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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-27 無慈悲の一撃1

あ、残酷描写ありです。ご注意を。

ギルドの中に戻ると、昼近くになり何人かの冒険者達も戻って来ていて多少賑やかになっていた。そしてテーブルに着いた悠達の事を見つけると、既に噂は広まっているようで遠巻きにチラチラと様子を窺っている。


「な、何か見られてないですか?」


昨日の顛末をまだよく知らないビリーがベロウにそう尋ねたが、ベロウは素知らぬ顔でメニューを見ながら答えた。


「昨日、ユウがギルド長相手に暴れたからだろ? 気にしないでメシにしようぜ」


コロッサス相手に優位に戦い、更に見学していた冒険者達を全員失神させた事は言わずにベロウは給仕をしていたギルド付きの店員を呼び止めて注文を伝え始めた。


「アルト、決められないか?」


「は、はい、すいませんっ」


皆の注文はすぐに決まったが、アルトだけがメニュー表を端から端まで見てはウンウン唸っていた。


アルトは今までこの様な場所で食事をした事が無く、メニューを見てもイマイチ料理の事が分からないのだ。


それはこの世界に来たばかりの悠も同じように思えたが、悠は毒でなければ何だって食べるよう軍人として訓練していたので特にこだわりを見せずにベロウと同じ日替わりの定食を頼んでいた。


「何事も経験だ。今日は日替わり定食にしたらどうだ?」


「はい、そうします」


アルトも悠にそう水向けられてようやく料理を決め、5人はしばし歓談して料理を待った。


「まだ足が震えてるわ・・・そんなに長い間動いた訳じゃないのに」


「俺も手が震えるぜ・・・見ろよ」


そう言ってコップを持つビリーを見ると、表面に細かい波紋が立っていた。手が震えて静止出来ないのだ。


「僕も腕が上がりません・・・」


自分の目の前に手を差し出したアルトも小刻みに手が震えている。


「そりゃアレだ、普段使わない場所を使ったせいだな。だろ、ユウ?」


それを見たベロウが悠に相槌を求めた。


「ああ、それと鍛え方が足りん。明日は筋肉痛が出るかもしれんな」


その答えに3人はどんよりとした雰囲気で項垂れた。


「鍛えていればそのうち出なくなるだろう。今日は良く体を解して寝る事だ・・・な」


3人にそう言った時、不意に悠は感覚に引っ掛かる物を感じた。ざらつく様なその感覚は敵意、あるいは害意とでも表現すればいいだろうか。それは明らかに自分達に向かって放たれていた。


視線を動かす様な真似はせず、方向だけを確認して悠は卓上にあるフォークを手に取った。


「ユウ?」


ベロウだけが悠の微かな異変に気付いて声を掛けたが、悠は目線でそれを制した。それを見たベロウもある程度の事情を察し、不自然でない動作で立てかけた剣に手を近づけた。


その直後、厨房から悠達の注文を持った店員が近づいて来たが、その店員の前に一人の男が急に横切り、店員と衝突しそうになった。


「きゃ!!」


「おっと、すまねぇな」


男はお盆を受け止める様にして店員との衝突を受け止めると、お盆の上のずれた食事を直して謝った。


「こぼさなくてなによりだ。美味そうだな」


「もう、気を付けて下さいよ! 食べたかったら注文して下さいねっ」


店員と男はそんなやり取りをして別れ、店員は再び悠達に料理を運ぶ為に近づいて来た。


(レイラ、今から来る食事を調べてくれ。それと、『竜ノトゥルーサイト』を起動してくれ)


(・・・分かったわ)


悠はレイラと『心通話テレパシー』で密かに会話し、その直後、悠の目に周囲の人間のカルマが見え始めた。


「お待ちどうさまっ、日替わり定食5つだよ!」


悠は店員をちらりと見て、それから運ばれてきた定食を並べている店員の影から先ほどの男の足元を確認し、食事に手を付けようとしたベロウ以外の3人に向かって言った。


「皆、食うな」


悠の言葉にベロウ以外の全員――運んで来た店員も含めて――がキョトンとなった。せっかく運んで来た料理を食うなと言われれば、それは皆不審がるのも仕方がない。店員も料理にケチを付けられたのかと憤慨して悠に詰問しようとした。その時、


