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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-5 最初の一歩5

「ツイてねぇ・・・何だってこんな事に・・・」


悠とベロウは人相の悪い冒険者達に取り囲まれていた。冒険者の一人がカウンターへ向かおうとした悠に足を引っかけようとしたのがその切っ掛けである。


悠はその男をチラリと見て、その足を避けてカウンターへ向かおうとしたが、今度は別の方向からまた足が悠の進行方向を塞いでいた。テーブルを囲む男達は皆ニヤニヤとしていて、見知らぬ新人を甚振って金を巻き上げようという意図が透けて見えていた。


ベロウが面倒だがここは穏便に済ませようかとした所で悠が歩き出した。・・・足があるにも関わらずに。


「があッ!?」


悠は男の足を『踏み潰して』カウンターを目指した。龍鉄の靴は枝を踏み折る様な音を足の下から立てていたが、悠の表情には何の変化も無いので遠目には何も無かったかの様だが、足首を粉砕された男は椅子から転げ落ちて悶絶して悲鳴を上げている。


「長くも無い足を伸ばしていると危ないぞ。・・・もっと短くなるハメになる」


その悠の捨て台詞にテーブルを囲んでいた男達が殺気立って立ち上がった。


「て、テメェ・・・うちのパーティのモンにエライ真似しくさりやがって!!」


そう言って周囲のテーブルからも冒険者が立ち上がる気配がし始める。その数は20人にも届きそうだ。


そんな経緯で冒頭のベロウの嘆きに戻るのだった。








「新参者がこの『黒狼こくろう』に盾突くとはいい度胸してるじゃねぇか。表に出やがれ!!自分の馬鹿さ加減をその身体に教えてやるぜ!!!」


「断る。俺は貴様らの様な、昼から酒を飲んでいる様な暇人では無いのでな。穴倉に引っこんで寝ているだけなら『黒狼』などという大層な名前で無く、いっそ『黒鼠クロネズミ』とでも改名したらどうだ。貴様らには似合いの名だろう」


悠は挑発しているつもりも無いが、雪人との会話で鍛えられた毒舌が意図せずともスルスルと口から流れ出していた。・・・チラリと見た時点で、ギルド内に居る人間の8割が赤いオーラなのは既に確認済みで、特に今絡んで来ている『黒狼』はメンバー全員がかなり濃い赤だった。


「こ、こ、こ、この野郎!!ブッ殺されてぇのか!!!」


「副頭領、殺っちゃいましょうよ!!」


「ああ、コイツは許せねえ!!おい、テメェ死んだぞコラ!!」


悠の毒舌は『黒狼』のメンバーを激怒させて余りある程の効果を上げていた。この近辺ではかなりの力を持つ『黒狼』に逆らえる人間はそんなに多く無い。一定期間冒険者をやって来た、ガラの悪い人間の集まったのが『黒狼』であり、その構成員は50人を超える。個人では抗い難い勢力と言えるだろう。


しかし、国にすら反旗を翻して一顧だにしない悠が、例え『黒狼』がフルメンバーで恫喝して来たとしても恐れ入って態度を変えるはずも無い。


「鼠のくせに吠えるとは器用な真似をする。いっそ街で大道芸人にでもなったらどうだ?まぁ、全員が道化では客も興醒めだろうがな」


悠の毒舌はますます男達の怒りに油を注ぎ、既に周囲の殺気は戦場のそれに等しくなっていた。男達の中には既に武器に手を掛けている者も数名居て、これ以上何かあれば即座に殺し合いが始まりそうだ。


そこに水を差したのは、カウンターに座る職員だった。


「止めて下さい!ギルド内での殺し合いはご法度です!!」


その声に悠がそちらを向くと、周りの受付嬢に止められながらも立ち上がって『黒狼』と悠を制止する少女が居た。恐らくまだ入って間もない受付嬢なのだろう。スレた所を感じない、濁りの無い目をしているのが悠の印象に残った。


「おいおい、エリーちゃんよ。邪魔だから他の奴と同じ様に引っこんでな!!ここまで嘗めた野郎をほっておくと『黒狼』の看板にキズが付くんだよ!!」


「既に傷だらけの看板に今更もう一つ付いた所で誰も気付かんだろうが。馬鹿め」


「つ、つくづく人を嘗めやがる!!!」


副頭領と呼ばれた男が遂に武器を抜こうとした瞬間悠は後ろを振り返った。




「そこまでにしておけよ、ガーラン。そいつを抜いたらお前を斬らないといけなくなる」




悠の視線の先の入り口には、いつの間にか一人の眼帯をした隻眼の男が口元だけに軽い笑みを浮かべて立っていて、右手は武器の上に乗っている。つまり、いつでも抜けるという合図だ。


