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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-15 フェルゼニアス邸へ4

「これは若様、夜分失礼しております」


アルトの挨拶にすぐさまベロウが如才ない返事を返した。


「昼間はありがとうございました。皆さんのおかげでこうして五体満足でいられました」


「アルト、お前も座りなさい。早速食事を始めるとしよう」


その言葉にアルトが食卓につくと、料理が並べ始められた。


「私は色々な人間の話を聞くのが好きでしてね、あまり肩の凝らない料理を作る料理人も確保しているのですよ。ささ、まずは乾杯といきましょう」


メイド達が皆に葡萄酒を注いで回ると、ローランはグラスを掲げて音頭をとった。


「では、良き出会いに、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


ローランに倣って皆が唱和し、和やかな雰囲気の中で夕食は始まったのだった。







「いやぁ、これは美味い。アライアット産とお見受けしましたが?」


「確かな舌をお持ちのようですね。最近は戦争の影響で品薄になっていて中々手に入らないんですが、これは来客用に伝手を頼って手に入れました」


ベロウは嗜好品にも造詣が深く、軽妙な会話で場を賑わわせており、ローランもホストとして料理の説明や世間話で場を上手く盛り上げている。


「実は今妻が身重でね。今回の旅はその様子見が目的だったんだよ」


「それはおめでとうございます!尚更無事で良かったですね」


「ええ、私達に何かあったとなれば、妻の体にも障りますからね」


久々の子供という事で、大事を取って実家の方に帰らせている妻を見舞いに行った2人だったが、その最後にまさかこの様な陰謀を仕掛けられているとは思わなかったので、今回の事はまさに九死に一生を得たと言って過言ではなかったのだ。


「私も多少は剣を嗜んでいますが、今回の事でやはりある程度の自衛は出来た方がいいと思いましたよ」


「生兵法は危険ですが、確かにこのご時勢、多少の心得は必要でしょうね」


「そこで提案があるのですが・・・」


そう言って会話の流れを作ってローランはベロウに切り出してきた。


「皆さん、ウチの専属になりませんか?お給料もそれなりに払わせて頂きますが・・・」


「私達ごときに大変ありがたい話ではございますが、私達にも少々事情がございまして、あまり長期の依頼は受けかねるのですよ。申し訳ございません」


ベロウもいくら積まれてもこの話を受ける事が出来ない事は承知していたので、角が立たない様にやんわりとローランの提案を断った。


「ビリーとミリーもかい?」


「は、はい、申し訳ありませんが、私達も今回の事で自分達の未熟さを思い知りました。しばらくは身の丈に合った仕事をこなし、アニキ達――ユウさんとバローさんにご指導を願うつもりです」


「ほう、それはちょうどいいかもしれないな・・・」


その返答を聞いて、ローランは何事かを閃いたといった感じで本題を切り出した。


「実はウチのアルトに剣を教える人間を探していてね?私では少々役者不足だし、かといって信頼出来る冒険者は少ない。もし良かったら、時間のある時にアルトに稽古をつけてやっては貰えないだろうか?」


「お、お願いします!!」


先ほどの件を断った手前、2人に揃って頼まれては交渉上手のベロウとしても断るのは苦しい。ローランはそれを見越して先に通りにくい要求を出して来たのだろう。この辺の交渉術は流石に公爵であるだけの事はある。


「どうだ、ユウ?」


決断は悠に任せる事にして、ベロウは話を悠に振った。


「5日に一度程度なら可能でしょう。この2人も一緒に教えますので、それでもよろしければ。それと、依頼で街を離れる事もあるかと思います。その時は事前に伝えれば休ませて貰えますか?」


悠は懸念となりそうな事を全て伝えて返答を待った。


「分かりました。あくまで2人は冒険者ですからね。指名依頼という事でギルドを通しておきます。ただ、送り迎えはお願い出来ますか?あの様な事があった手前、腕の立つ人間を付けたいのですが、生憎お2人より腕の立つ者は今は当家には居ないのです」


「了解致しました。では早速明日から指導を始めますが、構いませんかな?」


「ええ、お願いします。アルト、しっかり学んで来なさい。習っている間はお2人は先生だ。礼を欠いてはならんぞ?」


悠とローランの間で合意が成ると、ローランはアルトにそう心得させた。その辺りをしっかりしておかなければ、上達は見込めないだろうと思っての事だ。


「はい、先生方、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」


とても10歳とは思えない知性を感じさせるアルトにローランも目を細めている。自慢の息子なのだろう。


「今は結構ですよ、若様。公的な場ではあくまで我等はただの冒険者ですからね」


「明日は何時頃迎えに参りますか?」


頷くアルトに悠が時間を尋ねた。


「ええと、朝の9時からでいいですか?」


壁に掛けてある時計を見ながらアルトは答えた。時計は高級品で、殆どの民衆は中央広場にある大時計か、鐘によって大体の時間を把握している。朝6時の朝の鐘、昼12時の昼の鐘、夜6時の夜の鐘が街を動かし、そして休ませる号令であった。


「畏まりました、では明日の朝9時に迎えに参ります」


「ああ、待って下さい、ユウさん。今晩は予定が無いのなら皆さんには当家に宿泊して貰おうと思っているのです。迎えに来る手間も省けますし、是非そうしていってくれませんかね?」


「ご迷惑ではないでしょうか?」


「とんでもありませんよ。その方が時間を気にせず語り合えるというものです」


「ではお言葉に甘えさせて頂きます」


その様な流れで、悠達4人はフェルゼニアス邸を一夜の宿とする事になったのだった。

ローランはビリー達は旅で一緒だったので呼び捨て、悠達は敬意を表してさん付けです。


また、アルトは貴族として英才教育を受けていますので、言葉遣いも年の割りにしっかりしてます。

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