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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-25 修練と成長6

「ではミリー、まずは構えてみろ」


「はいっ!」


悠に言われてミリーはダガーを構えた。2年間冒険者としてやって来たというだけあって、その構えは中々堂に入っていて、特に矯正すべき点は見当たらなかった。


「ミリー、短剣ダガーはどう使うのがいいと思う?」


「それは・・・リーチが短いし、攻撃力が低いので懐に入って急所を狙って攻撃します」


「半分正解だな」


そう言って悠は訓練用の刃引きのダガーを手にとって構えた。


「短剣の欠点はリーチが短い事、攻撃力が低い事だ。では利点は?」


「・・・軽いので扱いやすい事と速く攻撃出来る事・・・ですか?」


「それも半分正解だ。では実践してみよう。ミリー、俺に斬りかかって来い」


そう言われてミリーは一瞬躊躇した。ミリーが持っているのは自分のダガーであり、刃引きなどはしていない。しかし、悠なら当たらないと思い直して覚悟を決めて斬りかかった。


「はっ!」


キィンという金属音をさせて悠はその斬撃をダガーで受け流した。ミリーはそれに構わずに首、胸、手首、腹などの急所を狙うが、それは悉く悠のダガーに弾かれる。


「分かるか、ミリー。急所狙いをするという事は、狙いが相手に悟られ易いという事だ。そして短剣は目線が近くなる分、防御に向いている。ゆえに、短剣で攻撃するなら、まず相手に細かい傷をつける様にしろ。隙が出来やすくなる」


今度は悠がミリーに攻撃に転じた。悠の力量なら急所狙いでも十分可能な隙が見て取れたが、今は稽古なのでミリーに分かり易い様に末端から攻め立てる。


攻撃してきたミリーをかわしてその腕を軽くダガーで叩き、腕に気を取られた隙に更にすれ違いざまに足に斬り付ける。一度後手に回ったミリーは攻撃されている焦りから斬撃が大振りになり、それを掻い潜った悠が脇腹に浅く斬り付けた。側面に回った悠に急いでミリーが斬り付けようとした時には、既にその首には悠のダガーがピタリと当てられている。


「この様に、末端から斬り付けて相手の集中力を乱し、最終的に急所に一撃を加える。相手の攻撃を至近距離で受け流しながら相手の隙を探れ。その隙を補うように攻撃を加えるんだ」


「は、はい!」


ミリーは悠の技量に舌を巻いていた。自分も多少は腕に自信があったので褒められるかもしれないなと思っていたりもしたのだが、そんな自信は始まってすぐに霧散してしまった。


「相手の攻撃しやすい場所は、まず腕、足、そして的が大きい腹だ。目から遠い場所ほど基本的に防御は薄くなる。短剣で戦うなら逸るな。粘り強く戦うんだ」


言葉を放ちながらも悠の手は休まない。ミリーの隙を見つけては軽くダガーで叩き、斬り付けていく。


「逆に、自分の防御が薄い点もその場所だ。同種の間合いを持つ相手にはそれらの場所から意識を離すな。集中を切らすと急所の防御が薄くなる」


ミリーはもう返事をする余裕も無く悠の攻撃を捌いている。明らかに攻撃自体は手加減しているが、常にどこかに攻撃を食らい続けるのはミリーの精神を消耗させた。


そんな攻防を20分ほど続けると、いつしか呼吸は乱れ、大量の汗が額から噴き出してミリーの意識を朦朧とさせた。それを見た悠はこれ以上は詰め込み過ぎと見て、一端間合いを広げて指導を中断した。


「ミリー、今やった事を頭の中で反復しながら少し休め」


「い、いえ、私は、まだまだ・・・」


荒い呼吸を繰り返しながらミリーはそう言ったが、緊張の糸が切れたのか、言葉の途中でペタンと足からその場にへたり込んでしまった。


「あ・・・」


「人は一足飛びに強くはなれない。焦らず、技術を自分の物にしろ、いいな?」


「は、はい・・・」


そう言ってミリーは目を閉じ、呼吸を整えながら今の攻防をイメージしながら休んだ。


悠は今度は再びアルトに目を向けると、こちらも額に大粒の汗を滴らせてジャブの練習を繰り返している。飽き易い年頃の男子としては中々の集中力だ。


「アルト、疲労で腕が下がって来ているし、軌道もぶれ始めている。体をもう少しリラックスさせるんだ。余計な力を込めると疲れるぞ」


「は、はい・・・」


言われて初めて自分の腕が下がって来ている事に気付いたアルトは重く感じる腕を上げ、目線まで戻して再び緩いジャブを繰り出す。


2人の様子を見た悠は水分の補給をさせる為にギルド内の食事出来るスペースで水を水差しごと借り受け、コップを重ねて訓練場へと戻ると、丁度アルトが100回目のジャブを放ち終える所だった。


