2-31 裸の付き合い3
一方、その頃の女風呂。
「わ~、ひろ~い」
「ふわぁ・・・こんなに広いとおよぎたくなっちゃうなぁ・・・」
「お風呂なんて久しぶりです・・・」
「あはははははははははははは!!!」
「こ、こら、明!お風呂場ではしゃがないの!」
先に召喚された3人はちゃんとしたお風呂に入るのは久しぶりだった。アーヴェルカインでお風呂は上流階級の者が嗜むのが殆どで、お風呂付きの宿など超高級店の証である。お湯を少し貰って体を拭くだけというのは、現代に生きる子供達には辛いものがあった。
特に朱音は大のお風呂好きで、毎日朝と夜の2回の入浴を日課にしていたから、その喜びも大きい。朱音はお風呂に限らず泳ぐのも大好きだったので。
小雪は戦争に行っている間はお湯すら貰えていなかったので、念入りに体を洗えてニコニコしている。が、途中でさっき抱きついた時私って臭かったんじゃ・・・と思い、顔を青ざめさせていた。
明はいつも通りのハイテンションで、恵は年少組全員の監督と相変わらず苦労性だ。ちなみに恵だけはタオルを体に巻いている。
「ふ~、とろける~」
「ぐすっ、もう一度おふろに入れるなんて・・・」
しまりの無い顔でほにゃ~という謎の擬音を発しながら浸かる神楽と、感動のあまり涙ぐむ朱音。
「これもみんな先生のおかげだね~」
「うん・・・先生ありがとう・・・」
「めいもーーー!!!」
そこに体を洗った明が突撃してきた。恵が慌てて追いかけて来て、二人に明の行為を謝罪した。
「ご、ごめんね二人共っ!?こら、明!お風呂で人に迷惑かけちゃダメ!悠さんは悪い子は嫌いよ?」
「え、え、え?ご、ごめんなさい~」
悠の名を出されると、流石の明も嫌われたくは無いのか、素直に謝った。
「だいじょうぶですよ~、けい先生~」
「うん、めいちゃん、わたしたち怒ってないよ?」
素直な明を見て、二人も特に険悪になる事も無く明を許した。
「めいちゃんは本当にゆう先生が好きなんだね~」
「うん、めい、ゆうおにいちゃんのことだいすき!!おおきくなったらケッコンするの!!」
「もう、明ったら・・・」
それでも密かに恵は素直に悠を好きと言える明を羨ましく思っていた。恵の淡い恋心は、悠にこの世界で再会し、再び助けられた事ではっきりと自覚出来る物に育っていたのだ。
「あの・・・」
そこに後ろから声が掛けられた。入念に体を洗っていた小雪だ。
「ゆう先生の事、教えてもらえませんか?わたし、まだ何も知らないんです」
小雪は絶体絶命の所を悠に救われた事はこれ以上なく感謝していたが、悠は無表情で大人な為に話しかけ辛く、小心な小雪には中々難度が高いのだった。
「いいよ。小雪ちゃんも一緒に入ろう?温めだから、のぼせる前には簡単になら話も出来るから」
そう言って恵は神崎 悠という人物の事を語り始めた。
悠さんは私達の世界の英雄だったの。ううん、今でも国の誰もが悠さんの事を英雄だって思ってる。私達の世界が龍に狙われてたっていう話はさっき悠さんがしたよね?
私達は弱かった。人間なんて、簡単に龍に食べられちゃった。でもね、そこに竜が現れて、私達に味方してくれたの。そして、竜と人間の中でも強い人が一緒になって、竜騎士様になったの。悠さんが前に皆の前でなったあれだよ。ああなった竜騎士様はとってもとっても強くて、人間なのに龍と同じくらい強くなれるの。その竜騎士様のリーダーだったのが悠さん、神崎 悠戦闘竜将だったの。竜将っていうのはね、一番偉い軍人さんの事よ。
そして悠さんは、一番強くて悪い龍を退治してくれて、私達の世界は平和になったの。
でも、私は悠さんに会うまで、きっと怖い軍人さんなんだって思ってた。だって、戦争に行く時は、私のお父さんも普段は優しいのに、怖い顔をしてたんだもの。だから、一番偉くて一番強い人は一番怖い人なんだろうなって思ってた。
悠さんと初めて会ったのは、街の外にある銀木犀の木の下だった。その花はお父さんが好きだった花で、お供えしてあげたかったの。え?ああ、うん、私達のお父さんは死んじゃったんだ。明がまだよく覚えていないくらいの時に。ふふ、いいよ、謝らなくて。
その時、私は明を追いかけてて、明が転んで怪我をしちゃった所を治してくれたのが悠さんだったの。私はお顔だけは知っていたからとっても緊張したよ。悠さんは殆ど感情を表に出さない人だから、最初はやっぱり怖い人だと思ったの。でも、悠さんは私達の話をちゃんと聞いてくれて、高くて手が届かない所にある銀木犀の花を取ってくれたの。
そして私に銀木犀の花言葉を教えてくれたわ。私、びっくりしちゃった。怖そうな軍人さんが、お花の事を知ってるなんて思わなかったし、お父さんがなんでお母さんに銀木犀を渡してプロポーズしたのかも、その時初めて分かったの。
銀木犀の花言葉は・・・『初恋』なんだって。
私、それを聞いた時凄く嬉しかった。お父さんがお母さんの事を凄く好きだったんだって分かったから。
だから、私は・・・
そこまで話して、恵は自分の想いをポロっと口走りそうになり、慌てて気を引き締めた。
「そ、それが私達姉妹が知っている悠さんの事なの。だから、私と明は悠さんの事を信じてるのよ」
「そうだったんですか・・・」
小雪はその話に溜息をついた。まるでお話しの中に出て来る人みたいだなと思ったのだ。
「これから私達はしばらくはこの世界で生きていかないと駄目みたい。でも、きっと悠さんが私達を元の世界に帰してくれるよ。だって、悠さんがそう言ったんだもの。だから、私達は私達に出来る事をして、悠さんを助けてあげよう?」
「は、はい!わたしに出来る事なんてそう多くないですけど、でも、いっしょうけんめいがんばります!」
「わたしも~、ママがちゃんとお礼はしっかり返しなさいって言ってたし~」
「おふろのおんはぜったいに返すよ!」
男子も女子も初めての皆でのお風呂で、しっかりと絆を深めたのだった。
恵以外皆幼児体型だから、特にその辺は書いていません。真っ平らですよ皆。せめて5年待ってあげて下さい。