表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
1110/1111

10ー168 許されざる者1

屋敷に戻った悠がマハとアスタロットを紹介し早々に部屋に引きこもり看病に従事し始めると、マハはこの世界に来て初めて他の『異邦人マレビト』達と面識を得た。


「マハー・カーラ・ナタラージャと申します。ですがそれは一度死した昔の名、私の事はマハとお呼び下さい」


実の所、アーヴェルカインでアスタロットから離れた事のないマハは悠の屋敷を訪れるにあたり、かなりの緊張を持って臨んだのだが、それは全くの杞憂に過ぎなかった。数名の例外はあれど、シャロンやサイコ、果てはミロまでを受け入れた経験を持つ住人達が礼儀正しく控えめなマハを歓迎しないはずがないのである。ましてやマハは悠が直々に連れ帰った『異邦人』なのだ。


「マハさん、ですね? 『異邦人』の大先輩にお会い出来て光栄です。悠先生も自分の家だと思って寛いで欲しいと仰っていましたし、私達もマハさんと親睦を深めたいと思っています。どうぞ宜しくお願いしますね」


「マハさんもまだ体調が完全ではないと伺いました。私、元気の出るものをたくさん作りますから」


樹里亜と恵が率先してマハの受け入れを表明すると、僅かな緊張感も霧散してマハはホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとうございます。本当に悠様には何から何までお世話になりっぱなしで……せめてお手伝い出来る事があれば何でも仰って下さい」


「エキゾチックな美人だなぁ、マハさん。物腰も柔らかいしスタイルもいいし」


「でも本命が別に居るから安心。私も気兼ね無く仲良く出来る」


「はい?」


屋敷に新しい女性メンバーが加わると高確率で悠の競争率が上がるので、神奈や蒼凪のように悠への好意を隠さない者達にもマハの存在は受け入れ易いものだった。それを口にも態度にも出してしまう辺りが未成熟の謗りを免れない所ではあるが。


「こーら、バカな事言わないの。でもエキゾチックな美人って意見には同意ね。ダークエルフが居るって聞いた事は無いけど、もし居たらマハさんみたいな感じかしら?」


「容姿はともかく、マハさんも何か才能ギフト能力スキルをお持ちなんですか?」


「はい、一応……ですが、私の能力は全く戦う事には向いてなくて……触れた相手が何処に居るのかが分かるだけなんです」


そう言って身を小さくするマハだったが、樹里亜は笑みを浮かべたまま首を振った。


「悠先生は『異邦人』を戦力の当てにする人じゃありませんよ。求めれば鍛えてはくれますが、あくまで自衛の手段としてです。それが歯痒く感じる時もありますが……」


「案外過保護だものね、ユウさんは」


「ちぇっ、俺ももっと大きかったら恵姉ちゃんみたいに連れてって貰えるのになー」

  



「ハッ、こんなクソッタレな場所に染まるこたぁねーよゥ。ガキはガキらしく遊んでんのがシアワセってやつだぜェ、ふあぁ……」




そこに腹を掻きながら現れたサイコが京介の頭を乱雑に撫でながらマハに視線を止めた。


「ふん、物好きだなアンタ。ま、オトナの女なら好きにすりゃいいさ。今更帰るでもねェってんならな。ンな事より恵、酒とツマミくれよゥ」


「サイコさん、失礼ですよ!」


切り捨てるようなサイコにマハは面食らって言葉を返せなかったが、恵の怒声に軽く肩を竦めた。


「興味ねー。オレぁこの世界がキライだからなァ。喋ったって平行線ならオレのスタンスをハッキリさせといた方が余計な気ぃ使わなくていいダロ?」


「……」


サイコの過去に何があったのかを詳細に知っている者は居ないが、同じ境遇であった樹里亜や神奈、智樹はその瞳の奥に宿る闇の深さに返す言葉を持たなかった。アーヴェルカインの住人達ではサイコの心に届かず、悠以外にサイコの内面に踏み込める者は存在しないのだ。


「……あー、別に絡みに来たんじゃねーんだ、精々楽しくやったらいいサ。じゃあなァ」


グシャグシャと自分の髪をかき回し、厨房で目当ての物を手に取るとサイコは後ろ手に手を振って広間を去っていった。


「……サイコさんも悪い人じゃ無いんですけど、色々ありまして……この世界に縁があるものに壁を作ってしまうというか……」


「……多分、今のも遠回しにお互いが不快にならない距離感を保って生活しようって言いたかったんだと思います。マハさんが悪い訳ではありませんから気にしないで下さいね」


「ええ、分かっています」


マハは肉体を失っていた期間は長いが実年齢でも恵や樹里亜よりも年上であり、サイコの目に浮かぶ複雑な色の意味を読み取っていた。


(大切なものを失った人の目だわ。排他的で攻撃的で……自罰的。それを押し留める事が出来ないから他人に忌避されるように振る舞っている……本当は優しい人なんでしょうね)


