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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-26 修練と成長7

それから15分ほど打ち合って悠とベロウは手を止めた。


「前よりもレベルアップしたな、バロー」


「前よりもハッキリ力の差を感じてるぜ、ユウ」


そう言ってベロウは剣を鞘に収めた。息は荒いが動けない程ではない。


何より、ベロウ自身が自分の成長を感じ取っていた。ある時から壁にぶつかって既に限界だと思っていた自分の技量が、徐々に上がっているのが感じられたのだ。それは、少々の疲労を吹き飛ばすほどの快感を伴っていた。


きっと、昔はこの感覚を知っていたはずなのだ。どこまでも上に行ける様な、どこまでも強くなれる様な、そんな感覚を。


(俺はいつから腐っちまったんだろうな・・・昔は剣を振るうだけでも楽しかったっけか・・・)


多分、召喚者の事を知ってからだった様に思う。異世界からやって来て、自分よりずっと才能に恵まれている子供達を見ている内に、努力する事に意義を見出せなくなったのだ。


それでも毎日ある程度剣を振っていたのは未練だったのかもしれない。あるいは夢の残滓か――


(今なら・・・まだギリギリ間に合うかもしれねぇ・・・。コイツが、ユウが居れば、きっと)


幼い頃に見た夢。いつの間にか諦めていた夢。恥ずかしく、子供じみた夢を、大人になったベロウは自ら砕いて捨て去った。


そう、このアーヴェルカインに、ベロウ・ノワールの剣名を轟かせるという夢だ。


それでもベロウは砕け散ったその夢の欠片をありったけ集めて、心の中で握り締めた。もう決して離さない様に。


「バロー、どうした?」


いつの間にかぼんやりしていたベロウに悠が声を掛けた。その口調も声も最初は恐怖しか感じなかったが、今では頼もしさを感じている自分がベロウは可笑しくなって笑った。


「ハハッ! なんでもねぇよ!」


今は憎まれ口しか叩けないが、いつかちゃんと悠に礼を言おう。


ベロウは人知れずそんな決意を自らに誓ったのだった。








「さて、後半に・・・と言いたい所だが、これ以上は無理だな」


「「「す、すいません・・・」」」


ベロウとの手合わせを終えた悠は3人の状態を確認したが、前半で体力を使い切ったらしく、まだ足に力が入らない様子に後半の指導を断念した。特にアルトは休ませないと午後から街を回る事は出来ないだろう。


「今日教えた事は各自でもやる様に。大切なのはイメージする事だ。適当に体を動かすな。何をやりたいのか、何をやるべきなのかを考えて稽古をしろ。それとアルト」


「は、はい!」


アルトは座ったまま背筋を伸ばして返事をした。


「お前のやっている突きを極めるとこうなる。一発目はゆっくり打つ。2度目は単発、3度目からは連発だ。見ていろ」


悠はアルトのイメージを補完し、自らの姿を手本にさせる為に拳を目線に構えた。


そして最初はゆっくりと正しい動作で拳を前方に打ち込む。力の弛緩から緊張までの動作も良く分かるように。


次はそれらの動作を高速で行う。過程と結果を見せる事で最終形のイメージを植えつけた。


(み、見えない!? この前のいつ打ったか分からない突きとは違うみたいだ・・・単に速くて見えないんだ)


アルトは前回の突きとジャブの違いを何となく察していた。前回の突きは力の流れを相手に読ませずにいつの間にか目の前にある様な感じだったが、今の突きはたとえ分かっていても避けようが無い速度で放たれている。


そもそもジャブは格闘技の打撃技では最速の技の一つだ。人間の反射神経を凌駕するその攻撃を見てから避ける事は普通の人間には出来ない。


最後に悠はジャブを連射した。悠の腕が伸ばされる地点の景色が霞んで見える事から、確かに拳が振られているのは間違い無い。空気を鋭く切り裂く風切り音も間断無く聞こえている。


しばらくジャブを連射してから、悠は拳を止めた。


「慣れればこの様な事も出来る。しかし今はまず一発、しっかりとした一撃を放てる様になれ」


「はいっ!」


アルトは早速目を閉じて今の悠の姿をイメージしている。


が、そんなアルトの腹が本人の意識と異なり、グゥゥと鳴った。


「あ・・・すすすすみません!!!」


アルトは真っ赤になって頭を下げたが、悠はそれを手で制した。


「いや、そろそろ昼にしよう。とりあえず皆、顔でも洗って来い。ここでも飯は食えるだろう」


「「「はい!!」」」


皆の顔がその言葉に綻んだ。ハードな指導で全員が既にかなりの空腹だったのだ。


5人は連れ立って訓練場の隅にある水場へと向かって行ったのだった。

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