「コロッサス、ギルド長・・・か、帰ってたのかよ」


「そういう事だ。ここは酒場じゃねえ。冒険者なら冒険者らしく、依頼の一つもこなすんだな。これ以上ギルドへの貢献が薄いようだと、俺にも考えがあるぜ?」


「くっ・・・チッ!おいお前ら、行くぞ!!・・・それと、テメェは必ず俺達が殺す。覚えておけよ・・・」


そう言ってガーランと呼ばれた副頭領の男は最後に悠に捨て台詞を吐き、身を翻したが、その背に悠が毒を吐いた。


「悪いが鼠の顔などどれも同じ様にしか見えんからとてもじゃないが覚えてはおれんな。貴様が覚えておくがいい。もっとも、鼠にそれだけの知能があるとは思えんが」


一瞬、ギルド長のコロッサスが居る事も忘れて悠に斬りかかろうとしたガーランだったが、コロッサスがキンと鯉口を切った音を聞いて我に返り、なけなしの精神力を体中から掻き集めて入口へと歩いて行った。


そしてコロッサスと目も合わせずに、ガーランと男達はぞろぞろとギルドから出て行った。


「おいおいおいおいユウ!!何だってお前さんはそう喧嘩腰なんだよ!!もうちょっと、こう、上手く出来ねぇのか!?」


「屑に下げる頭も謝る言葉も持ち合わせてはおらんのでな・・・それにしても、あの程度で冷静さを失っている様では大した事も無いな。雪人ならどこまでも減らず口で応戦してくるものを」


妙な所で郷愁の念を感じる悠に、ベロウは大きく溜息を付いた。


「ユウといると退屈とは無縁だな。・・・命の安全とも無縁だがよ」


「張りのある人生になって良かったな」


皮肉も通じず、ベロウはがくりと肩を落とした。


「おい、お前らは何者だ?この辺じゃ見ない顔だが・・・」


下らないやり取りをしている2人に入口から歩いて来たコロッサスが声を掛けて来た。


「あ、ああ、ここのギルド長で?俺達は冒険者登録に来た新参者でさぁ。俺はバロー、こっちの涼しい顔をしてやがるのがユウでして」


「バローにユウか。俺が帰って来た所だったから良かったものの、そうじゃ無かったらギルドの掃除が大変だった所だ。出来ればこんな揉め事はこれっきりにして欲しいもんだな」


「気を付けよう。俺から喧嘩を売る事は無い」


「・・・ったく、売られたら買わないつもりも無いって顔に書いてあるぜ?せめて外でやれ。ギルドで仕事がしたいんならな」


「ああ、悪かったな。次はそうする」


やはり諍いを止めるとは言わない悠にベロウとコロッサスは2人揃って溜息をついた。








「登録がしたいんだろ?今なら空いてるから、さっさと行ってきな。戦闘力の試験官は俺がやってやる」


その言葉に周りで見ていた野次馬達がざわめき出した。


「お、おい、あいつ等の相手をギルド長がするらしいぞ?」


「マジかよ!?俺、まだギルド長が戦ってるの見た事無いんだよ!凄え強いんだろ?」


「当たり前じゃねぇか!!『隻眼サイクロップス』のコロッサスって言えば、Ⅸ(ナインス)の冒険者だったんだぞ!!この国の騎士団長より強いぜ!!」


その言葉にベロウはギルド長の正体に気付いた様だった。


「あ、アンタがあの『隻眼』か!」


「知っているのかバロー?」


「知っているも何も、『隻眼』と言えば現役の頃は並ぶ者の居ない剣技の使い手として超有名だったんだぞ!!この前挙げた人間の強い奴5人の中でもトップクラスだ。現役じゃ無いから外したけどな・・・まさか、ミーノスの冒険者ギルドのギルド長になってたとは・・・」


ベロウの目は憧れの人物に出会った人間のそれになっていた。同じ剣士として『隻眼』の伝説には小さい時に胸を熱くしたものだったのだ。


「昔の話だ。今じゃそこまでの剣の冴えはねぇよ。じゃ、さっさと済ませて来るんだな。・・・エリー!こいつらの登録を見てやってくれ!」


「は、はいぃぃい!!」


そう言ってコロッサスは奥へと歩み去っていった。

毒舌が書いてて一番楽しいかもしれません。


新キャラも続々登場しています。

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