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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第二章 異世界出発編
112/1111

2-32 ハート・ブロークン1

翌朝、悠はいつも通りの時間に目を覚ました。レイラに挨拶を済ませると、悠は早速ラフな格好に着替え、屋敷の外で日課をこなすべく、体をほぐし始める。


まだ外は暗く、11月らしく、吐く息も白い。しかし悠はそんな事は露にも感じさせぬ表情で入念に柔軟運動を続けた。


30分ほど体をほぐすと、いつも通りの型をなぞり始めた。今日の治療には精神統一が特に必要になる為、自分の思い通りに体を動かす事に集中する。


何も考えずに体を動かしても運動にはなるが、動作を意識して行うと、より高い効果を得られる。悠はどれだけ熟達しても、このチェックは怠らない様にして日々続けていた。


「・・・ふぅ」


一通り終えて、悠は残心をして型を終える。


「レイラ回復具合はどうだ?」


悠はレイラに竜気プラーナの状態を尋ねた。


《治療が朝食の後として、ほぼ50%くらいね。精神への『潜行ダイブ』は常時消耗するから・・・『豊穣ハーヴェスト』があっても1時間が限界よ。それ以上は低位活動モードになる事を覚悟して貰わないと》


精神への『潜航』は『豊穣』無しなら1時間で60%は消耗する。それを考えれば『豊穣』があるのは大変ありがたいが、それでも1時間しかないのだ。だからこそ、効果はそこまで強く無くても『精神治癒メンンタルヒール』で救えるならば救いたかったのだが。


しかしそれは逆説的に言えば、死にかけていた樹里亜を上回る心の傷を蒼凪が抱えている事を裏付けている。このままでは蒼凪は数日中に命を落とすだろう。


今日救わねば助からないと悠は自分に言い聞かせて、治療への集中力を高めていった。








「ゆうおにいちゃん!!おふろ!!!」


屋敷の中に帰ると、丁度明がお風呂に入る準備をして悠を待ち構えていた。昨日の約束を明はしっかりと覚えていたのだ。また、悠も特に誤魔化そうとせずに、明の頭を撫でながら言った。


「明、朝はまずはおはよう、だぞ?」


「あ、ごめんなさい!!おはよう!!!ゆうおにいちゃん!!!」


「おはよう、明。丁度入ろうと思っていた所だ。着替えを取って来る」


そう言って部屋へ向かう悠の後を明付いて来た。


「おっふろ~おっふろ~」


明は悠とのお風呂が楽しみで仕方が無いらしい。


その無邪気な様子を見た悠は今日の治療に関して、一つ思い付いた事があってレイラに尋ねた。




(レイラ、今日の治療に明を一緒に連れて行く事は可能か?)




その言葉には流石のレイラも焦った声をあげる。


(何を考えてるの、ユウ!?)


(明は子供達の中で誰よりも純粋で、そして善良だ。蒼凪の治療を助けてくれると思うんだが)


(出来るけど、私は反対よ!!『潜行』の時間が半分になるし、危険も二倍になるわ!!)


『潜行』は一人増えるごとに、消耗が倍になる。そして、中で悠に何かあった場合、どちらも精神世界に捕らわれて抜け出せなくなってしまう。レイラが反対するのも当然だ。


(明だけは、例え俺に何かあっても必ず無事に帰す。蒼凪の治療に万全を期すならば純粋な明か、面識のある樹里亜が居た方がいい。しかし、樹里亜は昨日精神を回復したばかりで無理だ。だからこそ明に頼みたい)


(でも・・・)


それでもレイラは心配だった。勿論明は心配だが、悠が必ず帰すと言っているのだから、必ず帰すだろう。その程度の信頼感は持っている。しかし、悠はそれを優先するあまり、自分の安全を疎かにするかもしれない。レイラが一番心配なのはそこだった。


(ユウ、約束してくれる?)


だからレイラは悠に釘を刺しておく事にした。


(必ず無事に戻って来るって。そして、ケイとメイにも承諾を取って。それが約束出来ないのなら、私は協力出来ないわ)


(・・・分かった、約束しよう。必ず帰って来ると。勿論、恵と明には承諾を取る。無理強いするつもりは無い)


レイラは密かに恵と明が断ってくれる事を期待した。だが、あの姉妹が悠に頼まれた事にノーと言う可能性は低いと見るべきだ。特に明は二つ返事で承諾するだろう。


レイラ自身も覚悟を決めなければならない。いざという時は、無理矢理でも悠と明を引き戻さなければならないだろう。その結果、蒼凪を失う事になっても。そうなったら、その責任から逃れるつもりはレイラには全く無かった。


