1-8 戦勝式典6
「それで、どうする?」
雪人は悠に振り返って尋ねた。
「行く」
簡潔極まりない悠の決断であった。ただ、周りの人間達は悠ならそう言うだろうと漠然と思っていた。
「一応言っておくが、俺は反対だぞ。不確定の要素が多すぎる。神だ? 異世界だ? それがどうした。お前の世界はここだし、お前はもう十分に働いた。それは神からの太鼓判付きだ。なにしろ、神様にしてくれるって言うんだからな、糞が」
雪人は決して悠を妬んでこのような事を言っているのではなかった。むしろ神の小間使いの如く働かされそうになっている親友が我慢ならなかったのだ。
「真田、貴様の今言った通りだ。不確定ではあっても嘘だと断言しなかった。という事はどこかで今も死にかけている子供達がいるかもしれん。なら、行くだけ行ってみて、後は自分で判断すれば良かろうよ。幸い、俺は軍を抜ける。時間だけはあるだろうからな」
悠の言葉に雪人は返答に詰まった。必要性の議論で悠は説得出来ない。この目の前の男は無愛想であっても冷血漢ではなく、無表情であっても無感動ではない。そして軍を抜ける事も宣言している。この男を止めるに足る理由は無かった。
「私は行けばいいと思うが」
匠は悠の決定に賛成した。師匠と弟子とでもいう間柄の二人は考え方も影響を与え合っている。
《ふむ、興味深いの。向こうへ行ったら是非どんな様子か聞きたいが、連絡は取れるのかのぅ》
匠の緑色の鎧の胸の宝玉が点滅して声を発している。匠の相棒の竜のプロテスタンスの声だ。
「自分は・・・分かりません。どうしたらいいのか」
対して真は賛成とも反対とも言えなかった。困っている人間がいるなら助けてあげたいとは思うが、違う世界に行ってまでとなるともう真の許容範囲を超えていた。
《おい、冗談ではないぞ! ユウとレイラにはまだ用が山ほどあるのだ! 国を出るのも神になるのも異世界へ行くのも断固却下だ!!》
ガドラスは絶対反対派だ。
「・・・・・・」
その間、志津香はずっと黙っていたが誰よりも悠を引き止めたいのもまた彼女だった。そしてあと一人、まだ言葉を発していない事に気付いた。
「レイラ様はどのようにお考えですか?」
そう、悠の相棒たるレイラである。悠が行くのなら当然レイラもそれに付いて行くだろう。その事を思うと心に小さな棘が刺さった。それは嫉妬という名の棘だ。
《ユウの在る場所が私の在る場所よ、勿論付いて行くわ。それにナナの言っている事は真実よ。まぁ、それだけじゃあないけど・・・一度情報を整理してここにいる皆にもう一度集まって欲しいわね。私が知っている事で補完出来る事もあるし、ナナナに聞いてみるのもいいんじゃないかしら》
相棒たるレイラもまた賛成のようだった。
「分かりました、では朱理が戻ってきて、この会場の人々が目を覚まして閉会して解散してとなると、もう今日は時間も取れないでしょう。明日は戦没者の国葬ですし、明後日にもう一度集まりましょう。名目は私が考えておきますので、皆様もそのつもりでいてください」
「「「ハッ!」」」
悠、雪人、匠、真は了解の意を込めて志津香に敬礼を返した。
匠はタウラス(牡牛座)です。相棒の竜はプロテスタンス。お爺ちゃん口調。でもレイラより年下です。
レイラさん口調若いけど実はバb(略)