2-38 ハート・ブロークン7
「さあ、ここから出るぞ。2人共、目を閉じていろ」
悠の言葉に従って、明と蒼凪は目を閉じた。精神世界からは、入った場所からしか脱出出来無い。その為に悠は城から脱出したのだ。
悠も同様に目を閉じると、空間の一点から赤い靄が3人の方に流れて来て、徐々に3人を包みこんでいく。
それと共に3人の意識も次第に遠のいていった。
《・・・ユウ、メイ、聞こえるかしら?ユウ?メイ?》
「・・・ああ、聞こえる。ただいま、レイラ」
《ふぅ・・・おかえりなさい、ユウ、それにメイ》
レイラの呼び声で悠は目を覚ました。それとほぼ同時に、明も目を覚ます。
「ん~~~・・・ふあぁ・・・おはよう、レイラおねえちゃん!」
「悠先生ぃぃいいいい!!!!」
悠を食い入るように見つめていた神奈が即座に悠に抱きついた。
「ごぶ、ごぶ、ごぶじ」
「落ち着きなさいよ、神奈。言葉になってないわよ?悠先生、お帰りなさい」
「お疲れ様です。さすが悠先生ですね!」
感動で言語中枢がおかしくなっている神奈は泣きながら必死に言葉を紡ごうとして失敗し、それを見た樹里亜と智樹は多少落ち着いたのか、しっかりした言葉で悠を労ってくれた。
「いや、明が居なかったら危なかった。明、良くやったな」
「えへへ、めい、ゆうおにいちゃんのおやくにたてた?」
「ああ、これ以上無いくらいにな」
悠が明の頭を撫でると明はにへらっと顔をほころばせた。
「と、いう事は・・・」
樹里亜が顔を蒼凪に向けると、蒼凪も今まさに目覚める瞬間だった。瞼が痙攣し、そしてうっすらと目を開くと首を動かし、ほんの微かな笑みを皆に送った。
「やったーーー!!!」
「凄いです、悠先生、明ちゃん!!!」
「良かった・・・蒼凪ちゃん・・・」
その瞬間、神奈は飛び上がり、智樹は感激し、樹里亜は安堵した。
「すぐに皆に知らせないといけませんね!!」
「いや、その必要は無いな」
「え?」
智樹の言葉を否定した悠は、大部屋の扉に向かって声を掛けた。
「全員聞いているんだろう!!入って来い!!」
「「「は、はいぃ!!」」」
悠の言葉に返事が返り、扉が開いたかと思うと、待っている子供達全員が部屋に入って来た。京介に始、朱音に神楽、そして小雪に恵までも。ついでにベロウも混じっていた。
「やっぱりゆうせんせーはすげえな!おれたちがここにいるのが分かっちゃうなんて!」
「ぼ、ぼくはやめた方がいいって言ったのに・・・」
「だって、しんぱいだったんだもん」
「でもよかった~」
「すごいです、ゆう先生!」
「ご、ごめんなさい、悠さん!どうしても心配で・・・」
「お、俺はたまたま通りかかっただけだって!!」
皆口々に色々と言っているが、目が笑っていた。
「皆、紹介しよう。俺達の新しい仲間、葛城 蒼凪だ。皆仲良くしてくれ」
「「「はい!!!」」」
その温かい言葉に、蒼凪は本当に久しぶりに、生身で涙を流したのだった。
「皆、蒼凪は当分はベットから起き上がれないだろう。くれぐれも休んでいるのを邪魔しないように。それと恵、急に固形物は厳しいだろうから、スープを持って来てくれないか?」
「分かりました。少々お待ち下さいね」
悠の言葉に従う恵の足取りは軽かった。恐らく、明が無事に帰って来た事も関係しているのだろう。悠は明を下ろして立ち上がろうとして――右足から膝を付いた。
「先生!?」
「ゆうおにいちゃん!!!」
悠の異変に子供達がざわめいている。どんな時も小揺るぎもしなかった悠の姿は、子供達に大きな不安を抱かせていた。
それでも悠は努めて冷静に答えた。
「いや、体に異常は無い。精神世界で足を砕いたから、頭が怪我を受けたと誤認しているだけだ。明日には普通に動けるようになる」
精神世界での高所からの着地で、悠は右足の膝と足首に甚大なダメージを負っていた。それは現実には何の怪我にもならないが、精神は「怪我をした」と認識しているので、肉体と精神の間に情報の齟齬を起こし、このような状態として表れていたのだ。
更に、悠はアポカリプス戦において右足を一度失っている。後にレイラによって『再生』を受けて回復したが、左足よりも若干弱くなっていた。その事を意識・無意識で自覚していた悠の右足は筋力や耐久力において左足よりも弱いと認識していたので、両足から付いたにも関わらず、右足にダメージを負う結果に繋がったのだ。精神世界ではこのように認識が如何に重要か分かるというものだ。
「心配させて済まなかったな。後は皆でゆっくり――」
「たっちゃダメ!!」
悠が再び立ち上がろうとすると、側に居た明が悠の服を掴んで止めた。
「明?」
「ゆうおにいちゃんはきょうはがんばったんだから、ねてていいの!!」
明は真剣な顔で悠の顔を見つめている。その剣幕に他の者達も同調した。
「そうですよ、悠先生。明日からは大丈夫と言うのなら、今日くらいはゆっくり休んで下さい!」
「明ちゃんの言う通りだと思います。今日は休んでくれませんか?」
「悠先生、あたしもその方がいいと思います!!」
「しかし――いや、分かった。その言葉に甘えさせて貰おうか」
それでも悠は休むのを拒否しようとしたが、どうせ今日はまともに動ける訳でも無いので、その心遣いを素直に受け止める事にした。
「おじちゃん!ゆうおにいちゃんをはこぶのてつだって!!」
「だから何で同じ年の俺がおじちゃんなんだよ・・・あー、分かった分かった!!」
明に言われて、ベロウが悠に肩を貸して、明の先導で近くのベット――蒼凪の隣――に運び込んだ。
「ゆうおにいちゃんのおへやはとおいから、きょうはここでねてね?」
「ああ、分かった。皆、今日は俺もここで寝させて貰う」
明の英断と悠の言葉に子供達全員が嬉しそうに歓声を上げたのだった。
ようやく全員揃いました。
ついでにもう一つ作品の投稿を始めましたので、何も考えずに読めるライトなのがいい人はよろしかったらそっちもどうぞー