3-13 フェルゼニアス邸へ2
「そういや聞いたかよ?お前らが襲われた盗賊共、実は冒険者だったって話じゃねぇか。お前らは疑われなかったか?」
「それを思い出させないでくれ・・・」
「全く、今思い出しても腹の立つ奴等だったわ!!」
ベロウが警備に連れて行った盗賊の事に話を振ると、ビリーとミリーは苦い顔をして答えた。
「俺達はこの街に来てまだ間もないんだよ。今回の仕事もギルド経由じゃ無く、酒場でメシを食ってる時に勧誘されて受けたんだ」
「連中、ギルドを通して冒険者を雇うと盗賊が『黒狼』だってばれるから、私達みたいな人脈に薄い人間を探してたみたい。公爵家の執事の一人が糸を引いていたみたいね。もうしょっぴかれたらしいわよ」
ギルドで護衛の冒険者を募るはずの執事は『黒狼』へ話を持っていって、護衛にも息の掛かった連中を用意し、何も知らない人間も混ぜて襲撃をリアルに演出したのだ。
「おかげで私達も散々疑われたわ。警備の奴等、絶対私達もグルだったって言い張って・・・次に会ったら股間を潰してやるんだから・・・」
恐ろしい事を呟くミリーにベロウは思わず樹里亜を思い出して腰が引けたが、幸いにも気付かれはしなかった。
「実はアリバイ工作にギルドに残していた『黒鼠』の連中と俺たちも少々険悪になってな、ギルド長が仲裁して事無きを得たが、あれが無ければ少なくとも街に居た連中は全員確保出来たかもしれん」
「『黒鼠』?・・・ああ、『黒狼』の事か。そうらしいな。警備の連中にも被害が出たらしい。でも気に病む事は無いぜ?あいつらがのんびり俺達を疑ってるから遅れたんだからな」
「そうよ、いい気味だわ!!」
悠の言葉を聞いても警備の者達への嫌悪感の方が強いらしく、悠もベロウも特に文句は言われなかった。
「明日にでも討伐隊が結成されるらしいが、2人は参加するのか?」
悠がビリーとミリーに聞くと、即座に2人は頷いた。
「ああ、あいつ等には貸しがあるからな。落とし前は付けさせて貰おうと思っている」
「当然でしょ、コケにされたままなんて我慢出来ないわ!」
「俺達は当然として、ユウ、バロー、アンタ等は参加しないのか?」
逆に今度はビリーがそう悠に尋ねてきた。
「時間があれば参加したいが、あいにく俺たちは3日後には行かなければならない場所があってな。奴等の居場所が分かっているのならともかく、現状ではまず捜索からだろう。まずは簡単な依頼を受けてみて冒険者に慣れる事と、金を定期的に稼げる様にしておきたいと思っている」
「そうか・・・でも金に困っている様には見えないが・・・それ、『冒険鞄』だろ?それに、いつの間にかバローの装備も揃ってるしな」
ビリーがそういうのも無理は無い。ビリー達も今まさに『冒険鞄』を買う為に貯金中なのだ。それでもⅣ(フォース)に成り立てのビリー達では中々厳しいものがあった。装備にしてもそうで、ランクが高くなればそれに見合う武器や防具が必要になる。特に、兄妹だけの2人にとって、兄のビリーの盾としての役割は重要で、手を抜く訳にはいかなかった。
「だからこそさ。ユウは格闘主体だから防具だけでいいって言ってるんだが、俺はそこまで思い切れねえし、防具はどうしても必要だった。『冒険鞄』があればガキ共にも服やメシを・・・あ、いけね」
バローがつい言ってしまったといった感じで口を噤んだ。
「ガキ共って・・・アンタ等、子持ちなのか?」
その言葉にベロウは首を振った。
「俺もユウもまだ独り身さ。実は・・・これは他言無用だぜ?」
そう言ってベロウは顔の前に人差し指を立てた。
「俺とユウはある孤児院を持っててな。そこには10人近くのガキ共が俺達を待ってるんだ。俺とユウは定期的にそこに行ってメシや服なんかを持っていってやらねえといけねぇんだ。そこの前の園長にちょっと世話になったんだが、この前死んじまってな・・・惜しい人を亡くしたが、俺達は死後に孤児院を託されたんだ。死に際の園長に「子供達をどうか頼む」と言われてほっておいちゃあ男が廃るってんで、俺達は冒険者としてそいつらを養おうと思ってんだ。・・・へっ、こんな事を言うのはこっ恥ずかしいがな、可愛いもんだぜ、子供ってのはよ」
とんでもない嘘だが、ベロウは抑揚の効いた弁舌と演技でそれを演じきった。悠も若干呆れ気味にベロウを見ているが、異世界がどうのといった話はしていないので、とりあえず黙っていた。
ふと、急に静かになったビリーとミリーを見ると、何故か2人共涙を流してベロウの話に聞き入っていた。これにはベロウも話を盛り過ぎたかと不安になったが、どうやら2人は単に話しに感動して泣いているのでは無いようだ。
「す、すげえよアンタ等!!お、俺とミリーも孤児院の出身なんだ・・・俺達の居た孤児院は、そりゃあ酷い所だったぜ・・・」
「ご飯は一日1回か2回。量も少なくて、い、いつもお腹を空かせていたわ・・・ぐす・・・服だって、上の子のお下がりでボロボロの物ばかりだったし・・・先生は気に食わないとぶつし・・・冬を越せない子も何人も見てきたの」
「俺達は兄妹で孤児院の前に捨てられてたんだ・・・それからずっと、自分達だけを頼りにして、身を寄せ合って生きてきたんだよ・・・いつか、俺達みたいな子供を集めて、ちゃんとした孤児院を作りたいと思ってたんだ・・・」
予想以上に重い話が帰って来て、ベロウは内心でたじろいていたが、表情にはなんとか出さずに二人に答えた。
「お、おう!うちのガキ共もお前等みたいにしっかり生きていける様になるといいなと思うぜ!立派に冒険者やってるじゃねぇか!!」
「俺達なんてアニキ達に比べたらまだまださ!!」
突然のアニキ発言にベロウは冷や汗をかいていた。
「あ、アニキ?」
「是非そう呼ばせて欲しいんだ!俺達も今まで色んな人間を見て来たけど、アニキ達みたいな冒険者には初めて会ったんだよ!」
「私も2人を誤解してたわ。てっきり、男2人が家も持たずにフラフラしていたのかと・・・すいませんでした、バロー兄さん、ユウ兄さん」
ベロウが2人に見えない様に悠に視線を送って来た。フォローの要請の様だ。
ベロウの事だけなら悠もほっておくつもりだったが、自分も関係しているとなればそういう訳にもいかなかったので、仕方なくフォローする事にした。
「俺達もそんな大層な人間じゃない。自分の出来る事を出来る範囲でやるだけだ。そんな事は気にしなくてもいいぞ」
「そう言える人間がこの世にどれだけ居る事か!やっぱりアニキと呼ばせて貰います!」
「お願いします、ユウ兄さん!」
「・・・・・・・・・分かった、それで気が済むなら、好きに呼んだらいい」
2人の目を見て、命令でもしなければ撤回させるのは無理だと判断した悠は、しばし沈黙してそれを許したのだった。
それを聞いてはしゃぐ2人に聞こえない様に、悠はベロウに言った。
「話を盛るのもほどほどにしろ。余計な苦労を作ってどうする?」
「・・・面目ねぇ、これからは気を付けるぜ・・・」
少し反省したベロウだった。
弟分と妹分が出来ました。
ベロウは調子に乗るタイプなので、たまにこんな失敗もします。