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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第三章 異世界躍動編
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3-4 最初の一歩4

それからミーノスまでは順調に進む事が出来た。ほんの5キロくらいの道のりであったので、警戒しながら進んでも30分ほどでミーノスの街に一行は到着した。


しかし、護衛の馬車の中はそんな軽いムードでは無かった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


今ビリーが御者をしていて、ベロウが外を馬に乗って警戒しているので、護衛の馬車の中は悠とミリーしか居ない。そしてこの30分、ミリーと悠は一言も口を聞いていなかった。


悠が最初に「道中よろしく頼む」とミリーに声を掛けたのだが、ミリーはまだ悠へのわだかまりが解けておらず、一瞥して顔を逸らし、無言を貫いた。


それで少しは気まずい思いでもすればいいという、悠に対する当てつけだったのだが、当の悠はそんな程度の事を気にする様な柔な精神をしておらず、ごく自然に無口のまま馬車に身を任せているだけだった。


今ではむしろミリーの方がどうやって口を開けばいいのか分からずに、目の前の涼しい顔をした男に対して苛立たしげな視線を放っていた。こうなったら意地でも自分から話しかけてやるもんかと思いながら。


「おーい、着いたぞ・・・って、なんだよ、まだ意地張ってたのか、ミリー」


「着いたか。俺達はこのまま馬車に乗っていていいのか?」


そんなミリーの意地など気にした風も無く、悠はあっさりビリーに問いかけた。それもまたミリーには気に食わず――自分が子供みたいで――ビリーにも険のある口調で言い返した。


「意地なんて張って無いわよ!!」


「はいはい。悠達は本来なら初めて街に入るんだから身分証の確認やら荷物の確認やらがいるんだが、なにしろ今は公爵家の一行だからな。簡単なサインだけでいいはずだ。バローとその書類だけ書いて・・・って、ああ、向こうから持って来たみたいだな。さすが後ろ盾が公爵家だと扱いが違うな」


悠が外に出ると、バローも近くに来ていて書類を2枚持って来ていた。悠はまだこの世界の言語は『書けない』ので、バローに代筆を頼む事にした。




悠がこの世界で言語で『話す』のに困らないのには理由がある。


レイラは初めて来た時も悠と言葉に依らない、精神の交感で意志の疎通でを成し、すぐに『蓬來ほうらい』の言語を習得したように、この世界に来た時、クライスやベロウがベラベラ喋っている間にレイラは言語の習得をしていたのだ。精神の表層と実際の発音などを聞いて瞬時に異世界の言語をダウンロードする様に習得するこの技術はレイラのみならず、繋がりのある悠にもその恩恵を与えている。


しかし、話すのはそれでいいとしても、書くとなると視覚による別の情報の取得が必要になるので、この世界の言語を文字として見ていない悠には書く事が出来無いのだ。せめて数冊、本を読む必要があるだろう。


子供達がこの世界の人間と話せる理由は悠には分からなかったが、恐らくはあの召喚器の作用によるものと思われた。支配術式の様に自動で頭に刷り込まれる様な、なんらかの術式があるのかもしれない。




「ああ、いいぜ。書類もエラく簡単なもんだ。普通に入ろうとしたらどれだけ時間がかかったか分かりゃしねえぜ」


そう言うベロウの言葉は大げさな物では無く、街の入り口には大勢の旅人や冒険者、そして商人が詰めかけていた。順番通りなら、半日は待たされたかもしれない。だが、今は公爵家の一行となっている悠達は、貴族が出入りする専用の入り口に待たされる事無く通されている。


サラサラと書類にペンを走らせるベロウの字を見て、悠は意外な思いを味わっていた。ベロウの書いている文字は初めて見る言語の文字であるが、その筆致は流麗で見事な物に見えたのだ。


「バロー、お前字が上手いな」


「な、なんだよ急に。・・・これでも貴族だ。ガキの頃から教養ってやつは随分仕込まれたのさ」


照れくさそうに小声でベロウは答えた。交渉といい演技といい、案外多才な男なのかもしれない。悠は自分の名前であろう字を覚えながらそんな事を思った。








一行はあっさりと街への進入を許可され、身分証も即時発行された。


「君達に会えたのはこの旅で一番の幸運だったよ。今晩来てくれるのを楽しみにしているよ」


「いえいえ、それはこちらの台詞ですよ閣下。私達だけだったらどれだけ時間を取られたか分かりません。厚かましくはありますが、今晩は必ず伺わせて頂きます」


「君達の様な有望な冒険者とは是非縁を繋いでおきたいのさ。では、我々も少々警備の方に用があるのでね。盗賊の引き渡しも必要だし、まだ道中に私の乗り捨てた馬車もあるから」


「はい、では私達はこれにて失礼します」


そう言って悠達はローランやビリー達と別れた。ビリーは盗賊や裏切った護衛について証言せねばならないので、まだ解放されないのだ。


「よし、ツキが回って来たな!!この調子でさっさとギルドに行こうぜ、ユウ!!」


ちゃっかり盗賊から着服した腰の剣を一つ叩き、ベロウはウキウキとした口調と足取りで冒険者ギルドへ向かって歩き出したのだった。

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