レイラがそんな覚悟を決めているとは露にも思わず、明は楽しそうに脱衣所へと入って行ったのだった。








「ゆうおにいちゃんのせなかあらってあげるね~」


「ああ、頼む。その後は明のも洗ってやろう」


「わーーい!!!」


明が大量にタオルに泡を立てながら準備している間に、悠は明に先ほどの話を切り出した。


「明、今日蒼凪の治療をするのは覚えているか?」


「うん!おねえちゃん、起きるといいね!!」


明は悠の背中を擦りながら無邪気にそう答えた。


「ああ、そうだな。・・・それで、明にお願いがある。俺の治療を手伝ってくれないか?」


そんな明を鏡で見ながら、悠は本題を切り出した。


「え?めい、なにかおたつだいできるの?」


「俺と一緒に蒼凪の心の中に付いて来て欲しいんだ。そして、中に居る蒼凪を助けるのを手伝って欲しい。安全な場所では無いし、怖いものを見るかもしれん。嫌なら別に構わないんだが――」


「いく!!!!!」


悠の警告を遮って明ははっきりと答えた。


「いいのか?本当に大変かもしれないぞ?」


「めいひとりだったらちょっとこわいけど、ゆうおにいちゃんもいるんでしょ?」


「勿論だ」


「だったらいいよ!ゆうおにいちゃんがいれば、めい、こわくないもん!!」


明は直感で悠が姉や母と同じくらい信頼出来る人間だと見抜いていた。悠がいれば大丈夫という事を、明は無条件で信じる事が出来たのだ。


悠はそれを感じ取り、何があっても明だけは帰すと固く心に誓った。そしてふと思い付き、明のお願いを一つだけ聞いてあげる事にしたのだった。


「ありがとう、明。もし恵がいいと言ったら明に手伝って貰おう。・・・今叶えられる事なら、明のお願いを一つ言ってくれ。出来る事なら叶えよう」


「え!!ほんと!?」


その言葉に明は目を輝かせた。そしてあーでもない、こーでもないとうんうん頭を悩ませ、なにかピンと来た事があったのか、にっこりして悠にお願いをしたのだった。








「そ、それは・・・私では駄目ですか?」


明を貸して欲しいと言った悠の言葉に、恵は難色を示した。悠を信頼していない訳では無いが、妹の安全は恵にとってそれに並ぶくらいに大切な事だったのだ。


「不可能ではないだろう。だが、少しでも確率を上げるなら、樹里亜か明以外の人選は無いんだ。それでも恵が心配だと言うのなら諦める。大丈夫だ、俺だけでも出来ない訳では無い」


恵は板挟みの感情に困り果てながらも、悠の提案に乗ろうとした。悠が大丈夫だと言うならそれを信じようと。しかし、そんな姉の怯懦を戒めたのは他ならぬ明だった。


「ダメだよおねえちゃん!!」


「明?」


「おかあさんがいってたもん!こまってるひとはたすけてあげなさいって!!」


その言葉に恵は怯みそうになったが、それでも明への心配がそれに勝った。


「危険な事をしたら、それこそお母さんが悲しむわ。だから別の事で恩返しを――」


「めい、なにもおかえししてないもん!!ゆうおにいちゃんのおやくにたちたいんだもん・・・」


その言葉に恵は言葉を失った。明は知識はまだ無くても、頭の悪い子では無かった。姉が何かと悠に頼りにされているのを見て、いつも何か悠の役に立ちたいと、ずっと思っていたのだ。


「おはなをもらったことも、まいごになったことも、たすけにきてくれたことも、めい、ぜんぜんおかえししてないよ!!!そ、そんなの、ぐす、いやだよぅ・・・うぇぇぇぇぇええええん!!!!」


今までの思いが口から出した事でタガが外れてしまったのか、明は悠に抱きついて泣きだしてしまった。


「明、そんな事は気にしなくてもいいんだ。俺がやりたいからやった事なんだからな」


そんな悠の言葉にも明はイヤイヤと首を振っている。せっかくの機会なのに何も出来ない事に、明はとても悲しくなってしまったのだ。


そんな明の姿を見て、恵も覚悟を決めた。


「――分かったわ、明、行ってらっしゃい」


「ぐす・・・おねえちゃん、いいの?」


明はまだ涙を流しながら恵を見つめていた。その目は恵の目を見ていて、純粋に恵の意図を確かめていた。


「私は明の姉ですもの。妹が誰かの役に立ちたいと思っている時に、それを邪魔しちゃいけないわよね・・」


「ありがとう、おねえちゃん!!!」


明は恵の言葉が本心であると悟り、涙を止めてにっこりと恵に笑いかけた。


「いいのか?本当に嫌ならいいんだぞ?」


「いえ、明が自分の意志でこう言ってるんです。姉の私がそれを止めるのは間違っています・・・で、でも、悠さん・・・」


明の意志を尊重しても、悠をどれだけ信頼していても、それでも心配な事には変わりない恵は涙ぐみ、言葉に詰まりながら、悠に懇願した。


「め、明を・・・明を!!どうか、どうか無事に返して、下さい。お願いします、お願いします!!!」


遂にその瞳から涙をこぼれさせて、恵も悠に抱きついた。口では「お願いします」というセリフを繰り返しながら。


悠は二人の姉妹の背中に手を回してしっかりと抱き止め、『約束』をした。




「・・・必ず無事に返す。俺は約束した事は破らん」




そのまま悠は恵の涙が止まるまで、何も言わずに抱きしめ続けたのだった。

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