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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第二章 異世界出発編
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2-35 ハート・ブロークン4

「明、入っていいぞ」


「はーーーい!!」


悠の声に返事をして部屋に入って来たのは3人の思った通り明だった。


「え、なんで明ちゃんが・・・」


「どういう事なんですか、先生?」


状況が掴めずに智樹が悠に質問をぶつけてきた。


「精神の中で、蒼凪に呼びかけを行う人間が必要なのだ。俺でも出来無くは無いが、出来る事なら本人と深い関係にある者か、または純粋な、わだかまりの無い人物が望ましい。蒼凪と関係がある人物はこの世界にはおらんからな。だから明に頼んだのだ」


「でも、危険なんでしょう?そんな所にこんな小さい子を連れていくのは・・・」


樹里亜は明を心配して危険を訴えたが、明がそれに反論した。


「いいの!めいがゆうおにいちゃんをたすけるんだもん!おねえちゃんもいいっていったもん!!」


「勿論恵には承諾を取ったし、本人にも承諾を得た。絶対に無事に戻って来る事を条件にな」


「信じて・・・いいんですよね?」


「そうしてくれると助かるな」


樹里亜は悠の目をじっと見て問い詰めたが、悠の目には全く動揺が見られなかった。代わりに見て取れるのは何が何でもやり通すという鋼の意志の輝きだ。


「・・・分かりました、悠先生を信じましょう。でも、みんなが先生の帰りを待っている事は忘れないで下さいね?」


「いいんですか樹里亜さん!?」


智樹が樹里亜に尋ねたが、樹里亜は首を振りながら答えた。


「本人がいいと言っていて、家族の了承もあって、保護者が責任を取ると言っているのに、これ以上私達が言える事は無いわ。・・・あとは、信じて待つ事くらいね」


「皆の心配は肝に命じよう。では、早速始めるぞ」


悠は明の手を取って、蒼凪のベットの横に置いた椅子に座り、明を持ち上げて自分の膝に乗せて左手で固定して、右手では蒼凪の手を握った。


「明、目を瞑ってくれ。レイラ、『潜行ダイブ』の準備を」


「うん」


《了解。メイ、気持ちを落ちつけてね・・・『潜行』起動》


レイラの言葉と共に、悠の体から赤い靄が立ち上り始め、それは明を包み、そして握っている手を伝って蒼凪の体を包んでいった。


《精神接続。『潜行』開始》


そしてレイラが悠と明の精神を蒼凪の精神世界へと送り始める。悠と明は徐々に体の現実感を失い始め、やがて完全に意識を失った。


「先生、ご無事で・・・」


神奈の呟きが悠に届く頃には、悠達の精神体は既に蒼凪の精神世界へと旅立っていた。








暗転した意識から悠の目に最初に目に飛び込んで来たのは、砂だった。


悠は蒼凪の精神世界の中で横たわっていた体を起こすと、周囲を観察した。そして、その世界の荒廃ぶりに改めて治療の難しさを感じ取っていた。


その世界には緑が無かった。山も無く、川も無く、空に太陽も無く、そしてなにより生命の気配が無かった。どこまでも続く地平線の砂漠。それが蒼凪の精神世界であった。


緑が無いのはその人物の癒しが無い事を表し、山は感情の起伏を、川や海が無いのは生活や人生に潤いが無い事を指している。生き物が居ないのは他の生命体への強い忌避感を感じさせ、太陽が見えないのは希望が無い事を表している。


そして、目の前にある古城。ここが蒼凪の精神体の居場所であろう。


しかし悠はここが砂漠である事に一縷の望みを持っていた。砂は渇きの象徴だ。乾いているという事は心が潤いを求めているに他ならない。ならば呼びかけに反応があるかもしれないと思ったからだ。


「んにゃ・・・あ、おはよう!ゆうおにいちゃん!!」


悠が周囲の観察をしていると、横で寝ていた明も目を覚ました。


「ああ、おはよう。いつもと変わらないか?」


「うん!べつになんともないよ!」


悠は明に手を差し伸べて起こしながら尋ねた。特に精神体での活動に支障は感じていないようだ。


明は周囲をぐるりと見回して、ぽつりと言った。


「なんにもないね、ここ」


「ああ・・・」


明は直感でここが良くない場所だと理解したようだった。


「まずはこの世界にいる蒼凪に会わなければならない。明、行こう。蒼凪はあの城の中に居るはずだ」


「うん!!」


悠と明は手を繋いで古城の中へと足を踏み入れていった。








「くらいね・・・ゆうおにいちゃん・・・」


「俺の手を離すなよ、明」


二人は悠の先導で城の中を進んでいた。城の中には外からの弱い光など全く届かず暗闇であったが、悠の体――正確には胸元のペンダント――から発せられる光でかろうじて周囲が確認出来る。


これはレイラの探査の能力が精神世界でこのように見えているに過ぎず、実際にペンダントが光を放っている訳では無い。


「でも、おねえちゃんがどこにいるかしってるの?」


「大体な。ここが城だというなら、本体が居るのは当然中心だ。ならば玉座に居るはず」


これもこの城が実際に存在している訳では無いので、概念としての中心が玉座である可能性が高いからこその悠の発言だった。


玉座への道は真っ直ぐに伸びているはずが無いが、悠の足取りに乱れは無い。レイラが探査しながら進んでいるので、中心に進んでいるのは間違い無いのだから。


その事を証明するように、やがて悠と明の前に大きな扉が現れた。心の深層へと続く、文字通りの心の扉と言えるだろう。


「蒼凪、聞こえるか?聞こえているはずだ。俺は神崎 悠。君を助けに来た」


悠は扉に向かって声を掛けたが、扉には何の変化も無い。やはりそう簡単に人に心を開くはずもないかと悠は呼びかけを諦め、強行突破を図る事にした。


悠は明の手を離して扉に向けて半身になった。


この場合、扉を破るのに必要なのは脚力では無い。精神力だ。そして悠はその精神力こそを鍛え抜いて生き延びて来た。そして、その結果は次の瞬間に判明した。


「ハァッ!!!」


悠が半回転して後ろ回し蹴りを扉の中心に放つと、扉は何の抵抗も出来ずに中へと開いていった。


「行くぞ、明」


「うん!!」


悠は再び明の手を取ると、光の差さない暗闇の玉座へと踏み出して行ったのだった。

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