「お、終わった・・・」


そのままアルトもペタリとその場に崩れ落ち、腕をダラリと投げ出して肩で汗を拭った。


「どうだ、アルト。激しく動かなくても疲れるだろう?」


「あ、ユウ先生・・・はい、凄く、疲れました・・・」


苦笑いをするアルトに悠は水を渡し、同じ様にミリーにも水分補給をするように促した。


「あ、ありがとう、ございます」


「すいません、ユウ兄さん」


「水分はまめに補充しろよ。朦朧とした頭で指導を受けても効果が薄い」


2人は余程喉が渇いていたらしく、特に上質でも無い水をゴクゴクと美味そうに飲み干し、更にもう一杯所望して一息をついた。


「バロー、ビリーにも水をやってくれ」


「ん?そろそろいい時間か・・・オラ、ビリー、お前も休憩だ」


「は・・・・はひ」


しごかれたらしいビリーは息も絶え絶えに持っていた重り付きの剣を地面に置いて崩れ落ちた。


それを見た悠がベロウにビリーの様子を尋ねる。


「どうだ、ビリーは?」


「悪くないぜ、さすが2年も冒険者で食ってただけの事はある。だが、隙が多過ぎだな。力も足りねぇ。我流だから仕方ねぇが・・・ま、一月もあればマシになるだろうよ。俺も貰うぜ、ユウ」


ビリーに水を渡しながら聞いていた悠にベロウも水を所望してそう説明した。


「そうか。では、3人が回復するまでは俺がバローを鍛えよう」


「おっし、なんでも言ってくれ!」


コップを置いて剣を取ると、ベロウはやる気十分な顔で悠に告げた。


「お前も実践形式で言った方が理解が早いだろう。来い」


悠は先ほどの訓練で使ったダガーを拾い、左手に持ってバローと向き合った。


「行くぜ!」


先手必勝とばかりにベロウが悠に斬りかかる。まずはいつも通り攻撃してこちらの粗を指摘して貰おうという算段だった。


かなり力の乗った袈裟斬りを悠は短剣で力の方向を変える様に添えて流し、踏み込もうとしたが、ベロウも流された剣を今度は横薙ぎにして来たので悠はバックステップして距離を取った。朝に悠から聞いた力の出し入れがスムーズになり、前よりも隙が減っているからこそ間に合ったのだ。


「中々飲み込みが早いな。だが・・・」


悠は再度懐に飛び込んで行く。それをベロウは今度は片手持ちの逆袈裟で進路を塞ごうとしたが、手に力を入れる直前、悠の足が下から跳ね上がって来て、ベロウの剣の柄頭を蹴り上げた。


「うおっ!」


力が十分に篭っていない剣を蹴られてベロウの手から剣がすっぽ抜ける。


「片手で隙無く力加減出来るのはまだ先だな。力も抜けるし剣速も落ちる。両手持ちにするか、もう片方に盾でも持った方が隙が少ないぞ」


「やっぱりか・・・自分でもどうもまだぎこちないんだよな」


地面に転がった剣を拾いつつ、ベロウも苦笑を浮かべた。自分で分かるくらいの違和感をこの男が見逃すはずが無いと思ったのだ。


「ま、ノースハイア流は攻撃重視の剣術だ。当分は両手持ちで練習するさ」


「それがいいな。続けるぞ?」


そして再び始まった応酬を、地面に座る3人は羨望の眼差しで見ていた。


(すげぇ!何て剣速だ・・・離れて見てても見えないのがあるぜ・・・さすがバローのアニキ!)


(ユウ兄さん、あれを軽く捌けるなんて・・・まるで剣と一体化してるみたいにスムーズだわ・・・)


(は、速い!! そ、それに上手いや!! 僕もあんな風になれるのかな・・・?)


空のコップを握り締めたまま、3人はいつ終わるとも知れない剣舞にしばし魅入られたのだった。

短刀を短剣に表記を変えました。世界観的にこっちの方がしっくり来るかなと。

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