《毒よ、ユウ!》


レイラの言葉が言い終わらない内に悠の手が霞み、飛燕の速度でフォークが一直線に立ち去ろうとしていた男の膝の後ろから突き刺さった。


「うぎゃぁぁぁあっ!!!」


それに遅れる事一瞬、ベロウが剣を抜いて男に駆け寄り、倒れた男の背中を踏み付けて剣を首筋に突きつけた。


「おっと、妙な真似はするなよ? 俺達に毒を盛ろうなんて、中々手の込んだ事してくれるじゃねぇか。ん?」


脂汗を流しながら男はキョロキョロと視線を彷徨わせながら必死に弁明した。


「ぐっ・・・な、何の事だよ? お、俺は何も・・・」


「そうか・・・どうする、ユウ?」


ベロウが男を踏み付けながら首を巡らすと、いつの間にか悠も男の側に来ていた。そして、その手には男が触れた定食の一皿がある。


「お前は毒など盛っていないと言うのだな?」


悠は静かな威圧感を込めて男に問い掛けた。男は気圧されながらも弁明を繰り返した。


「あ、当たり前だ!! こんな事しやがって、ぎ、ギルド長に訴えてやる!!」


悠は感情のこもらない目でそれを一瞥すると、ベロウに向き直って耳打ちし、ベロウはそれに従って剣を納めてテーブルへと戻っていった。


周囲の冒険者達は悠が男に無理な難癖を付け、それを悠が認めたのかと思ったが、次の瞬間悠は男の脇腹を蹴って仰向けにすると、胸の上に足を乗せ、男の顔を手で鷲掴みにした。


「な、何をっ!!」


「ならば貴様が食ってみろ。毒など入っていないのだろう?」


その言葉に男の目に明らかな怯えが混じった。悠はゆっくりと皿を男の口に近づけていくが、男は口を引き結んで開こうとしなかった。


「食えないのか? ならば俺が食わせてやろう」


悠がそう言った瞬間、男を掴む悠の手からビキッと言う音が聞こえたかと思うと、男の顎がダランと垂れ下がり、大きく口が開いた。――悠が男の顎の連結部を握り潰したのだ。


「ふぁがぁぁぁぁぁああああっ!!!!」


その男の絶叫に周囲の冒険者や職員も止める事が出来ずに思わず一歩後退した。荒事に慣れているこの世界の住人ですらこの様な所業を行えば何らかの感情は見せるものであるが、それが一切感じられない悠に皆恐れをなしたのだ。


そして悠は男の開いた口に上から皿の中身を流し込む。男はそれを何とか拒もうとしたが、壊れた顎は既に機能せずに男に激痛を伝えてくるだけだった。


一通り料理を流し込むと、悠は男の口のを強引に閉じて胸の上にあった足を今度は口の上にピタリと当てた。


「俺がこのまま足を下ろせばお前はその料理を余さず飲み込む事になる。ああ、ついでだが歯も全部折れるな。・・・どうする?」


あくまで静かに問い掛ける悠に、男は恐怖で失禁し涙を流しながら誤魔化すのは無理だと諦めて手を悠に向けて振った。これ以上シラを切る事は不可能だった。早くしないと何かの拍子でこの毒を飲み込んでしまう。


「今盛った毒を出せ。そうすれば足をどけてやろう」


悠の言葉に男は素早く懐から何かの小瓶を取り出し、床に転がした。小瓶の中には薄緑色の液体が少量残っているようだ。


「エリー」


悠の拷問に硬直していたエリーはその言葉にビクンと一つ震え、それでも何とか言葉を紡いだ。


「な、なんで、すか、ゆ、ユウさん」


「その小瓶を拾ってくれ。こいつに料理に毒を盛られた。その証拠だ」


それを聞いたエリーは人間としての恐怖心とギルド職員としての矜持の間でしばし揺れていたが、やがて後者が勝った様で、恐る恐る近づいてその小瓶を拾い上げた。


「これは・・・恐らくキラーフロッグの毒ですね。人間が経口で摂取したら半日で死に至ります」


エリーの言葉を聞いた冒険者達がざわつき始めた。キラーフロッグの毒は毎年多数の冒険者を死傷させる事で有名で、舌で突き刺してその毒を体内に送り込んでくる。毒を送り込まれた生物はまず麻痺症状を起こし動く事が出来なくなり、やがて脳や呼吸系が侵されて死に至る。


「さて、約束だな、足はどけてやろう」


悠は約束通り男の口の上から足をどけた。・・・そして男をギルドの入り口へと蹴り飛ばした。


「おべッ!!!!」


男は軽く放物線を描いてギルドの外の地面に叩き付けられた。その口からは先ほどの料理の他に男の胃の内容物や胃液、そして血などが混じり合った吐瀉物が溢れている。


「ギルド長との約束でな、『ギルド内』では揉め事を起こされては困るそうだ」


外に叩き出せばいいという物ではないんじゃないかと周囲の人間は皆思ったが、結局誰も悠にそんな突っ込みを入れる事は出来なかったのだった。

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