マハがそう推察したのは彼女を拾ったアスタロットが正にそういう人物だったからだ。他人と上手く関われない事を自覚し、態度と口調で他人を遠ざけて生きてきたアスタロットだったが、『異邦人』であるマハを拾ってしまったがために半ば強制的にマハの世話をする羽目になったアスタロットは口ではどう言おうとも結局は寄る辺のない哀れなマハを決して放り出したりはしなかった。マハにはサイコも似た感情を宿しているように思えたのである。


「いつか時が、そして誰かがあの方を癒すでしょう。……いえ」


と、そこでマハはこの屋敷の主人が誰なのかを思い出し、柔らかな微笑みを口元に浮かべた。


贔屓目のマハから見ても難物のアスタロットとあっさり信頼関係を築き上げたその人物と、サイコが口では悪態を吐きながらもこの屋敷に留まっているという事実がマハに笑みを浮かばせたのだ。


「もう出会っているのでしょうね。だって、この屋敷にいらっしゃるんですもの」


それが誰を指しているのか、屋敷の住人達で理解出来ない者は居なかったのである。




マハが屋敷の住人達と親交を深めている中、悠の姿は屋敷の一室……ではなく中庭の隅にあった。


いや、一緒に居る者達の存在を思えば悠達と言うべきだろう。


「ユウ様、改まって私達にご用とは一体何事でしょうか?」


「……」


その悠に人目を憚るように呼び出されたのは若干の緊張感を浮かべたシャロンと無表情のギルザードであった。シャロンの緊張感は悠が何を話すのかという点にもあったが、普段は穏和なギルザードの放つ剣呑な気配こそが最たる理由と言えるだろう。ここ最近のギルザードは、特に戦争から帰って来てからは口数が減り、考え込む事が多くなっていたからだ。


(ギルったらどうしたのかしら? 何か知っているの?)


「……ギルザードは薄々分かっているようだな」


「勘違いや的外れならいいと思っていたが、どうやらそうではないようで残念だ」


「……」


悠とギルザードの間にある帯電したかのような空気にシャロンは口を挟む事が出来なかった。時にシャロンに対するスタンスの相違から衝突する事もある両者だが、それは長く引きずる類のものではなく、シャロンは一向に和らいでは来ない雰囲気に身を固くしていた。


そんなシャロンの様子にギルザードが気付いていないはずもないが、ギルザードは悠が口を閉ざしている事に更に尖った口調で続ける。


「……ユウ、いくらお前でも踏み込んでいい領域とそうではない領域があるぞ! 覚悟があれば他人の聖域に土足で踏み入れてもいいと思っているなら私はお前を軽蔑する!」


「……」


ギルザードの強い言葉に悠は無言であった。驚くべき事に、シャロンには悠が返答に窮しているように思え、慌ててギルザードの腕を掴んだ。


「ギ、ギル、どうしてそんなに怒っているの!? ユウ様に失礼でしょう!」


「シャロン様、それは――」


「いや、ギルザードの言う通りだ」


制止しようとしたシャロンを逆に悠が制止し、悠はギルザードと視線を合わせた。


「この件について俺がシャロンやギルザードに言える事は何もなかろう。余計なお世話であり、詰られようが殴られようが返す言葉もない。だが、自分の起こした行動の結果に背を向けるのは許されん。俺が自分の意思で選んだのだからな」


「その考え方が傲慢だと言っている!!」


「甘んじて受け入れよう。これ以上俺から言える言葉はない」


「貴様っ!」


「ギル!!」


激昂し拳を固めるギルザードをシャロンが本気で止めようとしたその時だった。




「やめてくれないかな。ここに至っては、もうユウは部外者に過ぎないんだ、話は当事者同士でするべきだろう?」




屋敷の陰から届いた声にギルザードは自分の予想が外れていなかった事に盛大に顔を歪め――シャロンは胸を衝く正体不明の感情に瞳が揺れた。最初からそこに誰かが居る事に生命の気配に敏感なシャロンは気付いていたが、悠に何か考えがあるのだろうと黙っていたのだ。


(初めて聞く声、じゃない? 誰だったかしら……この声、この口調……)


「シャロン様、シャロン様は屋敷の中にお戻り下さい!」


「ギル、誰なの?」


「シャロン様がお会いになる必要など……! とにかく、早く屋敷に!」


「いいや、会う必要はあるさ。必要も資格も権利も今となってはシャロンとギル、君達だけが持っているんだから」


焦りを滲ませるギルザードの声を断ち切るその声にギルザードは一瞬固まったが、次の瞬間には剣の柄に手を掛けていた。


「貴様が私を……ギルと呼ぶな!!!」


「クク……予想通りの反応だ、その様子だとどうやら君は真実に到達したらしい。そして……」


声の主はそこで一旦言葉を切ると、屋敷の陰から姿を現し、シャロンに向けて口元を吊り上げて言った。


「君はどうなのかな、シャロン? 千年ぶりだけど、私を覚えているかな?」


美しい金髪を翻し、ファティマ・ラティマは艶然とシャロンに向けて微笑んだ。

明けましておめでとうございます。年が明けても十章が完結出来なくて申し訳ないです。ですが、今年は去年より時間が取れそうなので頑張って更新しますよー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