2-39 遥かな地平へ
それから4日後、悠の姿は屋敷の玄関にあった。
「レイラ、屋敷を仕舞ってくれ」
《了解よ、悠》
レイラが『虚数拠点』を格納すると、辺りはまたただの平原に戻った。
悠の竜気も完全に回復し、これから遂に異世界と本格的に関わる事になる。まずは冒険者として生活の糧を得る為に、南方の国ミーノスへと旅立つ事にした。
ミーノスはここから500キロほど南下した場所にある。悠ならば、2時間少々で行ける場所だ。竜気の消費を度外視すれば、もっと速く付く事も出来るが、何があるか分からないので、なるべく竜気は残しておくべきだと悠は考えていた。
それに、ベロウに忠告された事もある。
「カンザキさん、外ではあの竜騎士?だったか?アレは使わない方がいいぜ。あんまり目立つとこの世界じゃいい事はねえ。屋敷から離れている間に、ガキ共が人質にされるなんて事もあるからよ」
ベロウももう口調は殆ど普段通りだ。順応性は高いらしい。
「ああ、分かっている。外では俺はただユウとだけ名乗るつもりだ。ノースハイアに居れば俺の正体に気付く奴が居るかも知れんが、この世界で600キロも離れた国に居る冒険者をノースハイアに居た人間と同一視する者はそうおらんだろう」
悠も身分を隠すメリットは考えていたらしい。ノースハイアでもアライアットでも神崎とは名乗ったが、下の名前は名乗っていない上に竜騎士となって顔を隠していた。竜騎士カンザキとミーノスの冒険者ユウとを繋ぐ事が出来るのは、現状ではこの屋敷の人間を抜かすと誰も居ないだろう。
「それと、ミーノスにはお前も一緒に付いて来て貰う。外では俺の事は悠と呼べよ」
その言葉にベロウはのけ反った。
「お、俺も!?」
「俺はこの世界の常識を知らんからな。それに、貴様は腐っても剣士なのだろう?2人組で旅をしてきたという方が、下手な詮索も受けんだろう。偽名も考えておけよ」
悠は決定事項を告げる口調でベロウに言った。
「ま、待ってくれ!俺は無一文だし、他国じゃコネも使えねぇ!おまけに剣だって今は持ってねぇんだぜ!?」
「金は当面の資金は胡椒を持っていけばいいだろう?換金して剣と装備を買え。俺は素手で戦うからいらん。龍鉄の靴があれば十分だ」
悠に胡椒が高価だと教えたのはベロウである。身から出た錆というものだ。
「・・・分かったよ畜生!!クソ、どんどんドツボにはまってる気がするぜ・・・」
「目的地近くまでは屋敷の中で待機しろ。大体の地理は貴様の説明で覚えたからな」
そう言って悠はベロウとの会話を切り上げたのだった。
「レイラ、着装だ」
《変身、でしょ?》
「それは決定なのか・・・」
レイラは着装の時のセリフとポーズが気に入ったらしい。
《気分の切り替えは大切よ、ユウ?》
「ふぅ・・・・・・変・身っ!!」
溜息をつきながらもレイラに付き合う悠は中々苦労性なのかもしれない。
瞬時に竜鎧を纏った悠は翼を展開して大空へと舞い上がった。
アーヴェルカインの空は秋らしく、高く青く澄み渡っている。
これからどのような困難が悠に待っているのかは分からない。
しかし、その雄飛する姿は一片の迷いも無く、真っ直ぐに南の地平線向かってに流れて行った・・・
打ち切りみたいなタイトルと終わり方ですが、まだ終わってません(笑)
これで『二章』は完成です。
次回からは恒例の人物紹介、用語解説、そして今回からその章のあらすじを書いておきます。
一章の部分は追加しておいたので、それを読めば一章、二章がすぐ分かる!・・・かもしれませんね。




