで括り、こちらに笑いかける顔はかなり整っていて活発な印象を受ける。腕は少々筋肉質だが、体はしっかりと凹凸が利いていてそちらの方は買い手には困らないだろうと思われた。


「なぁに、物が悪けりゃ買い取りはしなかったさ。仕込んでくれたオヤジさんに感謝するんだな」


「ああ、丁度探していた所だったからな。運が良かった」


「なぁ、兄さん達には是非とも礼がしたいんだ。明日にでもウチに来てくれないか? アタシは街外れの職人街に住んでるんだ。今日はこのまま薬を買わないといけないから案内は出来ないけど、オヤジにも会わせたいからさ。双竜亭って宿屋の横の路地を入って突き当たりがアタシの家なんだ。来てくれるよな?」


そう言ってカリスはじっと悠とベロウの目を見つめた。うんと言わなければいつまでも食い下がりそうな気配を感じたベロウは、降参したかの様に承諾した。


「分かったよ、明日行かせて貰う。だからそんな目で俺達を見ないでくれよ」


「やった! 絶対だぜ!?」


余程剣が売れたのが嬉しいのか、カリスはその場に飛び上がって喜んだ。


そこに店主が鞘と投げナイフのセットを持って戻って来た。


「良かったな、お嬢ちゃん。だけどこんな事はこれきりにしてくれよ?」


「ああ、オヤジさんにも迷惑かけたね。済まない、今度は地道に評判を上げてオヤジの作ったモンも持って来るよ」


「是非そうしてくれ。俺だってこの剣がいい物だってのは認めるからよ」


「ああ、じゃあな!!」


カリスは代金を握り締めると大きく手を振ってその場を後にした。


「ふう、嵐の様なお嬢ちゃんだったな。兄さん達、随分と人が好いね。金は大丈夫かい?」


「よく言うぜ、俺達に水を向けたのはアンタだろ?」


「さてね?」


ベロウは店主が自分達の懐具合も察した上で店主がこちらに話しを振って来た事を悟っていた。今後も懇意にするならこのくらいの先行投資も悪くないと割り切った上で話しに乗ったのだ。


「その分、こっちはサービスさせて貰うよ。鞘と10本の投げナイフセットで金貨3枚だが、金貨2枚と銀貨5枚でいいよ」


「そうこなくちゃな!」


ご機嫌なベロウの隣で悠が袋から金を取り出していると、ベロウが悠に金貨を一枚ほおって来た。


「ユウ、鞘の分は俺が出す。一応師匠としてその程度しとかねぇとカッコがつかねぇからな」


「フ・・・分かった。娼館が遠のくな、バロー?」


「金貨1枚もありゃあ十分いい女が抱けるっての。いいからさっさと払っちまえよ」


悠の言葉にベロウは明後日の方向を向いて頬を掻いた。どうやら照れているらしい。


「あ、あの! 僕はいくら払えばいいんですか?」


そこに状況に流されていたアルトが声を掛けて来たが、悠はアルトの財布を取り出すしぐさを止めて答えた。


「この剣は俺とベロウからのアルトに贈ろう。それでしっかり稽古するのが俺とベロウの望みだ。受け取ってくれるか?」


「っ!? は、はい! ありがとうございます!! 僕、ずっと大切にします!!!」


その言葉にアルトは満面の笑みで答えたのだった。

新キャラの鍛冶娘、カリスです。まだ細工までは上手く作れません。

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