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神様になる前にもう一つ世界を救って下さい  作者: Gyanbitt
第十章 二種族抗争編
1109/1111

10ー167 王は戻れり4

マハとアスタロット、そしてエースロットの蘇生と移動を成功させた悠が間を置かずに再び訪れたのは2人の様子見が半分である。アスタロットは言うに及ばず、一見問題の無さそうなマハも今後どうなるかは悠にも分からないのだ。


マハの淹れてくれた茶を飲み干し、起きていようとするマハを半ば無理矢理床につかせ、悠はアスタロットの様子に注意しつつ部屋の中の雑多な資料を手に取った。閲覧の許可は前もってアスタロットに取り付けてある。


《獣人達について?》


「ああ、ハクレイ達の話だけでは偏りがあるだろうからな。情報は多い方がいい」


そもそもハクレイ達『人虫族インセクト』は大陸の片隅に追いやられた不遇の種族であり、移動の制限なども相まってあまり世情に明るくはなく、その上ハクレイは姉の代理という事を差し引いても世間知らずな面があり、ミトラルが知る真実は遥か過去の事だけだ。情報の収拾は悠自身で行わなければならなかった。


だが、その結果は芳しいものではなかった。一通りの資料を浚ってみたものの、最新と言えるものでも数十年、いや、下手をすれば100年以上は過去の資料しかなく、とても現在の状況に即しているとは言い難い代物でしかなかったからだ。収穫といえばその当時に存在した幾種かの種族名と種としての簡素な特性くらいのもので、大体の情報は五大部族に関するものばかりに偏っており、脚色や虚飾を多分に含んでいるように悠には感じられた。


《ま、一般に出回る程度の資料じゃそうでしょうね。五大部族に非ずんば獣人に非ずって事かしら》


「誇り高いのは結構だが、あまり自分達を特別視せん方がいいと思うがな。ミトラルが言うにはランダム抽選の結果でしかないのだ、真実が知れ渡れば大規模な反乱を招きかねん」


ハクレイはあまり知らないようだったが、その部下のトウロウの強引な態度を見れば彼らに対する上位部族の扱いが透けて見えようというものだ。他国で強硬な真似をしでかすくらいには、彼らには腹に据えかねる理由があるのだろう。


《面倒な争いなどに巻き込まれている暇などないが……》


《すんなりとはいかないわよ》


やけに確信がこもったレイラの口調だったが、それには幾つかの理由があった。


一つは悠が言ったようにラドクリフ連合は秘密を抱えており、五大部族はそれを隠す事で支配体制を維持している疑いがある事だ。陸王ラドクリフの欠片を受け継ぐ五大部族はミトラルから情報を得た悠のようにそれらを知っている可能性があり、知れ渡れば支配体制に綻びを生みかねない。


そして最も大きな理由として、ミザリィの介入があった。いずれの種族に対しても争いを助長するように動いてきたミザリィが数の上では世界最大のラドクリフ連合を見逃す道理はない。むしろ、これまでで最も苛烈に悠の行く手を阻んで来るに違いなかった。場合によっては総力戦になるかもしれない。


《どうせまた一見便利でその実は罠満載の悪辣な仕掛けがあるに違いないわ。対価もなくそんな上手い話あるはずないのに……》


《判明している獣人種族だけで50は下らん。その一部に手が回っているのだとしても、全く気の遠くなるような話だな》


「目の前に餌をぶら下げられて心を乱さずに居られる者は少ない。何か方策を考えねば無駄に時を費やすな……」


こういう時に悠か真っ先に思い浮かべるのは、やはりといおうか雪人である。多少・・人格と立案に問題はあるが、必ずや効果的な案を提示してくれるはずだ。修正は悠達が行えばいい。


そうして一通りの資料を閲覧しつつ意見を交わし空が白み始めた頃、夜の闇に取り残された幽鬼のような足取りでアスタロットが悠の前に現れた。もはや体調不良を通り越し、顔に浮かぶのは死相に近いが、やると言ったからには身を削ってでもやり遂げるのがアスタロットという男である。悠はアスタロットのそういう所が嫌いではなかったが、マハなどは気が気ではないだろうと思うと、今後は迂闊に頼み事はしないでおこうと心に決め、アスタロットに問いかけた。


「終わったか?」


「……終わった……あとは…………任、…………」


悠の問いに答え終える前に気力の糸が途切れたアスタロットが崩れ落ち、悠は気絶したアスタロットを抱き止めた。今や下手な女性や子供よりも軽いアスタロットにこれ以上の無理は命に関わるだろう。


「アスタロット様!」


唐突に現れたマハがアスタロットを見て駆け寄って来たが、マハが何度もこっそりと様子を伺っていた事に気付いていた悠は小さく頷いた。


「マハ、アスタロットには療養が必要だ。お前の体の事もある、しばらくは俺の家に来るといい。回復が早まるのは保証するぞ」


「で、ですが、アスタロット様が何と仰るか……あまり他人との交流を好まれませんし……」


《どうせしばらくはまともに動けやしないし、うちの屋敷なら24時間完全看護、お風呂も食事も、薬だって問題ないわ。それに、病み上がりのあなたに無理をさせるくらいならアスタロットだって文句は言わないわよ》


レイラの説得に心が揺らぐマハだったが、眼前で手際よく注射による治療を施す悠を見て決心し、深々と頭を下げた。近代医療を行える悠に頼るのが一番確実な道なのは明白だったからだ。アスタロットの気分を害してもアスタロットが健康を取り戻せるなら、マハにとってそれは何より優先されるべき選択であった。


「……分かりました、何から何まで厚かましく心苦しい限りですが、お世話になります」


「気にするな、アスタロットには恩があるし、『異邦人マレビト』の保護は俺の目的の一つでもある」


マハに宿泊の準備を任せ、悠はアスタロットの容態に注意を払いつつ、今日ここにやって来た本題に目を向けた。暗い部屋の最奥に残された品こそが悠の最大の目的なのだ。


《さて、始めましょうか》


「ああ。……流石はアスタロット、不調でも仕事に抜かりは無いようだ」


《あの男はそういう理由で仕事に不備が出る事を自分に許さんだろう。よく今まで生きていたものだ》


《エースに体を譲る為に危険な真似はしなかったんでしょう。自分だけの体になった途端、歯止めが無くなるようじゃ迂闊に頼み事はしない方がいいわね》


「これからはマハやエースが歯止めになってくれるはずだ。頑固だが道理を解せん男ではあるまい」


《どうだかな。同じように保護する者を持ちながらもっと無茶苦茶しおる頑固者を我は知っておるぞ?》


《奇遇ね、私もよーーーく知っているわ》


「……」


悠自身は無理をしているつもりは無くても、この話題になると孤立無援になってしまう悠であった。


それからしばらく後、準備を整えたマハを伴い、悠は二人・・の体を担いでアスタロットの屋敷を後にしたのである。

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