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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-28 無慈悲の一撃2

「どうだ、ユウ?」


悠がその言葉に振り返ると、ベロウが後ろからアルトの両耳を抑えて聞こえないように配慮していた。アルトもベロウに言われた通りに目を固く閉じている。アルトに拷問を見せるのはまだ早いと考えた悠がベロウに頼んだのだ。


「ああ、済んだ。どのみち奴はしばらくは動けん。背後関係はギルドで調べるだろう」


ギルドの外で倒れている男はようやく金縛りから解放されたギルド職員に縛り上げられていた。恐らく意識を取り戻しても怪我で動けないだろうが念の為だ。


「『黒狼こくろう』の一味か?」


「その可能性が高いだろうな。奴は俺達全員に致死性の毒を盛った。隠れてギルドに残っているメンバーが居るのかもしれん。一応、ギルドに伝えておくべきだろう」


悠とベロウがそんな相談をしていると、奧から身なりを整えたコロッサスが渋い顔をして悠に歩み寄って来た。


「・・・ユウ、お前俺の話を聞いてたか?」


「聞いていたから叩き出すだけにしておいたが?」


まるで悪びれない悠にコロッサスは何かを言おうとして諦め、代わりに大きな溜め息を付いた。


「はぁぁ・・・分かった分かった、状況が状況だからこれ以上は何も言わん。・・・で、相手に心当たりは?」


「俺達を狙う相手なら決まっている」


「『黒狼』、か」


コロッサスの言葉に悠は頷いた。


「メンバーだという事を隠している者がまだ冒険者の中にいるのかもしれん。今俺達に行った様な事をされては冒険者達も尻ごみするかもしれんぞ」


「あ~~~クソッ! 面倒ばかり残す奴等だな畜生!!」


コロッサスはせっかく整えた頭をガリガリと掻き毟って愚痴を漏らした。


「捕まえた奴等からはその辺りも聞き出した方がいいだろうな」


「全く・・・こっちはこれからご機嫌伺いだってのによ」


コロッサスは自分で乱してしまった髪を後ろに撫で付けると、手近な職員に素早く指示を出した。


「俺が帰って来るまで今の奴はギルドの牢へ入れておけ。それと、職員一同にギルド内でも気を抜かない様に言っておけ、いいな?」


「ハッ!」


職員が他の職員に注意を勧告するのを見て、悠もテーブルの方へと戻ろうとした。


「待て、ユウ。この分だと他にも街に『黒狼』の残党がいるかもしれねぇ。気を付けろよ・・・って、お前には無用の忠告か」


「いや、忠告はありがたく受け取っておこう。ではな」


悠はコロッサスの忠告を頭の片隅に留めてテーブルへと戻っていった。








「バロー、もういいぞ」


「はいよ」


席に戻った悠は耳を塞がせていたベロウにそう言ってアルトの耳を解放させた。音が戻って来た感覚に、アルトも閉じていた目を開いた。


「ユウ先生、終わったんですか?」


「ああ、また注文のし直しだな・・・君」


「は、はいっ!!」


悠はへたり込んでいた店員に声を掛けるともう一度注文を繰り返した。店員も弾かれる様に了承して大慌てで厨房へと走り去っていく。


「で、ミリー、今の俺の投擲が見えたか?」


何事も無かったかの様に、悠はミリーに今のフォーク投げについて尋ねた。


「え? あ、いえ、手が霞んだ所までしか見えませんでした・・・」


ミリーが気付いた時には悠の手には既にフォークは無く、後ろから絶叫が聞こえて来た所だったのだ。


「要は他の攻撃と同じだ。抜く時には力を込めず、手から離れる瞬間に瞬発力で投げろ。ミリーの場合、魔法か投擲で遠間に対応し、近距離なら短剣ダガーで戦えばいい。臨機応変に状況に対応しろ」


「はい・・・」


多少練習した所であれだけの投擲が出来るとはミリーには思えなかったが、そうなれる様に努力する事は自分自身に誓った。


「アルト、街は危険かもしれんが、どうする?」


悠はアルトに向き直り、昼からどうするのかを尋ねた。場合によっては家に帰った方がいいだろう。


「あまり長く出歩くのは危険かもしれませんが、僕、武器屋にはどうしても行きたいんです。これから練習する為に剣が欲しくて・・・」


アルトはまだ自分の剣を持っていなかった。これまでの稽古では木剣を使っていて、今日も武器には触れなかったが、家で練習する為に剣を買う事をローランが許可してくれたのだ。


「そうか、では今日の所は武器屋だけにしておこう。それでいいか、アルト?」


「はい、ありがとうございます!」


そうアルトが嬉しそうに答えた時、再び店員が料理を持ってやって来た。先程よりも大分早いのは悠を恐れたからかもしれない。


「お、お待ちどうさまっ!」


「おー、中々美味そうだ。さ、食おうぜ? いい加減俺も腹が減っちまった」


そのベロウの言葉を合図に、ようやく皆遅れた昼食にありつけたのだった。

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