3-19 餓狼の足音
「クソ、クソ、クソッ!!!」
『黒狼』の副頭領の一人であるガーランは機嫌がすこぶる悪かった。長い時間を掛けた計画の失敗、ギルドでのいざこざ、そして『黒狼』事実上の崩壊。どれもこれもがガーランの心をささくれさせた。
「兄貴、いい加減落ち着けよ。残った俺達でどうにかやって行くしか無いんだ。ほとぼりが冷めるまで、どこかに潜伏するしかないぜ」
「そんな事は分かってんだよ!!だが、あのユウとか言う野郎はどうしても許せねぇ!!アイツのせいで計画は潰されちまったし、兄貴も捕まった!!絶対に俺の手で殺してやらなけりゃ気が済まねえ!!!」
末弟であるタムランが宥めるが、大した効果も上げずにガーランの怒りは燃え盛っていた。そしてその恨みは全てユウへと向けられていたのだ。
今『黒狼』は残ったメンバーで予め決めていた地点で合流し、ミーノスから北の方へと逃れている。ノースハイアの国境を越えるのは厳しいだろうが、逆に言えば情勢が荒れているせいで、細やかな目が行き届かないのもその方面である。その為の北への逃避行だった。
勿論、街道など通る事は出来ないので、森林地帯を抜けていく遠回りな道行きだ。
「とにかく、今は逃げる事に専念しようぜ。しばらくは少しずつ北に向かいながら森に潜伏しよう。そのうち警備の目も荒くなるはずだ」
タムランはその様に予測していたが、これは少々国とギルドを甘く見過ぎている。特に冒険者ギルドは今回の件を自分達で始末しなければ国に対して顔向け出来ない事もあって、現在は冒険者達に普段の倍の報酬を約束してその捜索に当たっていた。副頭領たるガーランとタムランの首にはそれぞれ金貨20枚、所属するメンバーには一人当たり金貨2枚もの報酬が約束されている。しかも捕縛を望まれているのはガーランとタムランのみで、他のメンバーは生死問わず(デッドオアアライブ)である。
更に、有益な情報に対しても報酬を用意するとあり、たとえ力の無い冒険者であっても普段よりも割りのいい報酬にあり付ける可能性から、大量の人員が今回の捜索に割り振られていた。
「殺す・・・殺す・・・」
怒りに染まるガーランには何も見えていない。タムランはまだ冷静だったが、この様な判断を下すにはまだ経験が足りなかった。
――飢えた狼達のずっと先に、一つの屋敷がある事をこの時はまだ誰も知らない。